みなさん、こんにちは。昨日は「啓蟄」(冬ごもりしていた虫が土から這い出してくるという意味で、春の訪れを告げる日)だったそうなのですが、東京は相当に寒い一日でした。特に夜。お正月の暖かさといい、この寒さといい、なんとなく気候がおかしいですよね。
 さて、突然ですが、今日は残念なお知らせがあります。07年9月より毎月寄稿をしていただいていた日伯エタノールの掛林誠さんの寄稿が終了となります。国内でもバイオエタノールを利用するための法整備が進み、洞爺湖サミットを前に、掛林さんのお仕事も一層お忙しくなるということで、本日の寄稿が最後です。もちろん、今後もブラジルの動きについて、大きな動きがあった際には、その都度お話を伺って行きたいと思います。半年間、本当にありがとうございました。
 今週は、国内のバイオマス、バイオエタノールの生産について、考えてみたいと思います。東京大学を中心に「イネ・イネ日本」というプロジェクトがあるのをご存知でしょうか。国内のバイオマスが限られている中、イネ(コメ)をバイオマス利用することを後押ししているプロジェクトで、個人的には水田を使える状態で維持するために一理ある取り組みだと考えています。
 08年3月5日に「イネ・イネ日本」のシンポジウムがあったのですが、そこでバイオエタノール原料としてのコメの流通や価格の考え方について、欧米と日本の違いを見せ付けられました。バイオエタノールの原料として、米国ではトウモロコシ、欧州ではコムギなどが使われていますが、一般的に欧米では農家は生産したトウモロコシやコムギを食用か飼料用か燃料用か、区別せずに流通させるのが普通です。区別せずにというのは、目的にかかわらず同じ作物倉庫で保管し、出荷するという意味です。また、欧米では、生産したトウモロコシやコムギを食用に売るか、飼料用に売るか、燃料用に売るかは、農家がその出荷時の市場価格などによって決定します。
 一方、国内では減反政策などと合わせて、食用コメの価格は政府が調整してきました。燃料用コメは、今はほとんど生産されていませんが、今後飼料用に開発された多収穫米の作付けが徐々に増える見込みです。ただし、国内では欧米のように一緒に流通、市場価格で農家自らが出荷先を決定、というわけにはいかないでしょう。
 実際、「燃料用コメ、飼料用コメの保管も食用コメとは別々に行う必要がある」と農業関係者は話していました。食用コメの流通や価格を守るためにも、燃料用コメの流通や価格形成は政府が助けるのが当たり前と考えているようです。将来的に、国内でコメからバイオエタノールを作る場合、農家は政府が政策的に決定した量に基づいて、食用コメ、燃料用コメ、飼料用コメを作付けるということになるのかもしれません。
 国内で作られる食用コメは世界一コストがかかっているという話はよく聞きますが、燃料用コメからバイオエタノールを生産した際のエネルギー収支やコスト収支、必要な補助は、一体どの程度なのでしょうか。国内で継続的にこの手の取り組みを行うのであれば、まず、水田を維持するというメリットとこれらの収支やコストを天秤にかけて、一緒に議論することが欠かせません。ただ、農業関係者からは、「日本の農業を守るためにやっているんだから、エネルギー収支なんて関係ないよな」とつぶやく声も聞こえてきましたが。
※※みなさまからのご意見、ご批判をお待ちしております。
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                             記者 久保田文
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◆オピニオン◆◆◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
     あとがき、いろいろ・・・    ―― 日伯エタノール 掛林誠
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■あとがき―その1
