こんにちは。日経バイオテク編集長の橋本宗明です。

 GreenInnovationメールの第4週を執筆いただくのは、北海道で技術戦略マネジメント・オフィスというコンサルティング業を運営しておられる飛谷篤実さんです。最終回の今回は、函館市の海洋資源プロジェクトを紹介いただきます。
※※みなさまからのご意見、ご批判をお待ちしております。
https://bpcgi.nikkeibp.co.jp/form-cgi/formhtml.cgi?form=ask_pass4/index.html

※※過去のメールはブログでご覧になれます。コメントもお寄せください。
http://blog.nikkeibp.co.jp/bio/green/

※※日経バイオテク編集部のミニブログTwitter(ツイッター)アカウント。
http://twitter.com/nikkeibiotech 

◆「日経バイオテクオンライン」の関連記事◆◆◆━━━━━━━━━━━━━━━
        農業/環境分野のバイオテクノロジー記事
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
DICが筑波大学の渡邉教授と藻類バイオマスエネルギーの共同研究に乗り出した理由
http://biotech.nikkeibp.co.jp/bionewsn/detail.jsp?newsid=SPC2011092084071
Green City社 特殊な酵素を使って廃棄物をバイオエネルギーに変換するユニークな技術を紹介
http://biotech.nikkeibp.co.jp/bionewsn/detail.jsp?newsid=SPC2011091984070
Jatenergy社、ルフトハンザ航空へバイオジェット燃料のヤトロファ油を供給へ
http://biotech.nikkeibp.co.jp/bionewsn/detail.jsp?newsid=SPC2011091984067
BP社、ブラジルでのバイオ燃料事業を拡大
http://biotech.nikkeibp.co.jp/bionewsn/detail.jsp?newsid=SPC2011091984068
Neste Oil社、フィンランド環境機構と藻類の共同研究を開始
http://biotech.nikkeibp.co.jp/bionewsn/detail.jsp?newsid=SPC2011091984069
英鳥類保護協会、2020年までに英国エネルギー用バイオマスの81%は輸入になると予測
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2008/1657/
※※全文をお読みいただくには「日経バイオテク」ご購読のお申し込みが必要です。
お申し込みはこちらから。
http://bio.nikkeibp.co.jp/bio/

