ここ1週間ほどで、京都や札幌で、産業集積の会議を取材しました。産業集積の現場に赴くと、財政逼迫のほか、我田引水の考え方で産業集積の計画がなかなか思い通りにはいかないことが分かります。発想を大きく切り替える必要がありそうです。
 京都では「国にはもう頼れない」と再認識しました。文部科学省の増子宏氏(科学技術・学術政策局科学技術・学術戦略官地域科学技術担当)が、産業集積に対する助成金支出の方針を説明していました。日本の1人当たり国内総生産(GDP)の順位は大幅下落。地域の科学技術発展が、日本の生産性を高めると言います。しかし、都道府県の科学技術予算は2001年度の5076億円から、07年度には18%減の4160億円に減少。地域は青息吐息です。産学官連携の事業として注目されてきた文科省の「知的クラスター創成事業」はほかの事業と一本化されて、2013年度に終了の見通しです。増子氏の講演も後半にはトーンダウンしているように映りました。
 さらに、札幌では「我田引水」という言葉を思い浮かべました。産学官連携事業である「協働型開発研究事業―地域COEの形成―」の成果発表会で、討論は重苦しい空気に包まれていたのです。これは北海道大学と道立の試験場との間の連携についてですが、関係者が共通して「連携がうまく進まない」と認識しているのです。「企業の方は9時始業と決めるが、大学はフレックスタイム。企業が大学の事情を分かってくれないと」と、連携の改善点を振り返る発言を聞いて驚きました。分かりやすい事例を挙げたつもりでしょうが、連携が進まない要因としては“役足らず”ではないでしょうか。
 私は韓国の製鉄最大手のPOSCO(ポスコ)を思い出しました。POSCO主導で産学官連携で成果を上げています。ポスコは韓国の港町浦項(ポハン)でゼロから製鉄業をスタートさせて、そこに国内最高峰の理系大学の1つに育ったPOSTECHを設立。近隣に公的研究機関も誘致しました。POSTECHの中身は「ポスコ大学」そのもので、ポスコは億単位の資金を惜しみなく注ぎ込みます。主導権がポスコにあることで、事業化も研究開発も円滑に進み、研究開発の方向性もブレがありません。
 産学官連携という観点で見れば、「韓流」から学ぶべきところはあるでしょう。極論すれば、ポスコのように日本は大胆であっていいでしょう。「船頭多くして船丘に上る」ではなく、主導的な立場にあるところを明確にする。例えば、大阪大学が「パナソニック大学」あるいは「シャープ大学」、もしくは「タケダ大学」となってもいい。九州大学が「新日鐵大学」になる手もあるかもしれません。
 「肉を切らせて骨を断つ」と言うか、自らの犠牲を省みず果敢に攻めていくう姿勢が必要です。国内を見ると、産学官連携は一体感を欠いて、政府主導も立ちゆかなくなっています。大学は競争的資金の獲得に汲々として、研究開発どころでないところも出ています。企業の閉塞感はぬぐえません。研究開発、事業化にかかわる関係者が一体とならねば、効率が上がらず、成果も出ません。早々に「日式」を確立しなければなりません。
                         バイオ部記者 星 良孝
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