こんにちは。日経バイオテク編集長の橋本宗明です。

 GreenInnovationメールの第2週目は、バイオインダストリー協会つくば研究室の小林良則室長に担当いただきます。今回は、関わっておられるNEDOのバイオエタノール製造技術開発のプロジェクトの第1期の成果である新規高機能糖化酵素の創成について、ご紹介いただきます。
※※みなさまからのご意見、ご批判をお待ちしております。
https://bpcgi.nikkeibp.co.jp/form-cgi/formhtml.cgi?form=ask_pass4/index.html

※※過去のメールはブログでご覧になれます。コメントもお寄せください。
http://blog.nikkeibp.co.jp/bio/green/

※※日経バイオテク編集部のミニブログTwitter(ツイッター)アカウント。
http://twitter.com/nikkeibiotech 

◆「日経バイオテクオンライン」の関連記事◆◆◆━━━━━━━━━━━━━━━
        農業/環境分野のバイオテクノロジー記事
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
Aeromexico社とBoeing社、バイオ燃料を使った世界初の大陸横断飛行を実施
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2008/0872/
※※全文をお読みいただくには「日経バイオテク」ご購読のお申し込みが必要です。お申し込みはこちらから。
http://bio.nikkeibp.co.jp/bio/

◆マイオピニオン◆◆◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
   新規高機能糖化酵素の創成について
           バイオインダストリー協会つくば研究室・小林良則室長
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 今回は、我々のプロジェクト第1期での最大の成果と言える新規高機能糖化酵素の創成についてご紹介します。
 これまでにも述べたようにセルラーゼの生産菌株としては、Trichoderma属糸状菌が最も有名であり、国内外の酵素メーカーもほとんどこの菌株を使って製造しています。我々のプロジェクトにおいても、プロジェクトリーダー(PL)の森川康先生は、最初からTrichoderma属菌株をベースにして高機能糖化酵素生産菌を育種することを決めておられました。それは、先生が長年に渡りTrichoderma reesei PC-3-7株の生産するセルラーゼについて、極めて詳細に研究して来られ、この菌株の優秀性に確信を持っておられたからだと思われます。また、メンバーの民間企業もこの属の菌株についての育種やセルラーゼの工業生産についての豊富な知見と実績を持っていました。これらメンバーが持つ多くの財産を統合的に活用し、目的を追求することがプロジェクトの意義そのものでありました。
 前回も述べたようにTrichoderma属由来のセルラーゼは、確かにその成分酵素の種類、生産量において他に例を見ないほどの優秀なものですが、大きな欠点としてBGL活性が弱いことが指摘されておりました。セルロース糖化の最終段階であるセロビオースからグルコースへの分解のところが弱く、このため反応液にセロビオースが溜まりやすく、このことでCBHが生産物阻害を受け、糖化が進み難くなるというものです。このため、デンマークNovozymes社、米Genencor社の両社はここ数年、この点の改良品を発売してきました。我々は標準化処方による活性測定を行い、Genencore社の場合はAccellerase1000からAccellerase1500で約1.3倍、Novozymes社の場合はCellic CTecからCellic CTec2で約3倍に活性が増強したことを確認していました。
 そこで、我々も独自の高機能糖化酵素創成を目指すに際し、まずはやはりこの点を改良することにしました。すなわち、Trichoderma reesei PC-3-7株のBGL1の性質を、プロジェクトメンバーである大阪府立大学川口教授のところで研究されてきたAspergillus aculeatusのそれと比較したのです。この結果、Aspergillusのものの方が基質であるセロビオースに対し、比活性が10倍近くも高いこと、また、セロビオースよりも鎖長の長いセロオリゴ糖にも良く作用することなど、Trichoderma属のBGLよりもセルロース糖化に適していることがわかりました。
