みなさん、こんにちは。相変わらず東京は暖かいですね。今日の湯川先生の寄稿にもありますが、どうやら欧州も今年は相当暖かいみたいです。昨晩、ある大学の先生とお会いした時にも、「先日行ったスウェーデンも、脳が凍る寒さを覚悟していったところ、温かくて一度も帽子をかぶらなくてよかった」とお話になっていました。個人的には寒いのは好きではないので、脳が凍る寒さって想像を絶します。
 さて、今日はトウモロコシの話です。農林水産省で生物多様性影響評価検討会総合検討会が行われましたが、先日ちょっとお伝えしたシンジェンタシードの耐熱性αーアミラーゼ産生トウモロコシなどの検討が行われました。私は耐熱性αーアミラーゼ産生トウモロコシ目当てで検討会に行ったので、それ以外は傍聴しませんでしたが、これについては第一種使用規定承認が了承されました。
 検討会を傍聴していくつか分かったことがあります。1点は遺伝子組み換えのデザイン(というのか、わかりませんが)について。このトウモロコシには、好熱古細菌Thermococcales目由来のαーアミラーゼ遺伝子が、トウモロコシでの発現に適したコドンに置換されて導入されており、高温で高い活性を示します。ポイントは、遺伝子のN末端にはγ-ゼイン輸送シグナルペプチドが付けられていること。狙いは、αーアミラーゼを小胞体に蓄積させて、基質であるデンプンに触れさせないようにするためだそうです。検討会の委員の先生も、ちょっと感心しておられましたが、私もなるほど、と思いましたね。
 それからもう1点は、シンジェンタの戦略について。通常、エタノールを製造する際にトウモロコシを使う場合は、トウモロコシの乾燥粉末を高温処理してデンプンを溶解し、微生物を使って製造、販売されているαーアミラーゼを加えてデンプンを液化します。そして、発酵、蒸留させてエタノールを製造するわけです。
 一方、資料によれば、耐熱性αーアミラーゼ産生トウモロコシを使う場合、「デンプンを液化する工程で、耐熱性αーアミラーゼ産生トウモロコシを従来のトウモロコシ種子に混合することにより、工程作業の簡略化、低コスト化が期待できる」と書かれていました。私はてっきり、シンジェンタは、農家がエタノール向けに作っている普通のトウモロコシ品種を耐熱性αーアミラーゼ産生トウモロコシで置き換えてください! とこのトウモロコシを販売するのだと考えていました。
 でもよく考えてみると、将来販売される時に耐熱性αーアミラーゼ産生トウモロコシの価格はあまり安くはならないでしょうし、農家は取引価格によって生産したトウモロコシを食用にしたりエタノール用にしたりする可能性もあるのかもしれません。そうなれば耐熱性αーアミラーゼ産生トウモロコシばっかり作るというのは、農家にとって現実的ではないです。そこで、シンジェンタは畑の一角で少量、耐熱性αーアミラーゼ産生トウモロコシを生産し、通常の品種に混ぜて使ってください、と売り込もうと考えているようです。
 言ってみれば、「畑の一角で耐熱性αーアミラーゼを作ってください」、ということですね。そう考えると、このトウモロコシは作物ではあるのですが、酵素のミニ工場でもあるのだなあ、と思うのです。この点で言えば、シンジェンタのライバルは、ほかの種子メーカーではなく、デンマークNovozyme社であり、米Genencor社(デンマークDanisco社)です。そして、種子メーカー対酵素メーカーの競争は、今はトウモロコシで起きているわけですが、これからはバイオマス作物全般に起きるでしょうね。トウモロコシひとつで、とても想像が広がった一日でした。
 さて、本日は地球環境産業技術研究機構の湯川英明氏にご寄稿いただきました。英BP社と米DuPont社のバイオブタノールの研究開発の話題ですので必読です。そして、合わせて、以下のニュースを読むことをオススメします。
海外重要発表、DuPont社とBP社、
バイオブタノールの開発プロジェクトが進展
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/0861/
※※みなさまからのご意見、ご批判をお待ちしております。
https://bpcgi.nikkeibp.co.jp/form-cgi/formhtml.cgi?form=ask_pass4/index.
