こんにちは。水曜日を担当する日経バイオテク編集長の橋本宗明です。
 
 本日午前中に厚生労働省の新型インフルエンザ専門家会議が開催され、現在備蓄している新型インフルエンザワクチンを、大流行(パンデミック)の前にプレパンデミックワクチンとして事前接種することが了承されました。計画では、年度内に医師や検疫官から6400人の希望者を募って臨床研究として接種。効果を確認した上で、接種対象を1000万人に拡大することを検討するとのことです。
 現在、国内では原液の形で2000万人分の新型インフルエンザワクチンが備蓄されています。ただ、実際にパンデミックが起こるとすると、事前に準備したものとは株が異なるわけですから、プレパンデミックワクチンが実際に感染予防に効果を発揮するためには、交叉感染防御効果がなければなりません。新型インフルエンザワクチンとしては、北里研究所と阪大微生物病研究会の製品が既に承認されていますが、ヒトに対して交叉感染防御効果を有するかどうかは確認されていません。臨床研究では交叉感染防御効果を確認することも重要になるでしょう。
 また、プレパンデミックとして接種する対象者についても、広げる方向で議論する方針のようですが、北里研、阪大微研の製品とも、承認時のフェーズII/III臨床試験はそれぞれ300人に対してしか実施されていません。しかも、20歳未満の若年層と、65歳以上の高齢者に対する臨床試験も実施されていないので、対象を広げる場合には、小児や高齢者に対する有効性や安全性を慎重に評価していく必要があるでしょう。特に、新型インフルエンザワクチンの臨床試験では、通常のインフルエンザワクチンに比べて強い局所反応が認められているだけに、プレパンデミックとして利用する場合、対象をどこまで広げるかについては慎重な議論が必要なように思われます。
 
 いずれにせよ、既に承認を受け、備蓄を開始している新型インフルエンザワクチンを、具体的に感染防御にどうやって有効利用していくかの検討が動き始めたわけで、それはそれで関係者の努力を評価したいところです。
 
 その上で、さらに検討していただきたいことがあります。現在の新型インフルエンザワクチンは、国立感染症研究所と各ワクチンメーカーなどが共同で開発を進めてきたものですが、パンデミックインフルエンザに対してどのぐらい有効かは未知数です。どんなウイルスがパンデミックとなるかが分からない以上、もっといろいろなワクチンを承認して、選択肢を広げておくことも有効な方法だと思います。
 
 本日の専門家会議では、実際に流行したウイルス株を用いて短期間でワクチンを製造できるよう、細胞培養ワクチンを導入することが議論されたようですが、それも1つの方法です。あるいは、4月10日に日経バイオテク・オンラインで記事にしましたが、UMNファーマというベンチャー企業が遺伝子組み換え新型インフルエンザワクチンの治験を国内で6月にも開始する計画です。このワクチンも、製造に要する時間が短いので、こうしたワクチンの有効性、安全性および有用性を評価し、いいものであれば利用できるように承認しておくことが重要だと思います。
 
 それから、現在、承認された新型インフルエンザワクチンはすべて国家備蓄に回されていますが、アジアで事業展開している企業には、独自に備蓄を行いたいというニーズがあるかもしれません。そうしたニーズに対して、国内で製造されたワクチンを供給することができるのか。あるいは、国家備蓄以外に供給する余裕がないというのであれば、個人輸入のような形で企業が独自に海外のワクチンを輸入し、社員などに対して利用していくことを認めるのかどうか。こういうことも議論していく必要があるように思います。
 
 明日、明後日と、日本感染症学会の取材に行くので、新型インフルエンザワクチンの利用方法などに関して、専門家の議論を聞く機会があるかもしれません。興味深い議論があれば、日経バイオテク・オンラインなどで記事にしていきますのでお楽しみに。
 
                     日経バイオテク編集長 橋本宗明
 
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「糖鎖サプリには気をつけよう」と米糖鎖生物学学会が注意勧告、日本糖質学会の理事会でも議論進める。
糖鎖オールジャパンの特集号「BTJジャーナル」08年3月号をご覧ください。
「BTJジャーナル」のダウンロードはこちらから
→ http://biotech.nikkeibp.co.jp/btjjn/
「BTJアカデミック」はこちらから
→ http://biotech.nikkeibp.co.jp/senmonn/btj_aca.jsp 
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 「糖鎖サプリには気をつけるべき」という注意勧告を、米Society for Glycobiology(米糖鎖生物学学会)が先に発表しました。
 「学会はこれを承認していないこと」「医師と相談をしてから使用すること」という内容を含んでいることを、2008年1月25-26日に有楽町マリオンで開催された文部科学省特定領域研究「糖鎖によるタンパク質と分子複合体の機能調節」研究成果公開発表シンポジウム「第3の生命鎖:糖鎖の謎が今、解る」で、「生活習慣病およびquality of lifeと糖鎖」の座長を務めた谷口直之・大阪大学名誉教授/大阪大学微生物病研究所教授/理化学研究所フロンティア研究システム・システム糖鎖生物学研究グループ・グループリーダーが紹介なさいました。
 
 日本糖質学会の理事会でも議論の対象となっています。
 
 詳しくは「BTJジャーナル」08年3月号P.4-8の「糖鎖オールジャパン」特集記事をご覧ください。
 
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「BTJジャーナル」08年3月号(第27号)の目次を紹介します。
 
2 連載「大学は今」第3回
進化迫られるテニュアトラック制

4 特集リポート
糖鎖オールジャパン体制
谷口直之・阪大教授・理研GD
成松久・産総研センター長

9 BTJアカデミック・ランキング

10 専門情報サイト「FoodScience」

11 社告 日経BP技術賞

12 連載「サイコムキャリアプロジェクト」第2回
自分を「見える化」

16 連載「遺伝統計学へようこそ!」第13回
関連性を評価する方法

20 広告索引

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                           BTJ編集長 河田孝雄