みなさん、こんにちは。いかがお過ごしですか。今年のインフルエンザの流行はAソ連型のようですね。かからないように注意したいところです。
 さて、本日は動物工場の話題です。物質生産の方法がシフトしているというのは化成品に限らず、医薬品の世界でも起きています。特に、生産コストが高くつく抗体などのたんぱく質製剤については、植物や動物を工場として利用して、たんぱく質を生産する動きが数多く見られます。
 動物工場で生産したたんぱく質製剤として、世界で初めて承認を獲得したデンマークGTC Biotherapeutics社のアンチトロンビン「ATryn」が11月26日に、発売されました。この製品は、同社が遺伝子組み換えヤギの乳で生産したもので、06年8月に欧州委員会(EC)から認可を得て、やっと発売にこぎつけたものです。手術中などのハイリスクな状況や、後天的アンチトロンビン欠損症患者に使われることになっています。
 実際の販売は、デンマークLEO Pharma社が行います。動物工場の利用で価格がどこまで下がるのか、そのあたりはまだ不透明ですが、生産方法のシフトがどのようなメリットを患者にもたらしてくれるのか、注目したいところです。
 本日は日伯エタノールの掛林誠氏にブラジルでの滞在記(第2回)をお書きいただきました。ぜひお読みください。
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                     日経バイオテク 記者 久保田文
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https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2004/8970/
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◆オピニオン◆◆◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
      第2回 ブラジル風土記      ―― 日伯エタノール 掛林誠
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■センペス
 CENPES(センペス)とは、CENTRO DE PESQUISAS E DESENVOLVIMENTOの略。リオデジャネイロにあるペトロブラスの中央研究所である。ペトロブラスの頭脳が集中している。大学のキャンパスを彷彿させる佇まいと思いきや、この研究所全体がすっぽりリオデジャネイロ連邦大学の敷地内にある。研究所の内部は、いろいろな研究分野ごとに別れているが、太陽光線を上手に活かして開放的な雰囲気を醸し出している。
 ホスト役のアンドレさんは燃料技術関係コーディネーターで、そのお部屋は明るく広々している。センペスの研究者はリオデジャネイロ連邦大学の教授を兼務している人も多く、教育にも従事するとともに、ブラジル国内のみならず世界の研究機関・研究者との間で幅広いネットワークを形成している由。センペスのオープンなポリシーは、企業としての実用重視だけでなく、基礎研究にも相当力点を置いていることがその構えそのものに現れている。最近では日本の自動車メーカーのエンジニアの訪問が多いとのことであった。
 センペス内には、大型バスや日本・ドイツの自動車が排出ガスの実証研究を行っている建屋があったが、欧米諸国としのぎを削っているリグノセルロース系エタノールの技術開発やエタノールから水素をとる開発研究も幅広く行っている。水素添加によるバイオディーゼル製造の研究開発はこの研究所で行われ、既に商業化生産までこぎつけた。量的規模はまだ大きくはないが、近々予定されているバイオディーゼルの混合 義務化への準備は既に整っていると見えた。日本のセンペスへの関心は本格的に高まるのはこれからではないか。
■CTC
 もう1つブラジル自慢の研究所のご紹介。サンパウロからエタノール100%車で走って数時間。同州内のピラシカーバ市にある、サトウキビ畑と木立に囲まれたサトウキビ技術センター(Centro de Tecnologia Canaviera)。同センターは、サトウキビの栽培方法から品種改良、衛星を使った害虫駆除方法等々、サトウキビからエタノールに関するいろいろな技術指導や研究を行い、会員農家等への貢献が主なミッション。
 近くのエタノールプラントからCTCにヘッドハンティングされたジャイメさんは、「約20年前まではコパスーカー(砂糖・エタノールの生産者組合)の付属研究機関の位置づけであった。今や独立して20年。農家やエタノール生産者からの会費収入でまかなわれている。会費は高く設定できないので、経営は楽ではない。質で勝負している」と説明してくれた。サトウキビは、元来、雑草同様、抵抗力が強くて、たくましいので、農薬・肥料も少なくてすみ、連作障害も相対的に小さい。地味を減退させない工夫として、従来から大豆やピーナツなどを輪作しているが、最近では、さらにサトウキビ畑の周りに木を植えていくことを勧めているのだそうだ。木や森の存在が極めて重要だということが分かってきたからだという。現在、ブラジルではサトウキビの遺伝子組み換えは禁止されているので、500種類以上の品種改良を行い、異なる条件での最適な品種を見つけ、栽培している。生産性だけではなく、多様性という観点も重要だとジャイメさんは強調した。
■国家アルコール計画
 某日、筆者はセンペスの1室で国家アルコール計画に関する講義を受けた。先生は、信念の人セルジオさん。セルジオさんの熱弁は2時間近く続いた。セルジオさんは、1975年から始まった国家アルコール計画の経過をたどりながら、次の点を力説してくれた。
―様々な失敗を繰り返しながらの試行錯誤の連続ではあったが、失敗の教訓を活かして柔軟に対応した。
―政府広報が不十分で利用する国民に混乱が生じ、一時的にせよ、政府への非難は囂々だったが、政策はぶれなかった。
 セルジオさん曰く、「混合率は当初の5%から始めて現在の25%にまで至るまでの道は決して平坦ではなかった。石油危機が収まった1980年代においても石油はできるだけ使うまいとするコンセンサスは崩れず、環境対応のウェイトも高まった。連邦政府は、規制・助成措置等各種の政策ツールを駆使し、サトウキビとエタノールの生産が増加し続けた。例えば、ペトロブラスは、独立事業者の利益を保護する目的から、サトウキビ栽培やエタノール生産の分野には参入できず、ロジスティックス分野に特化してきた」。
 ブラジルでの各種規制は1997年頃から緩和され始め、2000年頃には各種補助金を含め殆ど廃止された。エタノール価格が発熱量の違いを反映してガソリンより3~4割安いという値ごろ感が形成されるに至り、消費者はFFVを購入して、ガソリンとエタノールの価格差を踏まえて、賢くエタノールを使うという姿勢が定着している。「生産者は、砂糖とエタノールのどちらの利益が高いかという判断を行って、どちらをより多く生産するかを決める。今や、生産者にも消費者にも市場原理が貫徹している。米国の補助金たっぷりのエタノールとは一緒にはしないでほしい」と、セルジオさんはきっぱり締めくくった。
■継続は力
 ブラジルのサトウキビ栽培やエタノール製造は、今や一大産業にまで育ち、それを支える知的基盤も充実している。30年来の試行錯誤が生み出した経験と知識の蓄積は大きい。更に、失敗からの教訓を活かすという柔軟性も大事なポイントであるが、同時に成功するまでは頑固に固執する粘りも必要であろう。筆者は、2つの特徴的な研究機関の見学を通じて、「継続は力」の一大原則を目の当たりにすることができたように思う。
 そして、もう1つ筆者がブラジルで強い印象を受けたことはストーンと突き抜けた開放感である。失敗を活かす知恵と失敗に対する寛容さと、いずれ成功できるという大らかな楽観さとの総和による開放感ではないかという気がしている。これは一朝一夕にはできず、時間をかけながら、豊かなで大きな自然の中でじっくり育まれるものなのかもしれない。失敗してはいけない、失敗させないというだけの構えでは、縮み方向に傾き、閉塞感が覆ってしまう。いずれにせよ、30有余年のブラジルの知見は、日本としても虚心坦懐に見習い、大いに活用したいものである。
                       (日伯エタノール 掛林誠氏)