こんにちは。水曜日を担当する日経バイオテク編集長の橋本宗明です。
 
 今日は、輸血用血液製剤の不活化技術に関する厚生労働省の委員会の話です。輸血用血液製剤に含まれるウイルスや細菌を含めた微生物を不活化する技術については、バイオベンチャーのバイオワン(東京・文京、下坂皓洋社長)が日本およびアジアへの導入を計画してきた関係で、これまでにも何度か取材する機会がありました。不活化技術とは、血液中に含まれるウイルスや細菌、原虫などの感染因子
(および移植片対宿主病の原因となる白血球)を減少させる技術で、日本赤十字社がNAT(核酸増幅検査)を導入しているB型肝炎ウイルス(HBV)やC型肝炎ウイルス(HCV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)だけでなく、新興のウイルスや未知の細菌なども対処できるものです。現在、欧州やアジアで輸血用血液製剤に対して導入が進められつつあります。日本でも04年に日赤が「導入を検討する」としていたのですが、導入するかどうかの結論はまだ出ていません。この技術に関して、厚労省の薬事・食品衛生審議会薬事分科会血液事業部会運営委員会安全技術調査会合同委員会で評価を開始するというので2月27日に取材に行ってきましたが、委員からの発言の多くが「導入は慎重に検討すべき」という趣旨のもので、少し肩透かしを食ったような印象を受けました。
 
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/0839/
 もちろん、不活化処理に化合物を利用する場合、その安全性の問題もあるし、不活化処理によって血液製剤の機能にも影響が出る可能性があるということなので、「慎重に検討すべき」という意見が出るのも分かります。ただし、既に海外で承認を受けているものについては安全性の問題もある程度評価されていると考えていいはずですし、詳細については今後、治験を実施し、そのデータに基づいて評価されることではないでしょうか。その前段階の議論で「慎重に」と繰り返していては、単に治験の開始を遅らせることになるのではないかと思われました。
 
 ある委員は、「(不活化技術の導入による)患者の利益が判然としない。血小板製剤や血漿製剤のユーザーがどのようなリスクにさらされていて、不活化技術の導入がどれだけの利益があるのかを踏まえて導入を検討してもらいたい」と指摘していました。この指摘ももっともで、その観点で言えば委員会では議論するためのデータが十分ではなかったといえるでしょう。
 
 特に、日赤は04年から不活化技術の導入を検討してきたとのことだったので、日赤が示したデータが各不活化技術のメーカーの資料と文献情報をまとめたものだけだったのにはちょっと驚きました。その後、日赤に確認したところ、「各技術の比較試験を行うなど、評価は大体終わっているが、27日の委員会が公開だったので説明しなかった。公開できないデータも含まれているので、非公開の場で報告する」とのことで、日赤が5年間何もしていなかったわけではないことは分かりました(日赤の検討状況については、また別の機会に取材をして紹介させていただくことにします)。
 
 ただ、いずれにせよ委員会を傍聴して強く感じたのは、こういうやり方をしていては新しい技術の導入に日本だけ取り残されるのではないかということです。委員会では、米国は不活化技術の導入を検討しているところで、「承認はない」と紹介されていましたが、実際には米国ではフェーズIIIまで進んでいます。米国で承認されてから慌てて日本で導入に動いても、改めて治験を行っていると何年もの「タイムラグ」が生じるのは明らかです。海外で不活化技術を導入しているのは感染症が蔓延している地域といった説明もありましたが、日本でもいつ新興の感染症が猛威を振るい始めるか分かりません。今の日本では、輸血に伴う感染症に対する対策はある程度講じられていて、大きな問題はないということかもしれませんが、それでもいざと言うときのために不活化技術をいつでも使えるように、治験などを行っておくのは重要だと思います。
 
 これは厚労省の別の委員会の話ですが、骨髄バンク事業に末梢血移植を導入するかどうかの議論も聞きました。骨髄移植に比べてドナーの負担が少ない末梢血幹細胞移植の導入について、委員会での審議は02年に始まりましたが、「長期の安全性についてはデータがない」ということで、学会がフォローアップを実施し、3月7日に開かれた委員会で、学会からは「骨髄バンクでの実施に向け早急に準備をすることが妥当」とする報告が行われました。この間、海外では末梢血幹細胞移植の普及が進み、現在、米国では骨髄バンクにおける移植の半分以上を末梢血幹細胞移植が占めています。3月7日の委員会では委員長から、骨髄移植推進財団に具体的に検討を始めるよう求める声が出ていましたが、「速やかに導入しなさい」というのではなく、「時間がかかるので、準備をしておきなさい」といった感じでした。
 
 そう考えれば、薬事の手続きを経て、承認されれば導入できる医薬品や医療機器はまだましなのかもしれません。新しい技術の導入に委員会での議論が必要といった場合に、どのようなデータで持って評価し、導入を決めていくのか。イノベーションを受け入れる社会にするためにはまだまだ課題は多そうです。
 
                     日経バイオテク編集長 橋本宗明
 
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「末は博士か大臣か」から
全入時代に突入した、大学の博士課程
BTJジャーナルの連載「大学は今」第2回は
博士の経済支援制度
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 「末は博士か大臣か」が、子供の将来の理想像とされた時代がかつての日本にあったかと思いますが、現代の日本の大学の博士課程は、学生確保のための競争がヒートアップしています。
 博士課程が全入時代を迎えた現在では、行き先さえ特にこだわることがなければ、学生側が選んで博士課程の行き先を決めるという状況になっています。
 バイオ研究者のキャリアアップ/スキルアップにお役立ていただきたい月刊のPDFマガジン「BTJジャーナル」では、「大学は今」連載の第2回で、「急増する博士の経済支援制度」と取り上げました。
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 ぜひBTJジャーナル2008年2月号のP.2-3の記事をご覧ください。
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「BTJジャーナル」08年2月号(第26号)の目次を紹介します。
2 連載「大学は今」第2回
激化する博士の経済支援競争

4 リーダー・インタビュー
国際ヒト常在菌ゲノムコンソーシアム
服部正平・東京大学教授

6 特集リポート
進化するDNAチップ
ChIP-chipをヒト全ゲノムに初応用
白髭克彦・東京工業大学教授

10 リポート
文科省ターゲットタンパク初シンポ

11 新連載「いいともバイオインフォマティスト」第1回
 黒川顕・NAIST准教授

13 新サービス「BTJアカデミック」開始
14 専門情報サイト「FoodScience」

15 連載「サイコムキャリアプロジェクト」第1回 若手理系人に必要なのは論理力を汎用化すること

19 連載「遺伝統計学へようこそ!」第12回 家系情報がない集団を対象に「ありふれた」疾患の研究
 BTJジャーナルは、オープンアクセスに対応した新タイプのジャーナルです。研究や教育、日常生活にご活用いただければ幸いです。
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                         BTJ編集長 河田 孝雄