年度末を迎え変化の多い時期ですが、皆様お元気でお過ごしでしょうか?
 
 私の方はお蔭様で元気にしており、2月1日から2泊3日で沖縄にテニス合宿に行って参りました。近所の方々と長年毎週1回テニスをしていますがちょうど1月末に1500回を数え(数十年かかって)、それを記念しての旅行でした。雨の多い時期でしたが、晴れ間も出て予定通りテニスを楽しみました。
 さて、今回は国際動向を2件、ご紹介いたします。
?.「日英システムバイオロジーワークショップ」で、英国の大きな取り組みが紹介
  されました。更に、主要な医薬会社からシステムバイオロジーによる医薬開発の
  事例が発表されました。
?.他に、システムバイオロジーによる注目すべき成果が次々と各誌に発表されて
います。
 
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?.「日英システムバイオロジーワークショップ」
FCSB参加報告(システムバイオロジーの挑戦-保健・医療のパラダイムシフト)
日時:2008年2月 4日-6日
場所:東京国際フォーラム
名称:FCSB (Future Challenges for Systems Biology) 
主催:BBSRC(英), JST(日)
内容:
日英が中心となってシステムバイオロジーの今後の挑戦課題を討議する3日間のワークショップが開かれました。今回は特に、システムバイオロジーのアプローチによって、保健・医療分野にどのような変革が起ころうとしているか、またそのためにどのような課題が解決されなければならないかが討議されました。最後に声明文が作成されました。次回は、環境・エネルギー問題を討議する予定。
概要:
基調講演3件(Drs.H.Kitano, A,Henney, H.Westerhoff) と、講演25件に加え、2回の討議時間が設けられました。参加者は約100名でその中40名が海外からの参加者でした。特に英国システムバイオロジー6センターの代表研究者がそれぞれその研究体制と研究成果を紹介し、またそのグラント元であるBBSRCの全体説明で、英国がこの分野に力を注いでいる状況がはっきりしました。その他に、ドイツ・オランダ・スペインなど欧州及び日本・韓国の研究や動きも紹介されました。
 今回は2/3以上が医療関係のテーマで、医薬会社Astra Zeneca, Pfizer, Novoやベンチャー会社Entelos, CombinatoRx 等を含め、糖尿病・感染症・肝炎・結核などにおける創薬・治験への応用が紹介され、特に多数のターゲットの発見と複合投薬の可能性がいくつか具体的に示されました。
 討議及び声明文で、システムバイオロジーが医療分野で新たな変革を起こす可能性を確認・強調し、そのためには、様々な生命システム(基本システムから疾病システムまで)の深い理解を異分野融合研究(英国6センターはその好例)によって加速する必要があること、更には、国際協力が必要であることが示されました。
 
