こんにちは。日経バイオテク編集長の橋本宗明です。

 GreenInnovationメールの第4週を執筆いただくのは、北海道で技術戦略マネジメント・オフィスというコンサルティング業を運営しておられる飛谷篤実さんです。今回は北海道北部の過疎化が進む町でのバイオマスエネルギーの利用の話題を紹介してもらいました。なお、前回(5月26日)の飛谷さんの「北海道発」の原稿に一部欠落がありました。読者の皆様にお詫びいたします。なお、訂正した原稿は、下のリンクでお読みいただけます。
http://blog.nikkeibp.co.jp/bio/green/2011/05/207387.html#more
 ところで、このGreenInnovationメールの6月第5週(30日)ではこのGreenInnovationメールに対してお寄せいただいた皆様からのご意見を掲載したいと考えています。メールマガジンの内容に対するご意見でも、政府の政策などに対するご意見でも結構です。バイオマスやバイオプロセス、バイオ燃料、アグリバイオ、マリンバイオなどのいわゆる「グリーンバイオ」に関して、皆様からのご意見を掲載しますので、ぜひとも下の投稿フォームからご投稿願います(なお、お寄せいただいたご意見のうちの一部のみの紹介となる可能性もあることを事前にご了承ください)。

※※みなさまからのご意見、ご批判をお待ちしております。
https://bpcgi.nikkeibp.co.jp/form-cgi/formhtml.cgi?form=ask_pass4/index.html

