こんにちは。日経バイオテク編集長の橋本宗明です。

 GreenInnovationメールの第2週目は、バイオインダストリー協会つくば研究室の小林良則室長に担当いただきます。今回で小林室長は最後になりますので、化学産業の中でバイオテクノロジーの技術開発に関わってこられた経験談をつまびらかにしてくださいました。
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DONG Energy社、バイオエネルギーのコンソーシアムを形成
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◆マイオピニオン◆◆◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
   化学産業におけるバイオについて
           バイオインダストリー協会つくば研究室・小林良則室長
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 今回で最後になりますので、化学産業とバイオについて少し述べてみたいと思います。
 私は、バイオエタノール関連の仕事を始めた時から、この物づくりの場合、製法開発および事業化はいったいどの業種の企業が最も適しているのであろうかと考えてきました。本来、1社で原料栽培からエタノール発酵まで一気通貫でやれるのが理想ですが、今や、自前で技術、設備の全てを持つよりは得意なものを持つ者同士が組むというのが時代の流れですからこの場合もこれが良いのではないでしょうか。原料バイオマスの栽培から前処理までは扱いに慣れているという意味で、製紙企業がベストでしょう。酵素糖化・発酵はどうでしょうか。天然物原料を酵素で処理するマスプロダクションに慣れているという意味からは食品素材を大量生産している大手食品企業でしょうか。発酵は無論、アルコール生産を業とする食品企業でしょう。従って、ここまでを見ると製紙企業と食品企業の組合せがベストのように思えます。
 しかしながら以下の観点から、私はぜひ化学企業にお出まし願いたいと思うのです。ことエタノールに関しては燃料という使用目的が主課題になっていますが、化学品原料という意義も大きいはずです。さらに糖を出発原料としたバイオリファイナリーを想定すればますます化学企業の出番です。
 以下、述べますことはあくまで、私がダイセル化学という化学会社で長年バイオ技術を活用した物づくりを担当してきた中で得た情報、経験に基づく私見であることをお断りしておきます。
 これまで我が国の化学産業においてバイオ技術というのはそれほど活躍の場がなかったように思えます。ある化合物を有機合成法とバイオ法のいずれの方法ででも製造できる場合、一般的には有機合成法の方が安く作れるからです。よほどの理由、例えば化学合成ではなかなか作り難いキラル化合物のようなものの場合にのみバイオ法の存在意義があったのです。合成ルート選択において、たまたま、バイオ法の方が安く作れる場合に選択されるというごく当たり前の論理です。教科書には酵素反応は化学反応に比べ低温で可能で、特異性が高く、環境にやさしく・・・と種々利点が並べられていますが、現実には、バイオ反応はごく一部の例外を除けば一般的には生産性が低く、結果として製造コストが高くなり、経済原則の上からはそれだけの付加価値が認められる化合物でなければこの技術はなかなか使えなかったのです。
 余談ですが、私は長年「生体触媒化学研究会」に参加してきました。この研究会は理、工、薬学部出身で有機合成がバックの人達と、農学部出身で酵素化学がバックの人達の集まりで、化学分野における生体触媒という共通テーマで議論する場ですが、それぞれ出身分野の考え方の違いが見えて楽しい研究会でした。前者の方々はあくまで理論的に反応機構を解析し、説明したがるのですが、私は後者ですから、「理屈はともかく市場で求められている化合物が安く作れるような優秀な酵素(非天然物基質を高効率で変換できるような)が欲しいね、有機合成屋さん何かいい知恵を貸してよ」という立場で議論に参加していました。かつてこの技術分野を支えてきた製薬・化学企業、大学の大物研究者達が次々と引退され、今は次の世代のメンバー中心に活動しておられます。この分野に興味のある方は是非ご参加下さい。