 特記事項を以下に列挙します。
1.英国BBSRC は、システムバイオロジー推進のために 2004年以降 6つのシステムバイオロジーセンターを設立してきたが、それ以外にも中小規模研究を支援しており、合わせて 85 Mポンド(約180億円) を投じている。研究・人材・基盤を強化し、この分野での国際的な立場を狙っている。
2.D.Kell 及びH.Westerhoff がリードしているマンチェスターセンターでは、酵母の成長制御を予測するモデルの構築を進めていると同時に、医薬の副作用回避を設計できるためのヒトの代謝モデル開発をしている。
 (Nature Review Drug, March, 2008 in press) 
3.エジンバラセンターの Goryanin 所長は、センターの構成と研究事例を示した。特に、ヒト代謝ネットワークの構築(Molecular Systems Biology 3, 135-, 2007)、複合投薬(Drug Discovery Today, 2008, in press)、 NSAIDの安全投薬の事例が注目された。また、遺伝子制御と代謝の2段ネットワークの表示は目新しいものであった。
4.New Castle の Institute for Aging のシステムバイロジーセンター T.Kirkwood のグループからは、ヒト・マウス・酵母の細胞を使って、ミトコンドリア・テロメア・タンパク質などへの各種刺激の影響を異分野融合研究で総合的に進め、老化と疾病の解明に迫っていることが紹介された。
5.Nottingham の Center for Plant Integrative Biology の Nick Monk から、Arabidopsis の根の成長のモデル化を進めている状況が紹介された。20数名の研究者は植物とIT・数学・工学が半々である。
6.ドイツの肝臓細胞プロジェクト”HepatoSys”の中で、解毒代謝機構(Detoxicification Metabolism) を研究するグループ(代表:M.Reuss教授、12チームで構成)では、特定の医薬に対するチトクロームP-450 の応答が予測できるモデルを開発した。
 “HepatoSys” プロジェクト全体は、今後 分子から細胞レベルに移していくことになるとのことである。
 ドイツでは、新たなシステムバイオロジー(神経・がん・心臓を対象)のプロジェクトが始まる予定である。Helmholtz 財団の寄付によるもので、30ME規模、5月までにパートナーを募るとのこと。
7.システムバイオロジーの理論的な面では、北野氏の “Robustness” の主張が広く受け入れられているが、H.Westerhoff が逆の捉え方として “Fragility” を挙げたことも面白いことであった。
 畠山氏のシグナル伝達と転写の協調制御メカニズムの解析も注目された(in press)。
(以下には企業の動きを記します)
8.Pfizer のDr.P.Hensley は、?型糖尿病の新薬開発のためのインシュリン抵抗性解析の総合的なシステムバイオロジーアプローチ(転写、遺伝子発現、リン酸化、ケミカルジェネティクスなど)を示した。
9.AstraZeneca の Dr.A.Henney は、これまで5年ほどシステムバイオロジーを推進してきた経験を踏まえ、その有用性・将来性を強調した。特に Bottom up,Top down に加え、Middle out のアプローチが実際的であること示し、4つの成功事例 (B/EGFR-肺ガン薬、T/バイオマーカー、M/神経伝達系、M/複合投薬) を紹介した。最後に、学界・ベンチャーとの共同開発の必要性を説いた。
10.Novo 社基礎研究所の Dr.P.Meyts は、糖尿病の研究にシステムバイオロジーが必須であること(シグナル伝達、転写制御、GWAS、エピジェネティクスなどすべてを考慮すること)を強調し、それによって新たな創薬ターゲットを見つけ(11遺伝子中既知4)、複合投薬が可能になることを示した。
11.Entelos 社は、Top down アプローチによる糖尿病患者標準モデルを、大手医薬会社にテーラーメイドしていることを示した。それらのモデルは創薬ターゲットの同定に使われる以外に、治験段階のコスト削減に使われていることを明らかにした。
 以上を総合して、北野氏が開会基調講演で述べたシステムバイオロジーの医療分野への適用、特にネットワークシステムの深い理解に基づく複合投薬の現実化で、正に「新たなパラダイムシフト」に突入し始めていると実感しました。
 
 尚、日本側からは北野氏の基調講演以外に、守屋(がん研)、畠山(理研)、泰地(理研)、黒田(東大)、小田(エーザイ)の各氏から最新の研究紹介がありました。また韓国 Dr.S.Lee(KAIST) のメタボライトの研究、イスラエルのDr.Z.Kam の細胞可視化とスクリーニングの研究発表も注目されました
 
?.上記のワークショップ以外に、ここ数ヶ月の注目事例をいくつかご紹介しましょう。 
1) 生きた細胞生理を予測する転写制御モデルの例が発表されました。
     . Cell 131, 1354-1365, Dec.28, 2007 
ISB (Inst. for Systems Biology) の L.Hood, N.Baliga 等は、好塩菌 NRC-1 (2.6Mbp, 2400 Genes)を使って、各種の転写因子及び環境因子の変化に細胞が応答する様を予測できるモデルの構築に成功しました。これには、遺伝子発現・タンパク質相互作用ほか各種のオミックス実験と、ネットワーク解析・コンピュータモデリングの組み合わせによるシステムバイオロジーのアプローチが使われました。
 72種の転写因子(TF) と 9種の環境因子(EF) の変化に対する 1929 遺伝子(80%)の応答を予測するモデル EGRIN を開発しました。 環境因子は酸素、日光、遷移金属、紫外照射、ガンマ線照射などです。
 
