みなさん、こんにちは。今日は市原市にある旭硝子の千葉工場に取材に行き、今帰ってきたところです。取材というのは、同社が以前から行っているポンペ酵母を使ったたんぱく質の製造受託事業(ASPEX)を拡大するため、千葉工場の中に新しい製造工場を竣工し、その竣工記念見学会があったたためです。暖かい日に遠出をすると、ちょっとしたピクニック気分ですね。
 受託事業は、医薬品向けのたんぱく質の製造であるため、環境とは直接関係ないのですが、竣工記念パーティーで同社の門松正宏社長に聞いた話には興味を引かれました。それは同社が国のプロジェクトで進めている「省エネルギーガラス溶解技術」を、ただ自社の製造プロセスの省エネ化に使うだけでなく、将来的に排出権取引ビジネスに利用する可能性がある、というものです。
 私もガラスの製造については、まったくの素人ですが、ちょっと調べてみたところ、ガラスの製造プロセスは相当のエネルギーが使われているそうです。通常、ガラス製品は数日から一週間程度にわたり、釜の中で長時間高温をかけて溶解されます。工程内でうまく溶解しなかったものなどはもう一度溶かされたりするのですが、そういった工程内のサイクルを考えても、正味の歩留まりは70%。さらに仮に歩留まりが100%だったとしても、そのエネルギー効率は30%程度にとどまっているそうです。
 しかも、ガラス産業は国内全産業の消費エネルギーの1%を占めているとのこと。省エネ化が求められているのも分かりますね。そこで、2005年度から経済産業省の予算で「直接ガラス化による革新的省エネルギーガラス溶解技術プロジェクト」で、物質・材料研究機構や旭硝子、東京工業大学などが共同研究を開始。粉上のガラスを釜に落とす際にプラズマをかけて溶かすことで、以前ほど釜の中で長時間高温をかけて溶解せずに済む技術の開発を行っています。
 技術の開発は、旭硝子にとっては自社のガラス製造プロセスの省エネ化につながるもの。ただ、おそらく技術が非常に省エネ化に有効であり、世界で使われる可能性があるからでしょう、排出権取引ビジネスに利用する“売り物”になるのでは、というわけなのです。それを聞いて、石油化学産業で使われてきたケミカルプロセスをバイオプロセス化することにも通じるなと感じました。
 排出権取引で“売り物”になるレベルの技術を開発する重要性が高まっているということですね。以前、経産省の官僚の方が、「二酸化炭素の排出を抑制するため、一定レベル以上の技術を開発しているかどうか、各国の二酸化炭素の排出量を測定するよりも、本当に競うべきはここなのではないか。逆に言えばある一定レベル以上の技術を持っていれば、良しとすべきなのでは?」と話していましたが、これも似たようなことですね。かくして、医薬品ビジネス、ガラスビジネス、環境ビジネスについて学んだ一日でありました。
 さて、本日の農林水産省末松課長からご寄稿いただきました。食料自給率を向上する必要性について。どうぞお読みください。
※※みなさまからのご意見、ご批判をお待ちしております。
https://bpcgi.nikkeibp.co.jp/form-cgi/formhtml.cgi?form=ask_pass4/index.html
 
                             記者 久保田文
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◆オピニオン◆◆◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
  バイオマスと食料安全保障
   ~わが国の食料自給率をどうするか~   ―― 農林水産省 末松広行氏
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 今回は、私が直接担当している食料自給率についての状況をバイオマス政策に触れながら考えてみることにします。
■食料自給率の現状
 昨年、わが国のカロリーベースの食料自給率は39%に低下しました。このことについては、各方面で話題になりましたが、昭和40年代には70%台でしたので、その低下ぶりはかなり大きいものだと言えます。
 世界の中でも、このような自給率の低さは際立っていて、人口が1億を超えるような国、主要先進国では最低水準です。わが国の食料自給率が下がった要因は、大きく言えば2つです。
 一つは、食生活が変化し、食べるものが、国内で生産されていたものから外国に依存しているものに変化してきたこと。具体的にいえば、お米を食べなくなって、畜産物や油脂からカロリーを摂取するようになってきたということです。以前は、お米を1年に120キロ食べ、摂取するカロリーの半分を米に依存していましたが、現在は1年に60キロしか食べていません。
 もう一つは、昔は日本で作っていたものを現在は海外に依存している面もあるということです。例えば、江戸時代からあるてんぷらそば。これの自給率は、平均で22%しかありません。そばは6割が中国からの輸入ですし、えびは東南アジアの国々、小麦粉はアメリカやカナダといった具合です。
