こんにちは。日経バイオテク編集長の橋本宗明です。

 GreenInnovationメールの第2週を執筆いただくのは、バイオインダストリー協会つくば研究室の小林良則室長です。NEDOのバイオエタノール製造技術開発のプロジェクトに関わっておられる小林室長に、ものづくりのスペシャリストとしてプロジェクトをどのように進めておられるかを紹介いただきます。
※※みなさまからのご意見、ご批判をお待ちしております。
https://bpcgi.nikkeibp.co.jp/form-cgi/formhtml.cgi?form=ask_pass4/index.html

※※過去のメールはブログでご覧になれます。コメントもお寄せください。
http://blog.nikkeibp.co.jp/bio/green/

※※日経バイオテク編集部のミニブログTwitter(ツイッター)アカウント。
http://twitter.com/nikkeibiotech 

◆「日経バイオテクオンライン」の関連記事◆◆◆━━━━━━━━━━━━━━━
        農業/環境分野のバイオテクノロジー記事
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
Bayer CropScience社、ブラジルに種子加工サービスセンターを開設
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2007/8869/
出光興産、農薬メーカーのSDSバイオテックの株式等を公開買い付けへ
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2007/8820/
Novozymes社、ペクチンによる汚れを取り除く洗剤用酵素を米国で発売
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2007/8759/
米ノースカロライナ州バイオ燃料センター、商業化に向け160万ドルの助成金を拠出
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2007/8730/
※※全文をお読みいただくには「日経バイオテク」ご購読のお申し込みが必要です。お申し込みはこちらから。
http://bio.nikkeibp.co.jp/bio/

◆マイオピニオン◆◆◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
  まずは実験データの精度管理と、物質収支データの重視を宣言
           バイオインダストリー協会つくば研究室・小林良則室長
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 それでは今回からプロジェクト研究の成果について紹介します。
 私はこの仕事を始めるに当り、メンバーに徹底的に実験データの精度管理を行う、物質収支(マテバラ)データをきちんと取る、という2つのことを宣言しました。物づくり研究を進める上で、これらはごく当たり前のことですが、民間企業出身者として多少の皮肉を込めて宣言したつもりです。かっての私の仕事、医薬品中間体・原体の製法開発は各種のバリデーションに支えられたGMP管理に基づくもので、実験データについての厳密な精度管理が要求されるものでしたが、それでも、いざフラスコからパイロット、実機へと進めるとスケールアップ要因以外に起因するさまざまな問題で四苦八苦したものでした。最近、各地でバイオエタノールのパイロットプラントが立ち上げられ、各種マテバラデータが公開されつつありますが、ラボでの成績がどの程度再現されているか非常に興味を持って見ております。本設備で物を作ろうとすると基礎研究段階でよほどしっかりした実験データ、マテバラデータを取っておかないと、計画通りの品質、能力、原価が実現できないことはメーカーの方々なら良くお分かりと思います。
 さて、あえて上記2つのことを言ったのは、植物の組織構造や構成成分の違いにより糖化の受け易さが異なるであろうことは承知した上で、バイオマスはどう扱えばデータがばらつかない緻密な研究が進められるかについて危惧を感じていたからでした。高機能糖化酵素創製のためにはそれぞれの成分酵素が最高の糖化能を発揮できるように種々の特性をファインチューニングせねばなりませんが、その場合、基質が不均一で安定した品質のものでないとしたら微妙な性能調節など不可能です。この目的のためには単なる化学組成上の同一性というだけではなく、特定の性能の酵素に対しては常に同じ糖化性を示すような標準前処理標品が必要です。この分野の基礎研究では種々の試薬レベルのセルロース粉末等が使われておりますが、それらの品質上の同一性ですら大きな問題があると感じております。酵素変異体の性能評価はあくまで分解対象となる現実の基質に対するものでなければ意味がありません。もの作りはあくまで現場現物主義が原則です。
 さて、目的の為に、基質の不均一性がどの程度問題であるかを検証するためには作った前処理物の構成成分や糖化の受け易さを厳しく評価する必要があります。そこで、稲ワラ、エリアンサス、ユーカリ、スギについて標準前処理標品を作り得るかという観点から実験を開始しました。この場合、そもそも原料ロットの均一性から問題となるわけですが、そこは割り切ることにして入手原料から数Kg程度の微粉砕物を調製し、ランダム採取したサンプル数点についてNREL法で成分分析を行うことにしました。同時に前処理標品のテストサンプルについても同じ方法で分析し、データのばらつき、構成成分の回収率データの妥当性について検証しました。
 本研究の目的からは原料、前処理物中の糖成分が正しく定量されているかが一番の問題になるわけですが、バイオマスの種類、前処理方法・条件によっては時として前処理物の糖含量、リグニン含量に異常値が出ました。これは前処理物の場合、物によっては加水分解条件がきつ過ぎるためだと思われます。また、得られた前処理物の糖化の受け易さをどう評価するかということも重要でしたが、代表的市販酵素を過剰量添加した系で糖化し、生成還元糖を定量して評価する方法を確立しました。その他、同じサンプルを外部分析機関に依頼分析してデータを比較する等の検討も行い、最終的にこれらの方法で何とか当初期待したレベルのデータは取れると判断し、広汎な前処理条件の検討に着手しました。
 前処理方法としてはごく標準的な水熱、苛性ソーダ、希硫酸処理を選び、温度、薬品濃度、時間を振り4種の原料について合計で約500点にも及ぶサンプルを作成しました。これらについて残渣側、可溶画分側両方の成分を分析し、セルロース、ヘミセルロース、リグニン、灰分のマテバラデータを取ると共に、これらの結果からそれぞれの前処理方法の特性を理解しました。
 繰り返しになりますが、我々の目的は最適な前処理方法を開発するのではなく、あくまでもこれらの代表的な前処理方法ではどのような特性の前処理物が得られるかを理解し、それらを基質とした場合に種々の糖化酵素がどのような糖化性能を示し、高機能糖化酵素を開発するためにはどのような観点から改良すべきかその指針を得る目的の研究に使う基質を作ることでした。結果的に、前処理条件のきちんとしたコントロールにより、当初の目的に使用できると判断される特性の標準前処理標品を得ることができました。
 データの精度管理、マテバラ重視と声高に言ってはみたものの、研究開発を進めるためには、多少の問題には目をつむり、どこかで見切りをつけるという研究マネージメントも重要だということが改めて実感させられました。要はその問題がどの程度目的達成に対して障害となり得る可能性があるかというリスクマネージメントだと思います。神は細部に宿るとは言いますが木という細部にばかりこだわると森が見えなくなります。
 次回は精度管理の本論とも言える酵素活性測定法の標準化と各種市販酵素の性能評価結果についてお話しします。
 話しは変わりますが、私は自宅のある新潟県上越市で趣味の野菜作りをしております。毎年、GWは苗植え、種まきと忙しいのです。年間20種程を作りますが、特にトマトに執着しておりまして今年は7種ほど植えました。最近の種苗メーカーのビジネス拡大戦略には感心させられます。あの田舎のホームセンターには一株498円という品種や、イタリアの数品種を含め、30種以上ものトマト苗があります。農業に興味が集まることは良いことです。農と工が結びつき新しいビジネス、産業が生まれる時代が早く来ないかと願っております。いつか自分のハウスを持ち、徹底的に水分をコントロールした条件下で作った極うまトマトを頬張るのが夢です。