 このモデルを作るために、226 回 のマイクロアレイ発現実験を行い、モデル検証のために 147 回 の同実験をしています。その実験手順を詳細に示しています。
 この過程で、既知の情報に新たな情報を加えることが出来たとしています。
  (例1.NRC-1 のエネルギー産生プロセス、 例2.既知プロセスの新しい制御機構11種、 例3.複数プロセスのクロストーク)
 このようなアプローチ (Data-driven Systems Approach) は、新規のシークエンスができた他の微生物・細胞にも適用可能であると言っています。
 
 2) 線虫において遺伝子摂動による表現型の変化が統一した遺伝子ネットワークによって予測できることを、欧米連合チーム(テキサス大、サンガー研、EMBL,スペイン)が発表しました。
I.Lee, E.Marcotte et al; Nature Genetics 40, 181-188, Feb. 2008 
 
 これは、一つの生物の全遺伝子を含む統一ネットワークによって、遺伝子ノックアウトや変異による表現型の変化を予測できるようにしようという野心的な試みです。
 線虫を対象として取り上げ、遺伝子発現やたんぱく質相互作用など様々な実験データ約2千万点を統合して、信頼度高い部分に絞って約12千遺伝子(約63%)間の約11万リンクを持つネットワークを作り上げました。そして、この統一ネットワークによって、?必須遺伝子の同定、?RNAi による表現型変化の予測、および?未知遺伝子の同定ができることを示しました。
 
 このようなアプローチが今回、多細胞にも適用可能であることを示したことは画期的でしょう。まだ全遺伝子をカバーしていないので不完全ですが、このネットワークモデルは今後 未知遺伝子や新規ネットワークの発見などに威力を発揮するでしょう。
 
 以上ふたつの例は、膨大な実験データを基に一生物丸ごとのモデルを作り上げ、刺激応答を予測できるようにしようとするもので、まだ完全ではありませんがかなり見通しがよくなったと言えるでしょう。このようなアプローチが古細菌から多細胞へと次第に上がっていく気配を感じます。
 また、ショウジョウバエの分節過程での時空間発現パターンの解析についての、Segalらの発表も注目に値します。Nature 451, 535-541, Jan.31, 2008 
 
 今回取り上げませんでしたが、酵母については早くからこのような解析が先行しています。植物も含めて、システムバイオロジーのアプローチは益々盛んになっていっていることを実感しております。
 皆様お元気でお過ごし下さい。
 
                           2008年3月 八尾 徹
                              理化学研究所
                        (兼)産業技術総合研究所
                         (兼)科学技術振興機構
 
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メタボ対策には都市型生活がやっぱり優れている!!
今週は、ライフスタイルと歩数計を話題にします。
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 毎週金曜日のメールで編集部原稿を担当しておりますBTJ編集長の河田です。
 
 米カリフォルニア州のAnaheimから今週火曜日に日本に戻ってきました。米アナハイムコンベンションセンターで開かれた「NATURAL PRODUCTS EXPO WEST」を先週木曜日(3月13日)から日曜日(3月16日)まで取材しました。
 
 「NATURAL PRODUCTS EXPO WEST」は、オーガニックなど自然の恵みをもとにした食品・サプリメントや化粧品などの商品や素材を展示する、世界最大のイベントです。
 出展者数は3000を超えるということで、単純計算すると1コマ当たり20秒という、たいへんな規模です。かなりの運動量を見込めるということで、今回は、歩数計(オムロン「Walking Style」)をずっと腰のベルトのところにつけておき、歩数をカウントしました。
 
 メーンの展示会が開催された3日間(金曜日から日曜日)のうち、ホールフーズをはじめ、店舗見学のため会場から数時間離れた土曜日を除き、金曜日と日曜日はまる1日、展示会取材三昧でした。
 展示品の試食でお腹も満たされるために、昼食をわざわざとる必要もなく、朝10時から17時までほぼ立ち話の連続、というわけで、1日で2万歩くらいいくのでは、メタボリックシンドーム対策になりそうだ、とかなり期待していたのですが‥‥‥ 
 その結果はというと、以下の通りでした。
3月13日(木)4906歩(うちEx 592歩/5分)
14日(金)7936歩(うちEx 592歩/5分)
15日(土)8277歩(うちEx 582歩/5分)
16日(日)9028歩(うちEx 254歩/2分)
17日(月)1万1896歩(うちEx 619歩/5分)
18日(火)3408歩(うちEx 114歩/1分)
19日(水)1万3764歩(うちEx 6265歩/51分)
 
