連続で「日本の向かうべき道」について、ここで私は考えてきました。テーマは「ジャパンスタンダード」「異分野連携」と来まして、3回目は「地方の役割」です。
 読者の方から、奈良県の「吉野杉」に関する情報をお寄せいただきました。ちょうど地方の役割を考えるヒントが含まれていると考えて、ご紹介したいと思います。
 いただいたお話によりますと、奈良県吉野町周辺の特産品である杉を育成する現場で、主に3つの問題があるといいます。1つ目は「杉が育たない問題」です。商品となる杉を育成するための間伐が行われていないことが主な理由だといいます。さらに2つ目の問題は、「杉が売れない問題」です。輸入木材との価格競争で劣勢に立たされているからです。最後は「後継者が育たない問題」です。林業がいわゆる「危険」「汚い」「キツイ」といった3Kの職種と見なされて、若者が就職してこないといいます。なかなか難しいのは林産業者の方々だけでは3つの問題を解決できないことのようです。私は小欄で、「日本の将来像を描いて、情報共有で産業強化に向かうべきだ」と書きましたが、吉野町には既に「しあわせ工房・吉野町」というまちづくりのビジョンがあり、長い年月をかけて林業を含む町の活性化に取り組んできたようです。現実的にはうまくいかないわけです。
 私が重要と考えるのは、もっともっと広域を巻き込むことと考えます。奈良県は「奈良県農林振興ビジョン21」という計画を作っており、吉野杉のほか、大和野菜、大和牛、金魚などの農林水産製品を担う産業強化に向けた方策をまとめています。この方向でさらに産業強化の戦略を先鋭化していくことなのでしょう。吉野杉を担う林業関係者が悩みをうち明けている現状を見ると、地域が果たすべき役割はまだ足りていません。
 重要なのは、地域がコーディネーターとなることと私は考えます。吉野杉の例で言えば、吉野杉を支える人々は、奈良にとどまらず、日本全国に存在しているととらえるべきではないかということです。日本が向かうべき道を考えると、やはり地域で優れた製品は日本全体の力で強化できる形にするのは理想的ではないでしょうか。今は環境が整っていないと考えます。中国が台頭し、まさにインド、ブラジル、そのほかASEAN諸国がのし上がっていく中で、日本はどう立ち向かえばよいか。強力な製品を世界一に育てる上では、やはり日本国内の人々は強い味方になります。海外諸国と日本の差に比べると、日本国内の地域間の差は小さなものです。地域間で競争し合うだけではなく、日本の標準的な強みを明確にした上で、みなで支え合う道を探ることが必要ではないでしょうか。その時に、地域はどんな役割を果たすか。地域の強いモノを知っているのは、その地域の人であり、その人々が道先案内人となって、日本全国から知恵を集めるのです。
 読者の方の情報によりますと、吉野杉は現状、神社仏閣や伝統工芸品といった限られた用途に使われる面があるようです。確かに、そのようなイメージがあります。一方で、競合する輸入木材の強いところは、合板にすることで木材の変形が防げるところです。いろいろな用途に使え、さらに安価であることから、輸入木材は強い競争力を誇っています。ブランドある吉野杉を合板にするという発想はないのかもしれません。しかし、日本全国の知恵を集めると、どのような結論が導き出されるのでしょうか。
 日本全体が協力できる形が整ったとき、次には何が見えてくるでしょうか。地域がなんでもかんでもすべてを抱え込むことにはならなくなると考えています。例えば、全国47都道府県に国立大学法人が存在して、文学部、法学部、経済学部、工学部、理学部などを抱えています。全国が協力できるようになれば、必ずしもすべての大学にすべての学部は必要でなくなるかもしれません。来週は今年最後のメールとなりますので、3回連続の企画を踏まえて、まとめをお送りしたいと思います。
                              記者 星 良孝
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