こんにちは。水曜日のBTJメールを担当する日経バイオテク編集長の橋本宗明です。
 とある再生医療ベンチャーの経営者から、以下のようなメールをもらいました。長くなりますが、当事者の了解を得て以下に引用します。「」でくくった6段落分が引用文です。
 「先日、バイオベンチャー関係者と議論しましたが、バイオ・再生医療系ベンチャー企業の倒産続発の予感がするとの認識で一致しました。幾つか問題点がありますが、以下の3点が主要な問題として挙げられます。
 
 第一は、先行した上場企業の株価低迷とサブプライムローン問題による市場の悪化です。
 第二は、昨年バイオ専門の看板を掲げたベンチャーキャピタルで社長交代がありましたが、これはLP(リミテッドパートナー)が何時までも成績が上がらないGP(ジェネラルパートナー)を更迭したと理解されているようです。LPは銀行系が多いので彼等に権限が移るとますます投資は冷え込むでしょう。弊社もこの影響をもろに受けています。
 第三にビジネスモデルの誤解です。全く異なるビジネスモデルである創薬ビジネスモデルと再生医療ビジネスモデルが混同されています。ベンチャーキャピタルの断り文句に必ずパイプラインが一つしかないから成功が覚束ないと言われます。でもどこの再生医療系ベンチャーのほとんどが一つの製品を追っているのではないですか。
 創薬モデルは、途中まで仕上げた半製品を他社に売り、その対価を得るビジネスであると思います。最終製品化への責任は持ちません。又、得られる対価も数億円であり、1回で終了するケースが多いので多くのパイプラインが必要です。
 一方、再生医療ビジネスモデルは、熱傷に使用する自家培養皮膚、角膜等、製品の帰結とユーザは予め決まっており、市場性や価格帯の他、その製品に要求される内容もわかった上で開発が成されます。又、製造承認を得て販売するまでがビジネスモデルです。マーケットニーズを知った上で開発するのですから多くのパイプラインは不要です。あえて再生医療のパイプラインというなら、メインマーケットに関連する派生製品の開発や性能向上のアイデアではないでしょうか。」
 この再生医療ベンチャーは、現在、資金調達をされているのですが、ベンチャーキャピタルからの融資がなかなか引き出せないと苦悩されています。第一の指摘は“地合い”というものがあるので仕方ないとして、第二の指摘は深刻です。日本でバイオベンチャー投資が本格的に立ち上がってきたのが2000年前後だと思いますが、そのころに相次いで設立されたバイオ投資ファンドの成績がそろそろ問われようとする中で、「バイオは駄目だ」という烙印が押されようとしているのかもしれません。最近、製薬企業などからベンチャーキャピタルなどに転職した人から、「バイオ産業育成の仕事をしたかったのに、上司から『もうバイオは結構だ』といわれる」といった話を聞きます。
 しかし、考えてみてください。大学発ベンチャー1000社を掲げた政策が、経営リソースの分散という事態を招き、結果としてバイオ産業育成にマイナスとなったことは今や誰もが認めることでしょう。ただ、これも日本がバイオ産業の創出にまだまだ不慣れだったためで、ベンチャー同士のM&Aなどを通じて、徐々にリソースの集約化を図る動きもあります。確かに、日本のバイオベンチャー投資は、最初の10年は期待したような成果を示せなかったかもしれませんが、次の10年に向けて、問題点を修正しながら体制を整えつつあるところではないでしょうか。キリンビールや富士フイルムといった異業種大手が医薬やバイオに積極的に投資するのはその可能性を見て取ったからだと考えます。欧米ではバイオベンチャーに投資される資金は増加する一方なのに、日本だけ投資意欲を冷え込ませていては、将来の国際競争力が本当に不安になります。投資にかかわる人たちには、そのあたりを考えてもらいたいものです。
 
 それから、第三の問題として指摘されている「再生医療のビジネスモデルに誤解がある」という件も、もっともな部分があります。創薬ベンチャーと再生医療ベンチャーの違いと単純化してはいえませんが、化合物の権利を導入し、外注で製造し、開発をマネジメントすればいいというビジネスモデルの会社と、自前でGMP(医薬品の製造管理と品質管理に関する基準)を満たした製造を行い、開発を進めようとしている会社とでは、仮に開発ステージが同じでも資産と実績に大きな違いがあるはずです。そのあたりを評価してもらえないことに対する、この経営者の憤りもよく分かります。
 
 いずれにせよ、日本では、再生医療製品として承認されたのがジャパン・ティッシュ・エンジニアリングの自家再生表皮だけで、しかもまだ販売はされていない状況では、再生医療のビジネスモデルをなかなか理解しにくいかも知れませんが、本日の日経バイオテクオンラインで報じたように、再生医療の承認審査にかかわる規制が変化しつつあるのも事実です。
 
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/0652/

 創薬でもそうですが、再生医療でも、急速に投資マインドが冷え込んだ結果、多額の資金を調達しなければならない段階に来た、開発ステージの進んだ会社ほど、倒産の危険性にさらされているというのは本当におかしな気がします。
 今日はたまたまベンチャーの経営者の方からメールをいただいたので、その紹介をさせていただきましたが、国内のバイオベンチャー投資の冷え込み方は、海外の状況から見て少し異常です。そうした話は、来週以降に再び書きたいと思います。
                     日経バイオテク編集長 橋本宗明 
 