 とはいえ、カネカのように医薬中間体としてのキラル化合物を大きな収益源にできたところではバイオ技術は基幹技術になりました。早くからこの技術に注目し、京都大学との密接な共同研究をもとに事業を確立された数少ない成功事例といえます。しかしながら、このような高付加価値ファインケミカルズも、今や、他の化学製品と同様に、欧米や我国で生産してはなかなか価格が合わない状況になりつつあるのです。一方、コモデティケミカルズ分野での数少ない成功例が酵素法によるアクリルアミドの製造であり、現在世界数ヶ国で生産されていると聞きます。これは日東化学(当時)と京都大学によるニトリルヒドラターゼという例外的に生産性の高い酵素についての共同研究の成果です。これは我が国で生まれた酵素を用いる物づくり技術の中で、世界に誇れる貴重な事例ではないでしょうか。
 1990年代半ばに至り、状況変化が現れます。地球環境問題や石油資源枯渇の問題から、化学産業はもう一度製造方法を見直すべきというグリーンケミストリーの動きです。我が国では1999年にカネカの社長、会長を務められた舘さんを代表世話人とする「グリーンバイオ研究フォーラム」(JBA主催)が立ち上げられ、2010年に化学工業の製品・プロセスの約3割にバイオテクノロジーを導入するという目標が掲げられました。当時、舘さんはダイセル化学の社外取締役を務めておられ、ぜひこの取り組みに参画するようにとのご指示があり、私も参画しました。(これまた余談ですが、舘さんから教えられたことの中で一番印象的なのは「一度始めた研究開発は絶対止めてはいけない。世の中、この先どうなるかなど誰に読めるものか。最後の一人になっても研究を続けさせろ」でした。)
 このフォーラムを基盤として協和発酵の藤尾達郎さんをリーダーとするNEDOプロジェクト(通称「ミニマムゲノムプロジェクト」)がスタートしました。このプロジェクトは結果的に2期に渡り展開され、今年終了しました。この成果についてはNEDOやJBAから公開されていますのでご興味のある方はご参照下さい。現在の我々のプロジェクトにおいても花王他がこのプロジェクトの成果を活用しています。一方、この間、海外ではDuPontのような巨大化学会社が樹脂原料をバイオプロセスで製造する方法を事業化してきていたわけです。
 数年前から我が国を代表する大手化学企業が続々バイオリファイナリー分野の研究開発に着手したというニュースを耳にしています。儲かるもののみを対象にしていれば良かったファインケミカルズに比べ、今度は、価格が1桁下で有機合成法で安価に作りうる化合物を対象にせねばならないわけです。種々の状況変化でそうせざるを得ないとはいえ、大手化学企業が本格的にバイオ技術活用に着手し始めたことは個人的にはうれしいことです。今年、花王が新規にエコテクノロジーリサーチセンターを開設しました。先日、機会があり、併設されている「花王エコラボミュージアム」を見学させていただきました。同社が、商品開発、製造はもとより、全ての企業活動をエコというキーワードの基に展開するという経営陣の社会に対する並々ならぬ意思表示を強く感じました。この研究所ではバイオマスからの商品開発も大きなテーマと伺い、このような大化学会社に取り組んでもらえる事を心強く感じました。大学のバイオ分野の学生数に比べ民間での需要がアンバランスのようです。化学産業が少しでもこの学生達の受け皿になれればいいなと思います。
 現時点では我が国の化学企業のバイオリファイナリー研究は、まず糖ありきというところから出発し、目的化合物までの製造ルート開発に注力しているようです。研究資源の配分からしたら当然優先順位はそちらからということになるのでしょうが、ぜひ、その上流、バイオマスから糖までの工程についても研究テーマとして取り上げていただきたいものと考えます。理想的には製紙企業と化学企業数社が組んだ連合体でバイオマスから糖を作り、これを化学企業がそれぞれ目的の化合物に変換するというバイオマスコンビナートの実現でしょう。是非、どこかの化学企業が音頭を取り、この姿を実現して頂きたいものです。
 これまでご紹介してきたような我々のプロジェクトの成果がこのような構想の中でもお役に立てたらいいなと考えます。
 
 最後に秋野菜作りの話しです。9月初旬は秋野菜の種蒔や苗を植える季節です。残暑厳しく雨の少ないこの時期に一発でうまく発芽させるのは結構難しいのです。先週土曜日に、大根3種(メインはおでん大根)、白菜2種、カブ、春菊、水菜、野沢菜、チンゲンサイの種を蒔き、ブロッコリー、カリフラワー、キャベツの苗を植えました。さて、うまく芽が出ているでしょうか。今週末で今秋の野菜作りがうまくスタートできたかどうかが決まります。今年残る作業は3月菜、5月菜の種蒔(今月下旬)とタマネギ苗の植え付け(10月半ば)だけです。ご愛読有難うございました。