こんにちは。水曜日を担当する日経バイオテク編集長の橋本宗明です。
 今、英国はManchesterからGlasgowに向かう列車に揺られながら、この文章を書いています。再生医療や幹細胞関連のバイオベンチャーを中心に、バイオ産業の状況を取材するため英国にやってきました。といっても、月曜から取材を開始したところで、まだまだ皆さんにご報告できるような体系だった整理はできていないのですが、興味深い話題が幾つかあったので、ここに書いておきます。
 おもしろいと思ったのは、昨日、イングランドの南西部の港町Plymouthにある、修道院を改修して作ったというフェーズ1施設を訪ねた際に聞いた「英国から治験が逃げ出している」という話です。以前は製薬企業の臨床開発の人から、「フェーズ1は英国でやるのが一番早い」と聞いたものですが、状況はずいぶん変わりつつあるようです。
 Veeda Clinical Research社という会社のメディカルディレクターを務めるMaurice Cross医師が挙げた理由の1つがポンド高でした。実際、ここ2、3カ月こそ少し値を戻していますが、米国ではサブプライムローン問題が尾を引いて景気の先行き不透明感を募らせているのに対し、英国ではアラブやロシアからの資金が流入して、とりわけロンドンでは不動産バブルの様相を呈していると伝えられています。ドルに対するポンドの価格が歴史的な高水準となる中で、「米国の中小製薬が欧州から撤退していった」とCross医師は指摘します。
 では、英国から逃げ出した治験がどこへ行ったかというと、インド、中国と、ロシア、ポーランド、ハンガリーなど、旧東欧圏の国々です。特にインドは医師も患者も英語を話す上、人口が多く、治療を受けていない人が多いので被験者を集めやすいといった利点があるそうです。
 一方で、日本は現在、治験環境を改善して治験空洞化に歯止をかけようとしていますが、製薬企業がグローバル開発に乗り出せば乗り出すほど、治験は安い方へ、早い方へと流れざるを得ないでしょう。それはそれで割り切って、日本では何をすべきかを明確にしていくことが、治験を根付かせる上では重要だと考える次第です。
 それから、本日はイングランド北西部のUniversity of Manchesterに隣接するバイオベンチャーのインキュベーション施設とそこに入居するベンチャー企業とに取材しました。とりわけおもしろかったのは、Renovo社という創傷治療にスポットを当てたベンチャーへの取材です。
 University of Manchesterの教授であるMark W.J. Ferguson最高経営責任者とSharon O'Kane研究開発エグゼクティブディレクターの2人で創業したのが2000年。それが06年にはロンドン証券取引所に株式上場して、現在はフェーズIIIに1つ、フェーズIIに3つの化合物を抱えて欧州での自社販売体制を整えつつあります。社員は既に200人を超えたといい、日本の大学発ベンチャーと比べてそのスピードには圧倒させられます。
 なぜそれだけのスピードで事業が進捗できているのか。現在フェーズIIで開発を進めているたんぱく質医薬のTGFβ3に関して、昨年6月に英Shire社との間で欧州以外の権利を最大8億2500万ドルでライセンスする契約を交わしており、手にしていた候補化合物がよかったという一言に尽きるのかもしれません。ただし、TGFβ3以外にも複数の候補化合物を用意できるのは、Ferguson教授らが創業前に既に300の特許を出願していたからでしょう。起業前の特許戦略が、スピーディーな事業展開を支えているように思いました。
 それにしても今回の訪英のスケジュールのハードなこと。日曜に日本を発ってロンドンに着いたのですが、月曜はPlymouthを経てManchesterに移動しました。この後は、スコットランドの主要都市であるGlasgowで取材した後、Cambridgeを経てLondonへと、英国中をぐるりと一回りするような旅行になります。
 もっとも、ベンチャー経営者が海外を訪問して、プレゼンテーションして回るのもこれぐらいのスケジュールなのでしょうか。そう言えば、日本に来た欧米のベンチャー経営者にインタビューするときに、とても疲れた表情をされている方がたまにいらっしゃいますが、多分、こんな感じで日本中飛び回っているのでしょうね。いずれにせよ、旅の成果は日経バイオテク・オンラインで記事として紹介させていただきますので、お楽しみに。
 
                      日経バイオテク編集長 橋本宗明
 
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アーキアのDNA代謝酵素は宝の山
Taqポリメラーゼに比べ性能10倍も
「新世代PCR」を特集した「BTJジャーナル」08年1月号(創刊2周年)をこのほど発行・公開
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 創刊2周年を迎えた「BTJジャーナル」08年1月号を、先週末に発行・公開しました。
 
 より速く長く正確に少量で簡便にと、技術革新が進む新世代のPCR技術を特集しました。
 ホンダ・シビックを運転する米国のかのサーファーが128号線の75キロポスト地点で閃いてから25年、ノーベル賞を受賞してから15年が経過、PCRはバイオ研究に必須かつ入門の技術になっています。アーキアの生体内DNA代謝酵素の第一人者、石野良純・九州大学教授に研究の最前線を聞きました。メタゲノムも駆使して酵素の機能を高める研究など続々と成果を発表なさっています。
 
■BTJ記事
新世代PCRに貢献へ、石野・九大教授らがメタゲノムで
耐熱性DNAポリメラーゼの伸長活性をTaqポリメラーゼの10倍に
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2004/9870/

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※創刊2周年にあたる08年1月号(第25号)の目次を以下の通りです。

2 新連載「大学は今」
阪大が海外企業と初の包括提携
メタボロームで有力マーカー続々

5 リーダー・インタビュー
統合バイオリファイナリー
センターで外部資金獲得へ
 近藤昭彦・神戸大学教授

7 特集リポート
ノーベル賞PCRに新世代
酵素の進化など革新続く
 石野良純・九州大学教授

12 学会コレクション
第4回日本学術振興会賞

13 専門情報サイト「FoodScience」

14 連載「遺伝統計学へようこそ!」
第11回 遺伝継承法則を用いた解析

 BTJジャーナルは、オープンアクセスに対応した新タイプのジャーナルです。研究や教育、日常生活にご活用いただければ幸いです。
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                         BTJ編集長 河田 孝雄