 2008年2月22日、当社の第2回定時株主総会が無事終了した。2006年2月20日の創立総会に始まり、2007年2月8日の第1回定時株主総会を経て、先月に至るまで3回の株主総会。非上場の小さな会社ではあっても形式をきちんと満たさなければならならず、全資料を日英2カ国語で用意するのは気骨が折れる。
 小さな組織内でビジネスの形を模索しながらの3年目。バイオエタノールと聞いてもピンと来なかった2年前に比べれば、ブラジルに行き、直にサトウキビやサトウキビ畑、エタノールプラントでの砂糖・エタノールの製造工程等々をつぶさに見て、会社の同僚の日系ブラジル人役員やサンパウロの日系人社会の長老の方々を含めいろいろな方にお会いして、いろいろな考え方を拝聴し、本や資料を読み、考えながら、自分なりの知識と経験を増やしてきた。
 まだまだ学ばなければならないことばかりであるが、この2年間で唯一自信がついたことがある。それはパワーポイントでプレゼン資料をつくることが苦にならなくなったこと。ただし、勉強量や知識量の不足によるプレゼン資料の質は問わないでいただきたい。
■あとがき―その2
 3月4日、「揮発油等の品質の確保等に関する法律」一部改正案が閣議決定された。今通常国会において同改正法案が審議され、成立・施行になれば、徐々にはであってもE3がETBEとともに一般消費者にも利用されるようになろう。小さく産んで大きく育てる。まずは日本にも第1段階のバイオ燃料市場ができるという点でめでたしめでたしである。
 バイオエタノールは、自動車の基本構造を大幅に変える必要もなければ、ガソリンスタンドのシステムも大幅なコストを掛けずそのまま利用できるし、一般消費者自身にも大きな負担を強いることはない。つまり、円滑な利用拡大による転換リスクを最小限にとどめることが可能である。セルロース系エタノールもプラグインハイブリッドも水素自動車もこれからの技術革新に大いに依存しており、特大場外ホームランであるだけにエキサイティングではある。そうではあっても、着実に点(CO2)を稼ぎ、着実に進塁できる燻銀のようなバッター(コスト、エネルギーセキュリティ)の存在はいかなるチームにあっても決して小さくはない。
 さらに、2010年、日本の京都議定書目標達成計画上のバイオ燃料50万? は、およそ砂糖や穀物、エタノールの相場を引き上げるほどのインパクトを持つものではないし、ブラジル一国の供給余力内にすっぽり入ってしまう程度である。また、米・欧・伯で燃料用エタノールのスペックの検討が開始されるとの新聞報道もあったが、近い将来には国際市場が形成され、世界レベルでの安定した需給調整機構が構築されていくことになろう。そうだとすれば、その新たな環境やルールメイキングに関し、日本はどの程度関与していくことができるのであろうか。いずれにせよ、本格的な導入に向けて、可及的速やかな着手を望みたい。
■あとがき―その3
 2006年5月にまとめられた「新・国家エネルギー戦略」において、燃料源及び供給源の多様化の必要性と重要性が強調されたが、その後、経産省では一層本腰を入れて資源外交に取り組んでいる。甘利経産相は、就任以来、中東・アフリカ・中央アジアへと飛び回っておられるが、国会等の激務の中でのカザフスタン、南アフリカ、ボツアナといった不便な国への訪問は相当大変であったろうと思う。資源外交に的を絞られた大臣出張は出色と高く評価したい。
 しかし、そのリストの中にブラジルはまだない。また、資源開発といった場合、現時点での経産省のプレゼン資料には、資源とは石油・天然ガス・ウラン・鉄鉱石等鉱物資源・レアメタルではあっても、バイオマス資源はまだそれなりの地位が与えられていないようだ。
 バイオエタノールが日本でも注目され始めた1つのきっかけは、2004年9月の小泉首相のブラジル訪問ではなかったかと思われる。その翌年にはルーラ大統領が訪日され、2006年4月にはフルラン商工開発相(当時)も来日された。二階経産相(当時)との間で二階・フルランスタディグループが開催されたのもこの時であった。未来へのレールは既に敷かれているという見方もできる。今年6月にはブラジリアでの日伯交流百周年記念式典に皇太子殿下がご臨席され、翌7月にはG8洞爺湖サミットにあわせてルーラ大統領も来日されよう。