 ご意見がありましたら以下のフォームからお願いします。
 
https://bpcgi.nikkeibp.co.jp/form-cgi/formhtml.cgi?form=ask_pass4/index.html
 
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「タイヨウのうた」と超高速DNAシーケンサー
DNAポリメラーゼを特集した「BTJジャーナル」08年1月号(創刊2周年)をこのほど発行・公開
「BTJジャーナル」のダウンロードはこちらから
→ http://biotech.nikkeibp.co.jp/btjjn/
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 「高発がん性遺伝病細胞を用いた遺伝情報維持機構の解明」の業績で、第37期(2007年度)内藤記念科学振興賞(関連記事2)を受賞なさった花岡文雄・学習院大学理学部教授・大阪大学名誉教授の受賞記念講演会が本日(08年2月20日)午後、経団連会館(東京・千代田)で開かれ、色素性乾皮症(XP)がよく知られるようになった例として映画「タイヨウのうた」に言及なさっていました。
 
■BTJ記事
DNAポリメラーゼηを発見した花岡文雄・学習院大学教授が
第39期内藤記念科学振興賞を受賞、
贈呈式は3月18日、副賞500万円
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/0206/ 
 
 「タイヨウのうた」は2006年6月17日公開の映画(主演:YUI、塚本高史)で、これは当方も観ましたが、このほか06年7月~9月にTBS系列でTVドラマ(主演:沢尻エリカ、山田孝之)も放映されたようです。
 花岡教授の講演の後半は「XP-V相補タンパク質の同定と損傷乗り越え複製機構の解明」で、精製したXP-V相補タンパク質は損傷を乗り越える新規DNAポリメラーゼで、DNAポリメラーゼη(Polη)を発見なさいました。現在では、YファミリーDNAポリメラーゼに分類されています。
 創刊2周年を迎えた「BTJジャーナル」08年1月号では、「新世代PCR」を特集しましたが、この中で、DNAポリメラーゼ研究の最前線を、石野良純・九州大学教授にうかがいました。
■BTJ記事
新世代PCRに貢献へ、石野・九大教授らがメタゲノムで
耐熱性DNAポリメラーゼの伸長活性をTaqポリメラーゼの10倍に
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2004/9870/
 
 ここ1-2年でムーアの法則をはるかに凌駕する速度で急速にスループットが急増している、次世代DNAシーケンサーの開発でも、DNAポリメラーゼ周りの開発が、とても重要な位置を占めているようです。
 
■今月(08年2月)の次世代DNAシーケンサー関連BTJ記事
1時間で1000億塩基読める、
米PacBio社が2010年製品化を発表したDNAシーケンサーが
2月19日のゲノムネットワークシンポでも話題に
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/0654/

沖縄県、補正予算で次世代シーケンサー3台購入決定、産総研も進出
ギガシーケンスでバイオ振興へ
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/0610/

海外重要発表、Helicos BioSciences社、
独自に開発した次世代高速シーケンサーを初受注
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/0500/

海外重要発表、Illumina社、
次世代DNAシーケンサー「Genome Analyzer」を用いてアフリカ人男性のゲノムを解読
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/0351/

 次世代DNAシーケンサーは、BTJジャーナル07年12月号で特集しましたが、昨日(2月19日)の第4回ゲノムネットワークプロジェクト公開シンポジウム「ネットワーク医学・生物学の最前線」で、「細胞の状態の変化と保持を律するゲノムネットワーク」と題して講演した理研GSCの林崎良英さんは、この次世代シーケンサーのもつインパクトを、強調なさっていました。
■BTJ関連記事
遺伝子発現変動の解析では要チェック、
理研が体内時計遺伝子の出力遺伝子をウェブ公開、
「北大とヒト検証も」と上田泰己チームリーダー
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/0679/

1時間で1000億塩基読める、
米PacBio社が2010年製品化を発表したDNAシーケンサーが
2月19日のゲノムネットワークシンポでも話題に
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/0654/
 
コヒーシンがインシュレーターの構築に必要、白髭克彦・東工大教授らが文科省
ゲノムネットワークの成果をNature誌に発表
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/0015/

広辞苑換算で150冊以上の塩基を1日で解読できる、
米Helicos社の次世代DNAシーケンサーのフローセル展示(その2)
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2004/9294/

広辞苑換算で150冊以上の塩基を1日で解読できる、
米Helicos社の次世代DNAシーケンサーのフローセル展示(その1)
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2004/9293/

 ぜひ上記のBTJ記事とともに、BTJジャーナルの記事もお楽しみください。BTJジャーナルは、はダウンロード(無料)していただくと全文をご覧いただけます。

「BTJジャーナル」のダウンロードはこちらから
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※創刊2周年にあたる08年1月号(第25号)の目次は以下の通りです。

2 新連載「大学は今」
阪大が海外企業と初の包括提携
メタボロームで有力マーカー続々

5 リーダー・インタビュー
統合バイオリファイナリー
センターで外部資金獲得へ
 近藤昭彦・神戸大学教授

7 特集リポート
ノーベル賞PCRに新世代
酵素の進化など革新続く
 石野良純・九州大学教授

12 学会コレクション
第4回日本学術振興会賞

13 専門情報サイト「FoodScience」

14 連載「遺伝統計学へようこそ!」
第11回 遺伝継承法則を用いた解析

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                         BTJ編集長 河田 孝雄