こんにちは。水曜日を担当する日経バイオテク編集長の橋本宗明です。
 今日は午後から米国大使館で予防医療のセミナーを取材しつつ、休憩時間に原稿を書こうと思っていたのですが、大使館の受付でパソコンやカメラなどの電子機器一切を預けなければならないことが判明しました。事前に案内状をよく読んでいなかったので失敗しました。BTJメールに穴を開けることになるので、セミナーの前半を聞くのは断念して、大使館近くの喫茶店で原稿を書いています。
 今日は幾つか書きたいことがあったのですが、時間がなくバイオベンチャー支援の話を簡潔に書きます。ここ何回か書いていますが、バイオベンチャーの資金調達難は本当に深刻で、昨夜あったバイオ産業支援の勉強会でもこの話題がひとしきり議論されました。
 
 3月10日発行の日経バイオテクに新日本科学の永田良一社長のインタビューを掲載しますが、永田社長は、「今のこの状況を招いたのは大学発ベンチャーをたくさん作りながらも、その運営を短期で資金を回収しなければならないベンチャーキャピタルの資金に委ねてしまったことにあるのでは」といった趣旨の指摘をしていました。本来は、もっと長期間、政府の競争的資金でインキュベートするべきだったところを、短期で回収しなければならないVCの資金だけに任せた結果、各ベンチャーは今になって資金調達難に苦しむことになったというわけです。
 
 永田社長が指摘していた中で気になったのは、「サイエンスはいいと思っても、たくさんのVCが出資して、株価も高くなり過ぎているため、我々が出資して支援しようにも出資比率が低すぎて指導できない。最初に来てくれればと思うけれど、今からでは手遅れと思うベンチャーが多い」という点です。
 
 ただ、だからといって誰も支援の手を差し伸べなければ、特許を維持する費用も負担できず、せっかく苦労して取った特許を無駄にすることになりかねません。これは一ベンチャーの問題というよりも、国の競争力の問題といってもいいはずです。したがって、国を挙げてこの問題を真剣に考えるべきです。
 
 今必要なのは、財務的に存続は困難だけれども、有望な知的財産権を持つベンチャーにしっかり資金を供給して再生させる仕組みを作ることです。その際、既存の株主との権利が複雑になっては再生に問題が生じるので、再生ファンドが買い取るというのがいい方法かもしれません。
 
 こうしたことを背景に、国で再生ファンドを作って100%株式を買い取り、再生させるスキームも検討されていると聞きます。これは非常にいいアイデアだと思いますが、注意しなければならないことがいくつかあります。
 
 そのうちの1つは、再生ファンドが株式を買い取る価格です。公的資金などをつぎ込む以上は、あまり高い価格で買い取っては、バイオベンチャーに高い株価で投資してきた投資家を甘やかせるだけです。ただ、安く買い取ることなら、民間の再生ファンドなどでもできることでしょう。適正な評価をどうするのかが難しいところでしょう。
 
 もう1つは、こういうファンドの運営に、これまでバイオベンチャーに投資してきたベンチャーキャピタリストなどがどのように関係するか、です。というのも、こういう人材が関係しなければ、どのバイオベンチャーを再生させるべきかを評価することは難しいでしょう。しかし、こうしたベンチャーキャピタリストが、自分の投資先を救いために再生ファンドを利用しようとすると問題があります。利益相反の問題と同じですが、特定のベンチャーキャピタルの投資先だけを有利にするような、お手盛りの運営がなされない仕組みづくりが不可欠だと思われます。
 
 こうした方法の是非についても、また、読者の皆さんと意見交換していければと思います。
 
 今日は実はベンチャーのこと以外に、輸血血液の不活化技術を巡る厚労省の委員会の話を書きたいと思っていたのですが、時間がなくなってしまいました。来週以降に書くのでお許しください。
 
 
                     日経バイオテク編集長 橋本宗明
 
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超高速シーケンサーは情報基盤の整備が必須、電子レンジのような気軽さは思い違い
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 新型の超高速DNAシーケンサーが、あたかも、電子レンジのような気軽さで誰でも扱えるものと考えている研究者がいることにも驚かされる。ポストシーケンス時代になり次々と登場してくる新規ゲノム解析技術を取り入れるスピードは日本は残念ながらアジアの中でも遅れを取っていると言わざるえない──。ChIP-seqの魅力をも知り尽くしたChIP-chipの第一人者、白髭克彦・東京工業大学大学院生命理工学研究科教授は「そういう点をふまえて、慎重かつ大胆に、新規技術の導入を図っていきたい」と抱負を語りました。
 
 詳しくは「DNAチップ」を特集した、BTJジャーナル2008年2月号のP.7-9の記事をご覧ください。
 「超高速シークエンス技術に基づいたChIP-seqを始めとする新しい技術は確かに魅力的であり、かつ、ゲノムの全体像を正確に解析する上でその導入は不可欠。しかし、現在主流となっているゲノム解析技術の全て(DNAチップ技術、プロテオミクス技術等)が本当に使用に耐える技術として確立されるまで相当の労力と時間を要し、それなりの実験基盤を整備することが必要だったことを思い起こして欲しい。新型の超高速シーケンサーも、本当に使える技術とするにはハード、ソフト、ウエット、ドライ、全ての面で新たな試練を経験しなくてはいけないのは明白だ。特に、今まで手にしたことのないような膨大な情報量、様式のデータが短期間に産出されるため、新たな情報基盤の整備は必須」と警鐘を鳴らします。
 
 「大学の1研究室で研究できるコストパフォーマンスの良さの点で、ChIP-chipの優位は動かないのでは。ヒトのようにシンプルな繰り返し配列が多いゲノムは、ユニークな配列ほど判別しやすいDNAチップでは解析しにくい部分があるので、シーケンサーの魅力は大きい」と白髭教授は語りました。
 
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「BTJジャーナル」08年2月号(第26号)の目次を紹介します。
 
2 連載「大学は今」第2回
激化する博士の経済支援競争

4 リーダー・インタビュー
国際ヒト常在菌ゲノムコンソーシアム
服部正平・東京大学教授

6 特集リポート
進化するDNAチップ
ChIP-chipをヒト全ゲノムに初応用
白髭克彦・東京工業大学教授

10 リポート
文科省ターゲットタンパク初シンポ

11 新連載「いいともバイオインフォマティスト」第1回
 黒川顕・NAIST准教授

13 新サービス「BTJアカデミック」開始
14 専門情報サイト「FoodScience」

15 連載「サイコムキャリアプロジェクト」第1回 若手理系人に必要なのは論理力を汎用化すること

19 連載「遺伝統計学へようこそ!」第12回 家系情報がない集団を対象に「ありふれた」疾患の研究

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                         BTJ編集長 河田 孝雄