 まる1日、アナハイムの展示会を取材しても、たかだか1万2000歩足らずでした。
 
 13日と18日が少ないのは、成田とロスの間を飛行機で移動していたためです。13日は成田からロス国際空港に移動した日で、アナハイムコンベンションセンターではセミナーを聴講してメーンの展示会場を下見して、オーガニックのテント展示会場をぐるっと回ったので少し多めになってます。
 
 一番下の19日は、東京に戻ってからのデータです。タクシーは使用せず、地下鉄やJRなどで移動して、都内で3カ所ほど取材したところ、1万3000歩を超えました。
 
 さらに注目して欲しいのは、それぞれの日の歩数の右にあるカッコの中のEx(エクササイズ)の数値です。
 
 この数値の詳しい定義は、オムロンの製品説明を見なければいけないのですが、ただいま手元にないので、とりあえず、ある一定強度以上の運動量を伴う歩数と、その相当時間ということと思います。
 
 アナハイムでは、Exの数値が1日あたり600歩、5分前後だったのですが、なんと都内ではこの10倍の量に跳ね上がりました。
 
 車社会の地方都市に比べると、東京は自然にエクササイズできる街、ということはメタボ対策のシンポなどでよく聞く話なのですが、今回、改めて、その効用を歩数計の数字で実感できました。
 
 アナハイムコンベンションセンターでは、ほぼ1日立ち話とはいうものの、宿泊所とセンターとの間はタクシーで移動してましたし、なるほどという感じです。
 
※BTJ関連記事
Oligonolでアミノアップ化学が米NutrAwardを2回目受賞、
10回のうち5回は日本企業
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/1354/
 
米NATURAL PRODUCTS EXPOでプロバイオティクス展示急増、ヤクルトが初展示、
米Dannon社の集団訴訟も各ブースで話題に
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/1279/
 
世界最大の健康素材展示会が米Anaheimで開幕、ガイドブック裏表紙は協和発酵の
発酵法シチコリン、カナダ社ω3も
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/1259/

 続いて、先月から月500円でアカデミア関連のBTJ記事を読み放題という新サービス「BTJアカデミック」について、ここ1週間(3月14-21日)のアクセスランキングトップ5を発表させていただきます。

 下記のように、日本再生医療学会からの特報記事が好評でした。「BTJアカデミック」の検索窓から、文字列検索して該当記事をお楽しみください。

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1位)日本再生医療学会、iPS細胞の臨床応用視野に入れたシンポジウム開催、血小板製剤の開発や神経再生などの可能性探る

2位) 日本再生医療学会、「特許の問題がiPS細胞の実用化の障害になる」と阪大の森下教授

3位)「疲労学会のガイドラインは抗疲労トクホの指標にはならない」と審査委員全員で一致、トクホ審査委員の飯野久和・昭和女子大教授が言及

4位)内閣府、BT戦略推進官民会議、
5年ぶりにバイオテクノロジーの推進戦略の刷新へ検討を開始
5位)日本再生医療学会、経産省倉田生物化学産業課長、政府資金によるバイオベンチャー支援を求める声に対して考えを説明

 最後に、先月末に発行・公開した「BTJジャーナル」08年2月号(第26号)の目次を紹介します。

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2 連載「大学は今」第2回
激化する博士の経済支援競争

4 リーダー・インタビュー
国際ヒト常在菌ゲノムコンソーシアム
服部正平・東京大学教授

6 特集リポート
進化するDNAチップ
ChIP-chipをヒト全ゲノムに初応用
白髭克彦・東京工業大学教授

10 リポート
文科省ターゲットタンパク初シンポ

11 新連載「いいともバイオインフォマティスト」第1回
 黒川顕・NAIST准教授

13 新サービス「BTJアカデミック」開始
14 専門情報サイト「FoodScience」

15 連載「サイコムキャリアプロジェクト」第1回 若手理系人に必要なのは論理力を汎用化すること

19 連載「遺伝統計学へようこそ!」第12回 家系情報がない集団を対象に「ありふれた」疾患の研究

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                         BTJ編集長 河田 孝雄