 そこで、Aspergillusの酵素遺伝子をTrichoderma reesei PC-3-7株に組み込むことにしたのです。とは言え、どのプロモーターを使うべきか、ここには色々な考え方があります。上記海外2社の製品を見ても、それぞれ、そこに開発戦略の違いが見て取れます。BGL活性を増強することで本来この菌株が生産するセルラーゼの持つ各種成分酵素のバランスの良さなどの優れた点が消されるようでは困るのです。結果として選ばれたのがxyn3プロモーターでした。Xylanase3は森川先生が世界で最初に見つけられた酵素であり、xyn3プロモーターは発現活性が非常に強く、目的のためには最適なプロモーターでした。
 さて、こうして出来上がった酵素の性能はどうでしょうか? 一般的な各種酵素活性を測定してみますと、FPU活性は親株の1.7倍、BGL活性は約70倍にもなっていました。このように目論んでいたBGL活性は予想以上に上昇していましたが、問題は実バイオマスに対してどうかということです。この酵素の糖化性能をこれまでと同様に稲ワラ、エリアンサス、ユーカリ、スギの各種標準前処理標品を用い、Accellerase1500、Cellic CTec、Cellic CTec2などを対照に標準糖化能測定法、および80%糖化に必要な酵素量を求めるという2つの方法で評価しました。
 詳細なデータは省きますが、これら各種バイオマス前処理物に対し、80%糖化に必要な酵素量が3から6mg/g-バイオマスという結果となりました。その他のデータも総合的に見た結果として、この酵素は親株の優秀性を保持したままでBGLが増強されており、さまざまなバイオマス種、前処理方法に対応可能なオールラウンド型の糖化酵素としてCellic CTec2とほぼ同等な性能を持つものと考えられました。我々はこの酵素をプロジェクトの目標達成のための第1世代(1st Version)酵素と考えております。
 ここまでの経緯をまとめるならば、標準活性測定法による各種市販酵素の性能比較から改良すべき方向性が明確になったこと、Aspergillus aculeatus のBGL1がこの改良の目的に適うものであると確定されたこと、Trichoderma reesei PC-3-7の多数の酵素についての機能解析、遺伝子発現制御などの詳細な研究に基づき選抜された優秀なxyn3プロモーターを使えたことなど、メンバーの研究者が長年に渡り蓄積してきたさまざまな財産とこのプロジェクトの中で新たに見つけられた成果がうまく組み合わされた結果が、このような酵素の開発につながったものと言えます。さらに付け加えるならば、森川先生はこの菌株の親株(PC-3-7株)の優秀さ(氏素性の良さ)を挙げておられます。
 前々回以降、ここまでが、我々のラボが関与したプロジェクト第1期の主な成果です。現在、第2期に入り、この1st Version酵素についてさらに詳細な性能解析を進めております。これらの結果からさらなる改良の方向性が見えてきており、現在、メンバーと共にこの方向での研究を精力的に進めております。また、酵素製造コストを見定め、いかに低減化するかが次の大きな課題ですからこの酵素の生産研究も進めております。これらの成果は来春の農芸化学会ででも公開したいと考えております。その時は、今春、残念ながら30数年ぶりに自ら発表しようとしたことが適いませんでしたので、再チャレンジしようかと考えております。
 最後に今年前半の私の野菜作りの出来栄えの話しの続きです。今年はトマトの出来が非常に良かったです。例年多発する尻腐れや裂果がほとんど見られず、量を得る目的(煮込んで冷凍保存し、カレーやミートソースに入れるため)で作る桃太郎シリーズはもちろん、D社のぜいたくトマト、今年初めて作った外国産のトマト(トスカーナバイオレット、レジェンド・ボルドー、ピッコラルージュ、グリーンゼブラ)も上々の出来でした。これら初めて見るトマトの味の違いを楽しんでいます。ただ、問題がありまして、なぜ今年がこんなにうまくできたかがわからないことです。
 6月に子供達のトマトに栄養障害が発生したため、この地方で広大なトマト農場を経営している社長さんにアドバイスを求めに行きました。実に気さくな方で、この豪雪地でのトマト栽培と販売の問題点について色々お聞きすることができました。当然ながらこの地方での農業の行く末を案じておられ、農業後継者育成のため、大学からの実習生も積極的に受け入れておられるとのことでした。野菜作りを通じてまた新しいお友達ができました。