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◆北海道発◆◆◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
  過疎地域で育まれる最先端のグリーンイノベーション
        技術戦略マネジメント・オフィス 飛谷篤実
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 北海道のグリーンイノベーションをご紹介する本連載の第3回目は、日本の北の端に位置し、過疎化・高齢化が進む町で行われている、最先端のエコへの取り組みをご紹介します。
 下川町は北海道北部の内陸にある町で、このメルマガの読者にはほとんど馴染みが無いでしょう。日本を代表するスキージャンパー、岡部孝信選手や葛西紀明選手、伊東大貴選手らを輩出している町と言ったほうがわかりやすいかもしれません。夏は短いものの最高気温は30℃に達し、長い冬には最低気温がマイナス30℃まで下がります。
 東京都23区とほぼ同じ面積を有する下川町では、その約9割が森林ということもあり、古くから林業が盛んでした。さらに1920年代からの鉱山開発により興った鉱業のおかげで、1960年頃には1万5000人を越える人口を抱えていました。しかしその後、閉山による鉱業の縮小、安価な輸入木材の増加による林業の衰退などが進みました。減少に転じた人口は近年では4000人を割るまでになり、高齢化も進んでいます。
 この町が豊かな森林を活用した循環型の経営を目指すきっかけとなったのは、1953年に国有林1221haを8800万円で購入したことでした。当時の町の年間予算にも迫る、高額な買い物でした。以後も買い増しと植林を続け、現在、町有林は約4500ha(人工林3000ha、天然林1500ha)となっています。そしてこれが循環型の森林経営を成立させる基盤になります。植林してから伐採できるようになるまで60年として、3000haあれば毎年50haを伐採しても同じ分を植林することによって循環できます。永続的に50ha分の植林と伐採の仕事が毎年作られ、地元に対して安定的に木材供給が可能なシステムです。
 そしてこのような森林経営が、街づくりのさらに大きなプロジェクトへと発展します。それが2008年の「環境モデル都市」への認定です。環境モデル都市とは、低炭素社会の実現に向けて温室効果ガスの大幅削減などへの取り組みを行う地域に対して、政府が認定を与え支援するという制度です。下川町の場合、「北の森林共生低炭素モデル社会の創造」をテーマに、地域産業の振興と快適な生活環境の整備を推進しました。
 主な取り組みを順にご紹介しましょう。まずは既に触れた循環型森林経営に関してですが、FSC(Forest Stewardship Council)という国際的に活動するNGOから適正な森林の管理・経営に対する認証(FSC FM認証)を取得しました。これにより、同町の森林は厳しい基準に則った管理がなされ、そこから生産された木材は環境や社会に対して低負荷の素材であることが対外的に明示されます。FM認証を得た木材であれば原材料としての差別化が可能であり、消費者への訴求力が高まります。このような森林経営に並行して、同町では環境についての教育・学習などを行い、森林の大切さを啓蒙しています。
 次の取り組みは、豊かな森林資源の燃料としての活用です。寒さが厳しい北海道では冬期の暖房によるCO2排出量が大きいので、森林バイオマスを導入することによって大幅なCO2削減が可能になります。そこで同町ではそれまで化石燃料に頼っていた公共の温泉施設などで木質チップ用ボイラーを設置しました。木質原料は地域で発生する林地残材や間伐材、廃材、河川流木などで、これらを町内の工場でチップやペレットに加工します。導入先は徐々に増えており、最近も町役場や消防署など隣接する複数の行政・公共施設に対して単一のボイラーにより熱を供給するシステムを構築しています。
 さらにバイオマスの原料調達の多様化を狙って、成長が早く、かつ食料需給に影響しない樹木であるヤナギの試験的栽培を行っています。既にスウェーデンで商業的に活用されているヤナギですが、下川町でも栽培や収穫技術を検討します。2011年3月時点で約11haの栽培が行われているとのことです。
 新規のバイオマスについては共同研究も盛んです。近畿大学で開発された「バイオコークス」の実証試験を下川町で2009年より開始しました。バイオコークスは、木屑や樹皮、茶滓などを原料として、炭化・ガス化させないように加熱圧縮し、固形物に成型して得られます。化石燃料である石炭コークスの代替燃料としての利用を想定し、より環境負荷の低いエネルギー源となることを期待しています。下川町では、自生するイタドリなどの木質資源を原料とし、得られたバイオコークスを農業用ハウスの燃料として用い、冬期のトマト等の栽培への適否を検証しています。
 豊かな森林の新たな活用についても検討が進みます。例えば、町内の木材を活用し、高気密・高断熱でエネルギー効率の良い設計を施した住宅を開発しました。全体の建築材の約98%について木材トレーサビリティが確認されており、その約80%は下川産木材であることからウッドマイルズ(木材輸送距離)は通常の住宅の45分の1に抑えられています。他にも先のペレットのボイラーやストーブの導入はもちろん、自然エネルギーを極力利用して環境負荷の低い住宅となっています。
 このような森林の利用は、さらにCO2吸収を排出権として資金を獲得する方法へとつながってきます。近隣の3町を巻き込んで「森林バイオマス吸収量活用推進協議会」を設置し、カーボン・オフセットを検討しました。そして環境庁を主管官庁とする「オフセット・クレジット(J-VER)制度」に沿って、同町のCO2排出削減量をクレジット化し、企業や団体に販売しています。またこのような活動に併せ、同町内のCO2削減を促進するために、CO2の発生と吸収・削減の収支を評価する「炭素会計システム」の制度設計を進めています。
 これら以外にも同町の取り組みは多岐に渡っており、廃食油からのBDF製造と利用、エコ活動への協力に応じたポイント付与、ベロタクシー実証試験、エコツアーやセミナー開催、マイバッグ貸与などがあります。
 長々と説明が続きましたが、興味深いのはこれらが人口4000人に満たない過疎の町で取り組まれていることです。森林関係者や環境担当者だけであればこれだけ多種多様な作業は進められませんが、町民を巻き込んで町ぐるみで行っているというのが重要です。技術や制度を地域の一部だけで活用するのではなく、そこに住む人々の理解を得ながら、町という一つの社会システムとしてバイオマス活用やCO2削減を実現しようとしています。システムのイノベーションを目標としているのであり、技術のイノベーションよりもむしろ難しいことにチャレンジしていると言えるかもしれません。
 また外部との連携に熱心であることも特徴で、様々な大学や団体、企業と共同の作業を多く行っています。町単独では難しいことであっても、町外に協力者を得ることによって達成可能になります。先の近畿大学のバイオコークスがその一例で、大学は実証試験の場が得られ、下川町は先端技術の導入が可能になりました。いわゆるオープンイノベーションを実践していることにもなります。
 山間部にある過疎地ではできることも限られる、と諦めるのではなく、むしろそれを積極的に活かして新たな社会システム作りを進めようとする姿勢は素晴らしいと思います。下川町ではUターンはもとより、全国からのIターンも多いと聞きますが、それも頷けるような気がします。日本の最北端の過疎の町で、日本でも最先端のグリーンイノベーションが実現されつつあるということは愉快ではないでしょうか。