4月2日に、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が、セルロース系エタノール新プロジェクトの研究委託先を決めました。先週、私はそのことをお伝えしまして、さらに、今週は、委託を受けてプロジェクトに参加するトヨタ自動車と鹿島建設の研究方針について、インタビューとしてお伝えしています。
 特に私にとって印象深かったのは、トヨタにしても、鹿島にしても、バイオマス事業から利益を生み出すことに強くこだわっていることでした。
 トヨタにとっては、農業は本業ではありません。経済環境が悪化する中で、選択と集中の観点からは、このまま農業のビジネスをとどめることは賢明か、撤退を検討しても不思議ではないのかもしれません。ですが、トヨタは、バイオマス栽培を中心として、これからさらに農業に注力していきます。
 トヨタが強調していることとして、トヨタの創業の原点は「織り機」だったことがあります。現在本業である自動車もかつては新規事業の1つでした。新規事業を追及してきた延長線上に農業もある。トヨタの方と面談して、事業として取り組むからにはバイオ緑化事業からの利益を拡大していく姿勢が明確であることが分かりました。今後、バイオマス栽培でも利益が出ることが重要だと言います。
 鹿島も利益の創出こそ重要と見ています。「バイオマス栽培の無人化システムを作らなければならない」。鹿島建設環境本部の塚田高明本部長はそうした見方を示していました。「バイオマス商業化に向けて、全く新しい技術を生み出すというよりは、むしろ、確立した技術の枠組みの中でコスト低減の方策をいかにひねり出せるかが重要だ」と言います。
 研究機関に身を置いていると、事業者や研究者は世の中で生じていくる新しい発見に関心が向きがちです。新規の発見は面白いですから。商業化の観点に立つと、そうではなくて、たとえ地味であっても得られた研究成果を大切にして、それに磨きをかける。ビジネスとしての可能性を本気で探る、鹿島の正直な考え方が感じられました。
 1年ほど前に日本信号という信号機の会社のプロジェクトマネジャーの方にお会いしたことがあり、その方がおっしゃっていたことを私は思い出しました。日本信号は、交通信号や鉄道信号で日本最大手です。経営の課題として、少子高齢化や公共工事の削減の流れの中で、信号事業が先細りになっていることがあります。それで、今、日本信号は、従来の事業とは全く分野の異なる「超小型のプロジェクター」を商品化しようとしています。
 他社からの転職組であるそのプロジェクトマネジャーの方は、最後の商品化のためのコスト低減の部分が実は大きな難関であると強調していました。他社で新製品を世に送り出した経験から、詰めの作業が一番苦しいと痛感していたようでした。
 新しい発明が出てくると、その技術が生かされた試作機が仕上がっていきます。多くの人々はその試作機の優れた性能に対して喝采を送ります。難しいのは、試作機の段階で止まらず、商業化を諦めないことでしょう。日本信号のプロジェクトマネジャーは、試作機の後のコスト低減を中心とした地味な取り組みこそ大切だと、社内に説いて回っていました。日本信号は、超小型プロジェクターを世界初の製品として世に出そうとしています。
 日本において、バイオエタノール事業は商業化の段階に入っています。折しも、先週、今週と、日経バイオテクで活躍している小倉紅葉記者が、米国のバイオエタノール製造大手の経営難を、ニュースとしてお伝えしました。バイオエタノール事業は前途多難なのかもしれません。日本のバイオエタノール産業にとって、トヨタや鹿島が成果を上げてくることは非常に重要になりそうです。
                              記者 星 良孝
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