みなさん、こんにちは。私は今、フランス・パリにいます。いくつかの取材が重なったので、というのがパリに来た理由ですが、本日はパリ郊外のバイオクラスターに取材に行った後、EuroBioの理事でもあるRoger Thalmann博士とお会いしました。
 Roger博士は、もともと循環器のお医者さんで、医療機器業界でのキャリアもおありの方です。彼は現在、EuroBioの理事として欧州のバイオ産業の活性化に努めていらっしゃいます。そして、2008年10月にパリで開かれるEuroBioでは、「Make Change Happen」を合言葉に3大テーマについて議論を繰り広げることになっています。
 
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 その3大テーマとは、レッドバイオ(医療・健康)、ホワイトバイオ(化学)、グリーンバイオ(農業)の3つです。中でも、EuroBioでのホワイトバイオの議論には、デンマークNovozyme社やオランダDSM社に加えて、バイオ燃料という観点から、スウェーデンVolvo社、英Virgin Group社も加わる予定だそうです。また、Roger 博士は、「2010年には、ホワイトバイオとアグリバイオを1つに統合し、“エコ産業”(EcoIndustry)に改名する予定」。
 
 そうなれば、特に欧州ではこの手のビジネスが単に産業として利益を稼ぐという以上に、エネルギー収支、二酸化炭素収支、または労働者の労働環境など倫理の観点から持続可能かどうか検証する必要性がこれまで以上に高まることは間違いありません。バイオプロセスを使ったものづくりは、単にビジネスとして成り立つかという以上の質を求めらられることになるのです。
 さて、一方で08年のEuroBioのテーマでもある「Make Change Happen」は、「米国に15年遅れている欧州バイオ産業をどうにかしないといけない」(Roger博士)という危機感から生まれています。私は欧州のすべての国のバイオ産業について取材をしたわけではありませんが、少なくとも今回フランスのバイオクラスターを取材して感じたのは、この種の危機感が極めて日本と共通しているということです。
 
 彼らが現在、直面しているのはサブプライムなどの影響を受けた市場に新興企業がIPOできず、資金調達が困難を極めていること、また、遺伝子治療や細胞治療といった先端的な医薬品や医療機器を実用化するためのトランスレーショナルリサーチを進めるに当たり、拠点となる病院などが限られていることなどです。これはまさに日本のバイオ産業が抱える問題と共通で、そのためにクラスターが政府の資金などをつぎ込んでファンドを立ち上げたり、先端医療のトランスレーショナルリサーチを進めるための病院を立ち上げたりするといった取り組みを進めています。
 
 これらは現在のところ、主に医薬系のバイオベンチャーが抱えている問題ではありますが、今後本格的に広がるであろう“エコ産業”にとっても、対岸の火事では済みません。資金調達や実用化に向けた規制やサポートがどうあるべきか、これから日本のキャピタルはこの分野で有望な技術を持っているビジネスシーズを選び出し、投資を進めることが必要ですし、行政は、農林水産省や経済産業省がいかに持続可能なビジネスを作るかについて話をしなければならない段階に来ているのではないでしょうか。
 
                              記者 久保田文
 
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◆オピニオン◆◆◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
  化学工学の視点からバイオマスの糖化を見る
                 ――神戸大学大学院工学研究科・荻野千秋
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 神戸大学の荻野です。6月1日よりボストンにて開催されていた米国微生物学会(ASM)のGeneral Meetingに参加してきました。初めてのASMへの参加だったので、日本の農芸化学会+生物工学会のようなイメージで飛び込んで行ったのですが、ASMには医学系臨床に近い感染症などに関する微生物研究も大きな部会として存在しており、日本での学会の枠とはちょっと異なった形態をしていると感じました。
 
 ASMの部会(Division)は27あり、臨床よりの微生物学から生物工学や農芸化学の分野までを全て網羅しております(私の研究に関連の深い発酵工学や酵素工学などはDivision Oでした)。日頃、日経BPのメーリングリストなどを介して米国のバイオ燃料政策に関しての情報を耳にしておりますが、このASMにおいても米国のバイオ燃料生産政策はやはり大きな注目を浴びており、その重要性を感じました。
 
 ASMでは、Division毎に企画されるシンポジウムと、General Meetingが企画する特別シンポジウムがあるのですが、Division Oのシンポジウムは「Genomic  Expression Analysis of Stress Tolerance for Ethanol and Butanol Production」と銘打たれ、エタノールとブタノール生産に関連する解決すべき問題点について5人のスピーカーが講演されました。興味深かったのは、バイオマスからのエタノール生産における、糖化酵素(セルラーゼ類)の生産エネルギー考慮に関する講演でした。
 
 微生物の中での酵素生産に使用するエネルギー(ATP消費)とエタノール生産に使用すべきエネルギーのバランスに関して、如何すれば効率よく出来るかと言うものでした。結局のところ、答えは未だ無く、良いものを作りましょうと言う感じで、その最終的な形態として一つの微生物の中で、酵素の生産、そしてバイオ燃料の生産を一貫して行なうCBP(Consolidated BioProcessing)の概念があるのではないかといわれておりました。
 
 先日の、総合科学技術会議(CSTP)にて酵母の細胞表層技術(アーミング酵母)が日本発の技術としてバイオ燃料の宿主として今後期待される旨の講演がありましたが、正にアーミング酵母の概念はその最終形態の一つではないかと、改めて感じとる事が出来ました。他の講演としては、C5糖類の酵母での発酵経路の育種に関するものや、酵母のエタノール発酵に関係する阻害物質の影響をDNAマイクロアレイにて検討している講演がありました。
 
 講演全体を通して、宿主もクロストリジウム、酵母、高熱菌など、それぞれの研究戦略によって色々な候補が考えられており、"これ!"と言った最終候補が決まっている段階まできているとは感じませんでした。また、ASM General Meetingが企画したシンポジウム「Microbial Production of Biofuels: The New Frontier」では、最近のトピックスとして、バイオブタノールの生産や微生物を用いた燃料電池の話など、より分野の幅広い講演がありました。
 
 また、ポスターセッションでもバイオ燃料の講演は盛況だったように思います。何れにせよ、やはりバイオ燃料を国策として推進している国(米国)ならでわの関心の高さだと痛感しました。しかし、以外にバイオマスの糖化に関する研究発表は殆どありませんでした。最終的なバイオマス原料は、非食料である麦わらや稲わら等になると考えられ、これらのセルラーゼによる糖化プロセスに関する研究は重要であると思われます。たまたま今回のASMではこれらに関する研究発表はありませんでしたが、たぶん、間違いなく水面下で行なわれていると思われます。我々日本の研究者も、この点を意識して、セルラーゼの研究を強く進める必要があると感じました。
 
 全体を通じての感想ですが、米国を代表する微生物関連の学会でありながら、国策としてのバイオ燃料の規模と、研究発表としてのバイオ燃料の件数の間に大きなギャップを感じました(と言うほど、バイオ燃料の研究発表が少なかったのです)。企業や大学では、水面下で着々と進んでいるのでは?と思わざるを得ません。日本も負けずに頑張る必要があると思います!
 
 最後に余談ですが、日本に帰ってきたら、ガソリンの値段が170円台になっていて、一週間で浦島太郎状態でした。で、バイオ燃料の実現化を感じた次第です。
 
                               (荻野千秋)