■世界の食料事情の変化
 食料の自給率が低下しても、海外から輸入すればいい。経済の原則に委ねて最も効率的に安価に生産できる場所から輸入することがいい、というような意見が、これまで割と多く言われてきました。特に日本は、貿易立国であるから、自由貿易を推進することが最も重要であり、農産物の輸入を増やすことで経済が発展するかのような議論もあります。
 ところが最近の国際食料状況の変化の中、本当に食料の調達が難しくなるかもしれないという意識が生まれつつあります。世界の食料需給については、次のことを留意する必要があります。
 一つは、世界の人口の増加と食生活の変化です。世界の人口は現在の60数億人から、2050年には90億人に増加すると予想されています。更に、少しずつ途上国の人々も畜産物の消費するようになっていくと言われています。例えば、牛肉1kgを生産するにはとうもろこし11kgが必要です。人口の伸びに加えて畜産物の消費増による食料需要の増加をこれから賄っていかなくてはなりません。
二つは、バイオ燃料の問題です。地球にやさしいバイオ燃料ですが、食料と競合する部分は、その部分だけ食料の需給がひっ迫する方向に働きます。バイオ燃料の生産動向は、食料需給の面からかなり重要な影響を与えるものとなっています。
三つは、地球温暖化などの環境変化です。地球温暖化が進むと食料生産にはプラスの面とマイナスの面があります。つまり、寒いところでは温暖化により作物が作りやすくなる、暑いところでは温暖化で温度が上がりすぎて作物が作りにくくなる、ということです。プラスマイナスではマイナスの面が多いだろうというのが今の予測です。これに加えて、1年に日本の農地面積以上の面積が砂漠化しているという事実も問題です。
■今後のシナリオ
 以上のような状況を踏まえると、今後の食料需給は、逼迫していくことを前提に考えていったほうがいいということになります。そうすると、わが国は、どうなるでしょうか。わが国が強い経済力を持ち続ける場合と、そうでない場合とで分けて考えてみます。経済力が低下した場合、他の国々との食料の奪い合いに苦労する展開が予想されます。今までそういう事態はあまり予想されませんでしたが、最近、「買い負け」という事例も生じており、国際市場で常に優先的に食料を調達できることが当たり前という考えはもはや通用しない状況となっています。
 強い経済力を持ち続けた場合、二つの可能性があります。一つは、最近増えている「輸出規制」により、お金を持ちながら買えないという事態が出現する可能性があるということです。現に、ロシア、ウクライナ、中国、ベトナムなどが輸出税を課したり、輸出制限を実施する国が増えています。
 最後の可能性は、引き続き強い経済力により輸入が継続できるというものです。しかし、先進国の飽食の陰で途上国で飢餓が増えていくことを放置することになります。現在、栄養不足と言われている人口は約8億人います。この人々が徐々に増えているのが現状です。
■食料自給率の向上
 以上のようなことを踏まえると、やはり一定の食料自給率は確保しておいたほうがいいということになります。食料自給率を向上させるためには、消費と生産の両面から変わっていくことが必要であり、関係者の努力が重要です。
 農林水産省では、国産農産物の付加価値を向上させ、消費を増やす努力をさらに進めていこうと思っています。さて、このような状況でのバイオマス利活用についてはどう考えているかです。以前にもお話ししましたが、食料とエネルギーの競合は問題であり、いざというときのためには食料を優先するようなことが必要だと思います。しかし、農産物は国内で生産しすぎた場合、価格の暴落や貯蔵に費用がかかるという問題もあり、農産物のいくつかの用途先ができることは食料供給力の向上になります。農産物からのバイオ燃料生産は、このような考え方から進めていこうというものです。
 また、茎や葉っぱのようなセルロース部分からのエタノール生産は、食用農産物の生産に伴って生産される副産物の価値を向上させることであり、農業生産の効率を上げることにもつながります。なお、ジャトロファなどの非食用作物からのバイオ燃料生産が話題になっていますが、これについて言及したいと思います。非食用作物なので食料と競合しないというのは正しいと思いますが、農地に新たに栽培しようとするのであれば食用の農産物生産の可能性を奪うものであり、食用農産物からのバイオ燃料生産より劣る行為だと思います。
 すなわち、もしそこに食用の作物も栽培でき、非食用の作物も栽培できる農地がある場合、食用の作物を生産してバイオ燃料を作るという行為はいざというときバイオ燃料の生産を食用に振り替えることができますから、食料供給力の強化につながると思います。しかし、非食用の作物を生産するのであればバイオ燃料はできますが食用へ振り替えるには時間とコストがかかることになり、食料供給力の強化にはなりません。当然、生産効率や土地条件によっても変わるので一概には言えませんが、非食用作物だからいいということはいえないと思います。