昨日はノーベル賞の授賞式でしたね。化学賞を受賞した下村脩・元米ウッズホール海洋生物学研究所上席研究員の受賞理由となった、緑色蛍光たんぱく質(GFP)を使ったことのある方も多いと思います。
 さて、そのノーベル賞の授賞式に、下村氏の姪御さんが同行したそうです。注目すべきは姪御さんが晩餐会のドレスと一緒に持っていったストール。もちろん、ただのストールではございません。蛍光たんぱく質を組み込んだ、“光るストール”なんです。
 “光るストール”を開発したのは、農業生物資源研究所を中心とする共同研究チーム。農業生物資源研究所は、東レ、東京農工大学、群馬県蚕糸技術センター、群馬県繊維工業試験場、理化学研究所、Amalgaamと共同で、緑色・赤色・オレンジ色の蛍光たんぱく質を組み込んだ遺伝子組み換えカイコを作出。掛け合わせや選抜などを繰り返して、繭の大きさなどの形質を実用品種並みにするとともに、繭糸中に蛍光たんぱく質を高発現させることに成功しました。
 普通、繭から生糸を生産するには、熱水で煮る繰糸と呼ばれる工程を経ます。しかし、熱水でたんぱく質が変性しては意味がありませんので、研究チームは新たな方法(特許申請中のため非公開)を考案し、たんぱく質を変性させずに生糸を生産する方法を開発しました。白色灯の下だと、クリーム色や薄ピンク色に見えますが、青色LEDなどを当てれば光ります。
 今後は、従来のものとは異なるファッション性を売りにランプシェードなどに応用されるとのこと。果たして、“光る生糸”に市場のニーズがあるかどうかは分かりませんが、たんぱく質を変性させずに生糸を生産する方法などは、他のたんぱく質を組み込んだ際にも応用できるかもしれません。
 私は、“光るストール”情報を入手して以降、こまめにノーベル賞の報道をチェックしているのですが、今のところ姪御さんらしき方は見当たらず。最も気になるのは、晩餐会の会場の照明はどうなっているかということなのですが…。
 本日は、大阪大学大学院工学研究科の片倉啓雄准教授にバイオマスの利用効率に基づいた日本のバイオマス戦略について寄稿していただきました。ぜひ、お読みください。
                             記者 久保田文
※※みなさまからのご意見、ご批判をお待ちしております。
https://bpcgi.nikkeibp.co.jp/form-cgi/formhtml.cgi?form=ask_pass4/index.html
◆オピニオン◆◆◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
  日本がとるべきバイオマス戦略 -いくつかの試算に基づく考察-
         ――大阪大学大学院工学研究科生命先端工学専攻 片倉啓雄
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 バイオマスの利用によって地球温暖化を抑制し、化石資源の枯渇に対応しようという試みが世界中で行われている。バイオマスを原料にして、少しでも化石資源の消費を抑えようとするのであれば、コストを下げることもさることながら、エネルギー投入量を最少化し、バイオマスを確保することが重要である。ここでは、これらの問題に関するいくつかの試算に基づいて、日本が取るべき戦略を考える。
■バイオマスの輸送に消費するエネルギー
 仮に、乾燥重量で5tのバイオマスを輸送し、その60%を占める炭水化物のうち90%を糖化し、90%の収率でエタノールに変換したとすれば、5000×0.6×0.9×0.9 ×(46×2/162)/0.79=1750Lのエタノールが得られる(グルコースユニットの分子量は162、エタノールの比重は0.79)。
 エタノールと軽油の熱量はそれぞれ22.1MJ/Lと38.7MJ/Lであるから、このエタノールは1750x22.1/38.7=1000 Lの軽油に相当する。このトラックが1Lの軽油で5km/L 走れるとして(注1)、バイオマスを片道50km輸送すれば、往復で20Lの軽油を消費することになり、これは運んだバイオマスから得られるエネルギーの2%に相当する。
 ここでは、乾燥重量で5tのバイオマスを運ぶと仮定しているが、ワラのように嵩高いもの、草のように水分が多いものでは消費するエネルギーは更に増加する。例えば、水分が90%のバイオマスを運ぶなら、片道50kmの輸送で生産されるエネルギーの20%ものエネルギーを使ってしまうことになる。また、原料の炭水化物含量と水分は、廃棄物の量(炭水化物含量が60%なら、原料の重量の4割の廃棄物が出る)、原料の保存性にも大きく関わる(水分15%以上では腐敗する)。
注1) http://www.jama.or.jp/eco/weight/index.html
■ バイオマスには季節変動がある
 バイオマスは植物由来であるから、収量には必ず季節変動がある。例えば、年間300 日の稼働で1000kLのエタノールを製造する設備を2億円で建設し、10年で償却するとする。予定通り年間300日稼働できれば、その設備コストは200000000/10/1000/1000 =20円/Lであるが、年間100日しか稼働できなければ、60円/Lになってしまう。
■ バイオマスの原料価格
 現在、発酵産業で用いる最も安価な糖源は廃糖蜜である。その価格は砂糖や石油の価格に大きく左右されるが、糖1t当たり50000円として原料コストを計算してみよう。糖蜜は主にショ糖(MW=342)であり、収率90%でエタノールに転換するとすれば、1000×0.9×(46×4)/342/0.79=613Lのエタノールが得られるので、原料コストは82円/Lになる。40円/L程度のブラジル産エタノール(注2)の倍の金額が、原料の調達だけで必要となる。他の製造コストを考えれば、原料費はほぼ無償でなければ、
