みなさん、こんにちは。出張から戻ってきてみると、日本もすっかり秋になりましたね。特に、夜の匂いにそれを感じます。空気もだいぶ乾燥してきました。
 さて、今日はセルラーゼがセルロースを分解する様子を可視化したニュースをとり上げたいと思います。これは東京大学大学院農学生命科学研究科生物材料科学専攻森林化学研究室の五十嵐圭日子助教らの研究成果です。
東京大学、セルラーゼの作用を、高速原子間力顕微鏡で可視化に成功、
酵素改良の技術突破へ
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/6128/
 五十嵐助教らは、高速原子間力顕微鏡(FS-AFM、オリンパス製)を使い、25℃の溶液中でシオグサ由来のセルロースを、デンマークNovozymes社のセルラーゼ「Cellucl-ast 1.5L」(Trichoderma reesei由来)から精製・抽出したセロビオヒドロラーゼ(Cel7A)に分解させました。というのも、不溶性のセルロースには、通常の酵素反応の解析方法が適していない考えられるためです。
 すると、セルロースの結晶上にあるミクロフィブリルに、Cel7Aが付着して、結晶を一方方向に滑る様子が見えました。一般的に、セルラーゼはセルロースにくっつく付着ドメインと、セルロースを分解する酵素ドメインから成っていることが知られていますが、どうやら付着ドメインがセルロースを探す補助をしているようだということも明らかになりました。
 セルラーゼの働きが可視化できれば、セルラーゼや前処理法の評価をより精緻に行えるかもしれません。世界には原料に合ったセルラーゼの組み合わせや混合比を検討する動きもありますが、セルラーゼの作用の仕方は十分には解明されていないので、こういった新しい解析方法はセルロース系バイオマスの利用に向けた武器になりそうです。
                              記者 久保田文
 
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https://bpcgi.nikkeibp.co.jp/form-cgi/formhtml.cgi?form=ask_pass4/index.html
 
 
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東京大学、セルラーゼの作用を、高速原子間力顕微鏡で可視化に成功、
酵素改良の技術突破へ
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/6128/
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◆オピニオン◆◆◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
         セルロースエタノール事業への参入続々
                 ――地球環境産業技術研究機構・湯川英明
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■祇園祭――迫力満点の山鉾巡行
 先月は、京都の夏を告げる、祇園祭にぜひおいでくださいと申し上げましたが、その後、何人もの方から、クライマックスの"山鉾巡行"は、どこで見物するのがお勧めかとの問い合わせを頂きましたので、来年計画されている方のために、有益な情報をお教えしましょう。と、えらそうなことを言っても私の京都に居を構えての時間は、京都1200年の歴史の1%未満ですので、生粋の京都人の読者がいらしたら汗顔の至りです。お許しを!!
 ガイドブックなどでは、四条通や河原町通、御池通での見物を薦めてます。しかし、地元の方は、中京内の"新町通り"で見物です。京都の狭い路で、それこそ手が届く近さで山鉾見物、なにしろ、大きなものでは10トンを超える山鉾が、ギシギシと動くのは迫力満点。ぜひお勧めです! 
■セルロースエタノール――ビジネスプラン策定へのハードルは?
 さて、今月の本題に入りましょう。米国ではセルロースエタノールの実証生産計画が、40件近く進行中とのことです。わが国では、これから開発を開始しようとする企業も多いのに対し、なぜ多数のPJが計画されているのでしょうか? 過去数回の配信原稿で要素毎には解説してきましたが、今回は総合的に、分析してみましょう。
 まず、原油高騰による、エタノール製造の採算ラインのハードルが低くなっていることが背景となっています。つまり『そこそこの技術』レベルの企業でも実用化へ向けて走り出すことができるのです。5月配信で解説しましたように、混合糖(C6、C5糖)の完全同時利用に成功していない場合でも、C6糖用醗酵槽、C5糖用醗酵槽を用いる、いわゆる『2槽醗酵システム』での実用化を計画し得るわけです。例としては、Verenium社の実用化計画などです(同社の技術は日本の商社が導入してます)。
 今回お知らせする大変興味深い情報は、セルロースエタノールへの新規参入壁がさらに低くなる話です。すなわち、資金さえあれば参入可能な条件が整ったのです。以下にご説明しましょう。
 セルロースエタノールの実用化への必須の技術要件、混合糖利用に関する技術開発で、著名なパデュー大学(研究チーフ:Ho教授)が、保有技術(特許:文末の**参照)を広く、権利オープンすることを表明したのです。主な条件を示すと、特許使用のエントランス料が50万ドル、ローヤルティは、ガロンエタノール当り、0.3セントです。
 如何ですか? 私の感じでは、意外と『お安い』感じですが。ただ、この技術は、混合糖の完全同時利用は困難であり、『2槽醗酵システム』での対応となりますね。しかし、前述のごとく、40件近くも実証生産が計画されているなかで、相当高い割合の技術なわけですから。これで、セルロースエタノールの商業化には、資金を調達し得れば参入できる条件がよりクリアとなったわけです。数年前には考えられなかった状況となりました。セルロースエタノールに限っていえば、事業環境としては、新しい状況が開かれたと言えるでしょう。
 ただし、以前より、申し上げておりますように、セルロース(非食料バイオマス)からのバイオ燃料のビジネスプランの観点からは、エタノールのみの計画では予想される競争激化を生き残るのは困難でしょう。次世代バイオ燃料、バイオブタノール、との両輪での事業計画が必須です。
 『混合糖類』原料法は、グリーン化学工業においても、必須であり、重要な技術要素です。混合糖類の完全同時利用は、技術競争の「入り口」です。しかし、入り口技術と言っても、経済性に大きく影響を与えます。ベースとなる技術を保有していない企業が、パデュー大の技術を導入して、さらにブラッシュアップを図るのを戦略とする、ケースも出てくるかもしれませんね。
今後は、ますます総合的な研究力・技術力が問われることは必定でしょう。我々もより高い目標を目指し頑張る所存であります。                  
                                (湯川英明)
(**)特許名称:「Recombinant Yeasts for Effective Fermentation of Glucose and Xylose」と 「Stable Recombinant Yeasts Capable of Effective Fermentation of Glucose and Xylose」、Yeast strain 424A-LNHST (Biological Materials)