水曜日のBTJメールを担当する日経バイオテク編集長の橋本宗明です。
 
 日曜日に英国から戻ってきました。「英国は寒いよ」とさんざん脅されていたのですが、思ったほどには寒くもなく、最後に過ごしたLondonでは澄み渡るような晴天に恵まれ、先週のこの欄に書いた通りのハードスケジュールではありましたが、楽しく取材をしてまいりました。成田空港から都心に向かう間に大雪に見舞われ、日本の方がよほど寒いと思った次第です。
 英国では、幹細胞関連とがん関連を主要なテーマに、研究機関のマネージャーやバイオベンチャー、弁護士などに取材をしてきました。幹細胞に関係する経営者や研究者らの間では、やはりiPS細胞はホットな話題となっていました。
 
 クローン羊「ドリー」の産みの親として知られるIan Wilmut博士がDirectorを務めるScottish Centre for Regenerative Medicineでは、General Managerとして実質的に同センターを切り盛りしているGordon W McLean氏にインタビューしました。その際、iPS細胞について聞いたところ、「ドクター山中の研究は素晴らしい。だけど、Wilmutは、もっと簡単に初期化する方法があると考えているようだ」と言っていました。
 
 ちなみに、Scottish Centre for Regenerative Medicineは、Edinburgh大学の一施設ですが、3月1日に英医学研究評議会(MRC)からCOEの指定を受けることが決まっており、2年後には約6000万ポンドをかけて施設を建設し、研究員も現在の140人から250人に増員するそうです。病院も併設しており、基礎と臨床とが研究できる拠点として、再生医療や幹細胞研究などへの貢献が期待されます。詳細は、追って日経バイオテク・オンラインで記事にしていきますので、ぜひお楽しみに(帰国してから「海外現地報告」というタイトルを書くのも恐縮ですが、英国で取材した内容をこれから幾つかオンラインにアップする予定です)。
 
 iPS細胞の研究に関してもう1つ。これは既にオンラインに投稿した記事ですが、ケンブリッジにあるCellCentric社を訪問した時に、Will West最高経営責任者は、「ドクター山中の発見で、細胞リプログラミングのアイデアが大きく変わった。だけど、リプログラミングのコンセプトは(CellCentric社の創設者である)Cambridge大学のAzim Surani教授が提案したものだ」として、細胞リプログラミングに関与する因子を探索する計画でいることを明らかにしました。彼が言うには、「ドクター山中はES様細胞にまでリプログラミングする技術を発見したが、そこまで戻してしまわなくても、さまざまな段階へのリプログラミングがあるはず。それを起こすたんぱく質や因子を探そうと思っている」とのこと。これはこれでおもしろいアイデアだと思いました。
 
 さて、ベンチャー企業をいろいろと取材して思ったのは、とにかくロンドン証券取引所の新興企業向け市場であるAIMがあるために、会社設立半年とか1年で、まだほとんどアイデアの基礎的な検討を行っているような会社が株式上場して市場から資金を調達できているということです。この点は、日本との違いを痛感しました。 
 しかしながら、「上場した会社の業績が改善せず、株価が低迷しているので、ファンドがバイオからお金を引き上げようとしている」と、日本と同じような状況になりつつあると訴えるベンチャーもありました。また、これも既にオンラインに記事を紹介しましたが、ケンブリッジに本拠を置くStem Cell Sciences社は、AIMに上場したものの株価が低迷したために、創業CEOはCTOに降格され、新CEOの下でリストラを検討しています。上場後に株主から受けるプレッシャーは、日本以上なのかもしれません。
 
 というわけで、少なくとも英国のベンチャー企業が楽に資金調達できている様子ではありませんでした。ただし、“ナノキャリアショック”と言う言葉がささやかれていますが、今の日本のシュリンクした状態はちょっと異常です(詳しくは、日経バイオテク本誌2月11日号のビジネスレビュー欄の記事をお読みください)。英国のベンチャー企業も資金調達は楽ではないと言いながら、逆説的ではありますが、今の金詰りから脱するためには、日本のバイオベンチャーはグローバルに情報発信し、資金調達活動などもグローバルに行っていく必要があるのではないかと思います。
 
                     日経バイオテク編集長 橋本宗明
 
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耐熱性DNAポリメラーゼの伸長活性をTaqポリメラーゼの10倍に
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2 新連載「大学は今」
阪大が海外企業と初の包括提携
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5 リーダー・インタビュー
統合バイオリファイナリー
センターで外部資金獲得へ
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7 特集リポート
ノーベル賞PCRに新世代
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14 連載「遺伝統計学へようこそ!」
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                          BTJ編集長 河田 孝雄