価格競争の土俵にすらのぼることはできない。
注2) http://www.meti.go.jp/committee/materials/downloadfiles/g50524a42j.pdf
■ 酵母のコスト
 セルラーゼのコストに関しては多くの議論があるが、酵母のコストが見過ごされているのではないだろうか。現在、酵母を最も安価に調製しているのはパン酵母メーカーであろう。そのコストを仮に0.2円/g(乾燥重量)とし、酵母のコストを1円/L に抑えるとすれば、エタノール1L当たり使える酵母は 1/0.2=5gとなる。
 エタノールの比生産速度を仮に0.4g-ethanol/(g-yeast・h)とすると、1L(=790g)のエタノールを得るには790/0.4=2000g-yeast・hが必要である。従って、酵母は2000/5=400h (=17日)使い続けなければ、酵母のコストを1円/L に抑えることはできない。つまり、酵母を使い捨てにすれば、あるいは、バイオマスの脱リグニンの際に生じる発酵阻害物質が酵母の寿命を縮めれば、酵母の調製コストは無視できない額になる(酵母の培養に要するエネルギーが大きくなることも忘れて
はならない)。
■ 日本のバイオマスの量
 NEDOは全国の市町村別のバイオマスの賦存量と利用可能量(乾燥重量、注3)を下記のように試算している(単位は万トン/年)。
 ――――――――――――――――
       賦存量 利用可能量
 ――――――――――――――――
  木質系   2013    390
  農業系   1127    762
  食品系   2061   1558
  畜産系   7489    965
  下水汚泥  7976   5868
 ――――――――――――――――
 このうち、家庭の生ゴミが2/3を占める食品系、家畜の糞を主とする畜産系、炭水化物含量が低く水分が90%を超える下水汚泥は、現時点では事実上利用が困難である。仮に、遊休農地40万haで50t/(年・ha)の多収量草本植物(エリアカンサスなど)を作ったとしてもたかだか2000万t/年であり、木質系、農業系と合わせてもせいぜい3000万t/年にしかならない。
 炭水化物含量を70%とし、収率80%でエタノールに転換したとしても、3000×0.7 ×0.8×(46x2/162)/0.79=1200万kLであり、これは日本のガソリン消費量6000万kL/年のわずか20%(エネルギー換算で13%)に過ぎない。
 ある試算では、日本のエネルギー消費をバイオマスのもつエネルギーで賄ったとすれば、2年半で日本の草木を全て使い尽くしてしまうという。木を伐採した山林が25年で元に戻るとしても、日本はその10倍ものエネルギーを使っている計算になる。つまり、「バイオマス日本」という言葉は、日本のバイオマスの利用だけを考えていたのでは全くお話にならず、海外のバイオマスに頼らざるを得ないのだ。
注3) http://app1.infoc.nedo.go.jp/
■ 日本が取るべき戦略
 日本のバイオマスの絶対量は上述のように十分ではないが、もちろん、これを無駄にしてしまうことはできない。また、日本は国土が狭く平野が少ないため、アメリカやブラジルのように広大な農地の真ん中にエタノール製造プラントを建設することは不可能である。
 とすれば、バイオマスの輸送に費やすエネルギーを最少にするためにも、分散して存在する少量多品種のバイオマスに対応できる地域分散型システムにせざるを得ない。しかし、スケールが小さくなれば、エネルギー効率が悪化し、コストが上昇する。従って、これを抑制する新しい発想に基づく技術開発が必須となる。
 そこで私たちは、バイオマスの糖化・発酵・エタノールの回収を一つの反応槽で連続的に行うConsolidated Continuous Solid State Fermentation Systemを提案している。このシステムは、反応槽に前処理したバイオマス、糖化酵素、酵母を投入して水分を50%程度に保ち、ヘッドスペースのガスを回収塔に循環させ、エタノールを連続的に回収するものであり、
(1) 反応槽がシンプルでメインテナンスも容易
(2) 水が少ない分だけ反応槽を小型化できる
(3) 連続運転するため糖化酵素と酵母を実質的に再利用できる
(4) 廃水がほとんど出ない
(5) 残渣を堆肥化して農地に還元することも容易
(6) 反応槽は蒸発潜熱で冷えるため除熱は不要(加温には既存工場の低温廃熱を利用)
 といった長所を持つ。現在はエタノールを冷却塔で回収しているのでエネルギー効率が良くないが、これを膜分離などの省エネシステムで行い、さらに、システムをモジュール化して同一規格品を量産すれば、運転コスト、設備コストを節減することもできる。
 欧米も日本と同様に、自国のバイオマスではエネルギー需要を賄いきれないため、アメリカは中国と南米に、欧州はアフリカにバイオマスを求めようとしている。これは、国土が広く、大規模なプラントが建設可能な地域をねらっているからだ。日本では大規模プラント建設は現実的ではなく、その経験を積むことはできないのだから、少量多品種に対応できる地域分散型システムを手に、日本と同じ事情を抱えた東南アジア諸国などに展開する戦略を取るべきであろう。
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海外発表、Novozymes社、
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