◆ニュースウォッチ◆◆◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
  函館で進む海洋資源のグリーンイノベーション
        技術戦略マネジメント・オフィス 飛谷篤実
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 北海道のグリーンイノベーションをご紹介する本連載も今回が最後になりますが、締めくくりのトピックは函館地区で進められている海洋資源のプロジェクトです。
 函館市は北海道の南西部に位置し、天然の良港に恵まれていることから、古くから水産業で栄えてきました。幕末の開港以来、昭和初期に至るまで北海道では最大の都市であり、経済的にも文化的にも最先端を行く街でした。第2次大戦以降、政治や経済の中心は札幌圏へ移りましたが、イカやコンブなどの漁業や水産加工業は引き続き盛んであり、近年では観光業の育成にも力を入れています。
 現在、函館市を拠点として、「函館マリンバイオクラスター」というプロジェクトが進められています。これは文部科学省の地域イノベーション戦略支援プログラム(グローバル型)に採択されたもので、「UMI (Universal Marine Industry)のグリーンイノベーション」というテーマを掲げて、持続可能な海洋資源の開発に取り組んでいます。このプロジェクトで対象とする生物は、メガベントス(megabenthos)と呼ばれる、沿岸の海底に生息する大型の魚類や貝類、藻類です。函館地域には多種多様なメガベントスが存在していますが、その中でもこれまで全く、あるいはほとんど利用されていない海藻類を重点的に取り扱っています。
 最も研究開発が進んでいるのは、「ガゴメ」という褐藻類コンブ科トロロコンブ属の海藻です。幅20cmから30cmで長さは3m位まで育ち、名前の由来となった籠の模様(籠の目→ガゴメ)が表面にあるのが特徴です。地元ではガゴメ昆布として食品用に知られていましたが、商品価値の高いマコンブに混じる雑海藻として域外にはほとんど出回っていませんでした。このガゴメはアルギン酸やフコイダン、ラミナランなどの多糖類を含み、水に浸漬すると非常に高い粘性を示します。なかでもフコイダンは他の海藻類に比べて数倍から数十倍の含有量があるため、ガゴメの用途開発においてはこの多糖類の機能性や物性を活かすことが鍵となります。
 函館マリンバイオクラスターは産学官連携によるプロジェクトとして、函館地域の大学や公的研究機関を核にして、民間企業、行政機関が協力しながら進めています。先のガゴメについても、食品や化粧品の素材向けに機能性や物性を大学などが中心になって研究を行い、民間企業がその商品化を担当しました。これまでにフコイダンが有する機能性として免疫賦活作用や抗腫瘍効果などが明らかになり、保水性や乳化性が高いことも示されました。これらの特性を活用して、150品目以上の食品、菓子、健康食品、化粧品の商品化が行われました。プロジェクト関連の売上は50億円近くまで到達したとのことです(2003年からの累計額)。
 また、商品を製造販売する企業が販売面で連携するために、「函館がごめ連合」が2年ほど前に立ち上げられました。函館市内にはアンテナショップ「ねばねば本舗」を開設し、関連商品を一同に集めて展示販売するとともに、専用のHP( http://www.konbu-gagome.com/ )ではオンライン・ショッピングも提供しています。さらにはマーケティングの一環として、試食会や講演会、レシピの配布、大手コンビニとの商品企画、新聞やTVへのリリースなど、さまざまな活動を精力的に実施しています。往々にして産学官のプロジェクトでは研究が優先される一方で、商品化や事業化は後回しにされますが、函館マリンバイオクラスターでは早い時期から多くの企業が参画したため、事業育成が進みました。
 このようなガゴメの基礎研究から商品開発、マーケティングに至るまでの一連のプロセスを経験することを通して、プロジェクトには新素材開発のプラットホームが構築されたようです。ガゴメに続き、ダルスなどの紅藻類やホタテ、チョウザメなどの未利用/低利用部位に含まれる機能性成分の研究が現在進められています。近い将来、ガゴメと同様のやり方で商品開発が行われると期待されます。
 函館マリンバイオクラスターではこのような活動の他にもさまざまなテーマに取り組んでいます。例えば、海洋資源の利用を持続可能なものにするために、バイオファーミング(生物資源の生産工場)と呼ばれる大規模な生産システムが研究されています。海藻の栽培や魚介類の養殖を、風力発電などの自然エネルギーにより運用し、得られた生物資源も廃棄物がでないよう最大限活用し、環境への負荷を抑えることを目指します。また品質やブランドの管理のために、遺伝子情報による品種や産地の判別技術が開発され、流通における鮮度保持や品質評価の技術なども実用化が間近です。さらに海洋の状態(温度や海流、漁場の位置など)の予測にICTを駆使し、効率の良い漁業を行うための技術開発も進められています。
 函館市は、2003年3月に「函館国際水産・海洋都市構想」を策定し、海洋の資源を活用した新しい街作りの準備を進めてきました。この構想では、水産・海洋に関する学術研究機関の集積や地域との連携を推進し、将来的には函館地域がマリン・イノベーションの拠点として新たな役割を担うことになります。かつて栄えた造船業の名残である函館港のドック跡には函館マリンサイエンスパーク(仮称)を開設し、その中に国際水産・海洋総合研究センターを設置することも公表されています。函館マリンバイオクラスターはこのような計画と連動し、研究開発や新規事業創出の核として、より一層強力に推進されることになります。
 今や海洋に存在する資源は、エネルギーや鉱物はもとより、生物についても地球規模で各国の奪い合いが始まっています。日本の周辺海域ももちろん例外ではなく、競争はますます厳しくなります。そのような中で、持続可能な生物生産システムとして海洋を活用することによって、地域産業の育成を狙う函館マリンバイオクラスターは重要です。そして北海道のグリーンイノベーションの中では、海洋資源を対象にしたプロジェクトとして、今後もユニークな成果が続々と出てくると期待しています。