ナラ類の樹木が集団枯死する現象、「ナラ枯れ」をご存知でしょうか。カシノナガキクイムシという害虫に寄生するカビがナラ類の樹木の中で繁殖することにより、導管の機能が損なわれ、水をすいあげられなくなって枯れてしまう植物の病気です。
 このナラ枯れの被害が20数年前から日本海側で拡大中なのですが、その原因がはっきりとはわかりませんでした。仮説は2つありました。1つは、カシノナガキクイムシには遺伝型がいくつかあり、その分布が最近変わったために、大きな被害がでているのではないかというものです。
 ある地域で長年生息する「地元」のカシノナガキクイムシとナラ類樹木は、共進化によって、樹木が一方的にやられすぎない関係に落ち着いていると考えられます。
宿主を殺しきってしまえば、寄生する方も困るからです。
 しかし新しい型のカシノナガキクイムシが侵入してきた場合、宿主側がすぐには対応できず、短期的には、壊滅的な被害がでる可能性があります。その現象が現在、起こっているのではないかというわけです。
 もう1つの仮説は、ナラ枯れの被害を拡大しているのは昔からその地域にいる「地元」のカシノナガキクイムシなのだけれど、環境変化によって繁殖の条件が好転したため、大量発生しやすくなったのではないか、というものでした。
 どちらの仮説が正しいのかを確かめることに、森林総合研究所・主任研究員の加賀谷悦子さんらの研究グループが挑みました。そして、マイクロサテライト解析という遺伝子解析の手法などを用い、どうやら2番目の仮説が正しそうだという結論を得るに至っています。詳しい研究内容については、日経バイオテクオンラインにニュースをアップしていますので、ぜひ、お読みください。面白い内容です。
 さて、2番目の仮説が正しいとすれば、カシノナガキクイムシの急増をもたらした「環境変化」は、なんだったのかが気になります。推察される要因の1つとして、「大径木の増加」を加賀谷さんらは挙げています。カシノナガキクイムは、なぜか小径木より大径木が好きで、大径木に巣を作った場合には、生まれる子どもの数が増える傾向にあるそうです。
 では、大径木が最近増えているのはなぜでしょう。これについては、「里山」が放置されるようになったからではないかとのこと。昔は、ナラ類樹木は薪炭材として一定期間ごとに伐採されるため、大径木になることはそんなにありませんでした。しかし里山に人の手が入らなくなり、大径木が多くなってきているというわけです。
 「使いすぎてはいけないが、ほどよく使うことも大切」。長く培ってきた、人間と自然の関係なのでしょうね。炭や薪の原料として使われなくなった日本の森林の樹木が、バイオエタノールやバイオプラスチックの原料として活用されるようになれば、ナラ枯れの被害も和らぐかもしれません。事業として成立させるのはとても難しいとおもいますが…。
              日経バイオテク副編集長 小田修司
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