 こうして見てくると、エネルギー担当大臣の甘利経産相がブラジルを訪問されないのは画龍点睛を欠くのではないか。品確法改正等によりバイオ燃料市場構築に向けた第一歩を踏み出す経産大臣として、是非ブラジル訪問を実現してほしいものである。要人往来だけで事が済むわけではないが、文明の利器が著しく発達した今日でこそ、地道な努力が果たす役割を過小評価してはならないと思う。
■あとがき―その5
 人口増加と経済発展という地球の環境と資源に負荷を課す二大要因には抗し難いドライビングフォースがある。アクセルはふかしやすくても、ブレーキはかけにくいという非対称性の性質があるから、なかなか歯止めがかからない。
 他方、何とかしなければならないという共通認識が国際的に醸成され、バイオ燃料の利用拡大が世界の潮流になっている中で、日本はどう身を処していくべきか。資源小国かつ通商国家としての日本は、後追い・追随路線から脱皮して、アジアやアフリカの経済発展を支援する観点から先進国が発展途上国のバイオマス資源を有効活用するというイニシアティブをとるべきではないか。
 衣食足りて礼節を知るとは言うが、この意味するところはアマゾンジャングルを守れという掛け声だけではなく、アマゾンのジャングルを不法に伐採しなくても済むように雇用吸収力を高めて経済発展のための基盤づくりをやらない限り画餅に帰すということではないかと思う。世界的な利用拡大が急速であれば、その分、食料との競合問題や森林の過剰伐採問題が絡んできやすい。時間があるうちであれば急激な転換は必要ないので、無理のない形で円滑な転換が進められるよう。ホームランとは言わないまでも一石三鳥ぐらいにはなるクリーンヒットを狙っていきたいものである。
■あとがきのあとがき
 昨年8月終わり頃、ちょうどこのエッセイを書き始めた頃から、筆者は吉川英治歴史時代文庫と山岡荘八歴史文庫にのめりこんでしまいました。両文庫とも合わせて185巻ですが、そのうち90巻ぐらいまでは読み進んできたところです。吉川英治の『新平家物語』全16巻では滅び行くものの理に哀しみ、『毛利元就』2巻では「愚かなることは大罪の一つじゃ」という元就の一言がぐっさり胸を突き、山岡荘八の『柳生石舟斎』、『柳生宗矩』4巻では無刀取りの極意に唸り、長過ぎると躊躇いがちに読み始めた『徳川家康』全26巻に一番感動してしまいました。
 筆者にとっての圧巻は、家康が征夷大将軍職を秀忠に譲って大御所となり、駿府において、伊達政宗の上を行く、冷静かつ緻密な情報収集・分析を通じて、「一視同仁」の原則の下で交易拡大を図りながら内憂外患の日本を切り盛りしていくあたりでしょうか。さらに、徳川家康が頻りに言った「神仏のご加護」ということも心に残っています。筆者流に言い換えれば、天・地・人の理(=自然との調和)に適わないものは持続可能ではないということであり、神仏のご加護もあり得ないということだと思います。
 そうした世界観・人生観に立てば、古今東西、選択の良し悪しが反映と没落のいずれかに導いてきたことに思いを致し、自然の摂理に適うような賢明な選択をするということを常に心掛けてこそ、「神仏のご加護」があるということでしょうか。だから何だと言われれば、身も蓋もありませんが、単に徳川家康であれば地球温暖化とオイルピークにどう取り組むだろうかという素朴なifです。
 1回1回自分なりに工夫をしたつもりなのですが、勝手気ままに書かせていただいたので果たして共感してもらえたことがあったかどうか全く自信がありません。歴史小説に血肉沸き踊りながらのままこの原稿書きに取り組むと、キーボードの上の指が全然動かなかったということが再三ありました。最終回の最終コーナーになってみると、まさに赤面の至りなのですが、ゴールが見えて、とにもかくにもホッとしているというのが正直なところです。ブラジルとバイオエタノールの宣伝になればということで気楽にお引き受けしたものですが、その思いが少しでも伝わってくれれば嬉しいです。
 いつもより長くなってしまい、すいませんでした。これで終わりになりますが、宮田主任編集委員と久保田さんに対し、こういう貴重な機会を与えていただき、また読んでいただいた皆様に心から感謝しています。
 本当にありがとうございました。(掛林誠)