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                             記者 久保田文
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海外重要発表、DuPont社とBP社、
バイオブタノールの開発プロジェクトが進展
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/0861/
海外重要発表、Metabolix社とDanforth Plant Science Center、
バイオプラスチックとバイオ燃料を同時に生産する油糧種子作物開発に向け提携
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/0862/
タイ有数の精糖企業Mitr Phol Sugar社、
エタノール生産拡大へ意欲
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/0807/
米国アイオワ州副知事、エタノール生産全米一なるも
「食料としてのトウモロコシやダイズは安定供給する」
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/0824/
※※記事全文をお読みいただくには「日経バイオテクオンライン」への申し込みが必要です。申し込みはこちらから。
http://bio.nikkeibp.co.jp/bio/nbto/
◆オピニオン◆◆◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 世界で激化するバイオブタノールの研究開発競争
                 ―― 地球環境産業技術研究機構 湯川英明
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 京都の2月は寒さがこたえる毎日です。温暖化が言われてますが、なぜか、今年は例年以上に雪の日が多い感じです。ようやく2月の後半になり、梅の開花が地元紙に報じられるようになりました。京都では、季節の情報はタクシーの運転手さんに聞くのが一番です。京都の真ん中にあります八坂神社などが見ごろとのことです。
 さて、今月は2月12、13日にドイツ・ハンブルグで開催のNext Generation Biofuelsのカンファレンスのご報告をしましょう。ドイツの2月ということで、すごい寒さかと覚悟して行ったのですが、今年は例年になく温暖な気候とかで、なんと京都よりも暖かい感じでした。
 カンファレンスのご紹介に戻りましょう。"次世代のバイオ燃料"の具体的な対象は、セルロース原料のバイオエタノールと、ブタノール、ガス化バイオマスからの化学変換によるディーゼル燃料でした。ガス化バイオマスからの製造は、会場からの質問にもありましたが、経済性に大きな課題があり、積極的なバイオ燃料製造というよりも、「低品質のバイオマス(たんぱく質、脂肪類を含有する食品廃棄物等)」の有効処理法という位置付けが強いでしょう。
 この分野は、米国では次々とベンチャーが設立されており、メタン発酵の代替プロセスとして期待されています。私は技術面ではまったくの素人ですから、確定的なことは言えませんが、質疑を聞いていますと、技術的に最近大きな進展があったということではなく原油の高騰から今後経済性が見込まれるという感じですね。
 私が最も注目したセッションはもちろんバイオブタノールです。現在、バイオブタノールに関する米国ベンチャー、BP-デュポン連合等の研究開発は、ABE発酵(アセトン・ブタノール・エタノール発酵)の改良研究と、工業的に"使いやすい"微生物種を宿主としてシステム・バイオロジーを駆使して生産株を創製する方針に大別されます。
 今回はABE発酵能を有する新規なクロストリジューム属株をスクリーニングしたとの発表がありましたが、菌株が中等度高熱性と開示されましたが、生産性などは明らかにされませんでした。今回の発表に限らず、複数の研究機関がABE発酵能を有するスクリーニングを実施しているとの話も聞こえてきます。ABE発酵現象は、代謝調節機能など基礎科学的な面からは大変興味深いことですので、該機能を有する微生物種が広がることが期待されます。
 バイオブタノールの燃料としての利用に関するBPの発表も関心を集めました。ブタノールとガソリンの混合燃料の走行試験に関するものでした。ガソリンへの混合ではエタノールよりもブタノール混合が利点があること、混合率は15-20%が好ましいことを明らかにした。さらに、60台の自動車を使った走行テストについても発表がありました。
 使用した自動車は新車と年式の異なる中古車(最も古いのは10年使用中古車)で、総走行距離100万マイルでも、何の問題もなったとのことでした。まったく素人の私には、走行距離で驚いてしまいましたが、自動車会社の方に聞いたところこの程度はごく簡単な初期走行試験とのことです。いずれにせよ、BP-デュポン連合軍はバイオブタノールの開発・実用化に本腰を入れていることは確かですね。会場からの質問に答える形で、経由への混合試験結果も次に発表することも明らかにされました。また、ガソリンや経由への混合に必須となる各種の添加剤の特許も数十件出願しているとの述べたことは注目されます。
 さて、このブタノールセッションでは、私も講演に呼ばれまして、タイトルは、「ソフトバイオマス由来のC6C混合糖からの、エタノール、ブタノール生産」でした。質問は、いずれの学会でも受ける定番の「バイオブタノールの技術確立の時期は?」「どこの企業との研究か?」で、私の答えも毎度同じで、前者には「ASAP(今すぐにでも)」、後者は「国家プロジェクトを視野に」。
 バイオ燃料を含めたバイオリファイナリーに関する学会での講演は、今年は昨年以上に、活発になるでしょう(私どもへの海外での講演依頼も増加しております)。海外学会では技術に関する講演だけでなく、サステイナビリチィーの視点の講演も盛んです。多くの企業研究者の方には、参加されることを強くお勧めいたします。(地球環境産業技術研究機構 湯川英明)