みなさん、こんにちは。昨晩、「明日東京で雪が降るらしい」と聞いて、びっくりしてしまいました。会社にいる今も、どんどん雲行きが悪くなっていますし、早くコートを買わないといけません。
 さて、11月は重要なニュースが多かった1カ月でした。重要なニュースの1つ目は、経済産業省が主導して立ち上げた「バイオ燃料技術革新協議会」が初会合を行ったことです。非公開のため傍聴はできませんでしたが、これまで各省がばらばらに行っている感の強かったバイオマス関連施策に一定の方向が出てくるのではないかと期待しています。
 国内でいかにバイオマスを収集、バイオ燃料を利用するか。そして、海外への技術供与や、海外での事業化を、排出権取引とどのように結びつけて行うか。そのあたりの戦略が打ち出せるといいのですね。国内のバイオマス関連施策の大前提について、今号では農林水産省の末松広行氏にご寄稿いただきましたので、ぜひお読みください。
 重要なニュースの2つ目は、基礎研究の話題です。下の記事にもありますが、11月22日のNature誌にシロアリの腸内細菌のゲノムについての論文が掲載されたことです。シロアリは、枯れ木などをエネルギー源として利用することが知られていますが、硬い木質バイオマスの分解を助けているのは、腸内に住む多様な細菌が持つセルラーゼであることが知られています。そのため、シロアリの腸内細菌のゲノム情報は、木質バイオマスを分解するセルラーゼの開発を促進すると期待されているのです。
(シロアリの腸内細菌ゲノムの論文に関する記事はこちら)
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2004/8782/
(シロアリの腸内細菌の研究に取り組む理研・守屋専任研究員の記事はこちら)
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2004/5410/
 さらに、米エネルギー省とともにこの研究を行った米Vrenium社は、もともと米Diversa社というバイオベンチャーが別のバイオベンチャーと合併して設立された企業です。Diversa社は、土壌中の多様な微生物のゲノムを読んで、有用な酵素などの遺伝子に変異をかけ、酵素活性などを高めるための特許を保有しています。まだ基礎研究段階ではありますが、今後の研究次第では、米Genencor社とデンマークNovozymes社が繰り広げてきたセルラーゼ開発競争に、Vrenium社が割って入ってくる可能性もありそうです。
(Diversa社の特許についての記事はこちら)
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2002/7357/
※※ご意見・ご感想などはこちら。
mailto:nbt-e@nikkeibp.co.jp
                     日経バイオテク 記者 久保田文
◆BTJの関連記事◆◆◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
           農業・環境関連の記事
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
水産総合研究センター、
魚介類の病原を同定するDNAチップを開発
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2004/8780/
農業・食品産業技術総合研究機構、
ピーマンモザイク病の予防用ワクチンを開発
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2004/8781/
海外重要発表、米エネルギー省などの研究コンソーシアム、
シロアリ腸内細菌の遺伝子を解析
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2004/8782/
海外重要発表、Bayer CropScience社、Mertec社、M.S. Technologies社、
新規ダイズ品種を共同開発へ
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2004/8783/
海外現地報告、米USDAのアグリバイオアドバイザー、
GMコムギ商業化に楽観的な見通し
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2004/8715/
海外現地報告、「米国牛肉問題は日米の外交問題にしてはいけない」
と米国務省日本国担当部長
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2004/8714/
王子製紙、パルプ酵素法によるキシロオリゴ糖のブランド初披露、
メラニン産生抑制や鉄吸収促進など学会発表
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2004/8671/
※※記事全文をお読みいただくには「日経バイオテクオンライン」への申し込みが必要です。申し込みはこちらから。
http://bio.nikkeibp.co.jp/bio/nbto/
◆オピニオン◆◆◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 わが国はバイオ燃料の生産に向いていないか
~地球温暖化防止を他国任せにしてはならない~ ―― 農林水産省 末松広行氏
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 新しい取り組みが始まる時、その問題点、課題を指摘することは重要なことだと思います。しかし、新しい取り組みの可能性をすべて否定していては、進歩はないと思います。特に、世の中の注目を浴びたいだけでなされているようにみえる否定論は残念に思います。今号では、「我が国はエタノールの生産に向いていない。」という議論について、果たして本当にそうなのか、考えてみたいと思います。
■食料生産と資源作物生産
 わが国の食料自給率は、39%と先進国の中では最低の水準です。自給率が低いことは、いざというときに国民の食料を安定的に供給できない恐れがあり、この自給率を向上させることは政府としての大きな課題です。
 当然、エネルギーのための農産物を生産するよりも、食料のための農産物を生産することのほうが重要です。しかし、例えばお米についていえば、現在、お米の価格が下がっていて、多くの農家がたいへん苦しい状態になっている現実があります。単純に食料を生産すれば済む、というようなことならば、米の過剰問題も耕作放棄地の問題も発生しません。
 「(エタノール用原料など作らずに)まず食料を生産すべきではないか」という意見も、間違ってはいませんが、それですべてが解決できないことについて、よく考えてもらいたいと思います。ちょっと簡略化して説明しましょう。
 戦後、わが国では国民の主食である米をできるだけ多く生産できるよう努力してきました。その結果、昭和40年代には米の「自給」を達成し、1人当たり年間120kgの米を食べるようになりました。その後、食生活の多様化、欧米化が進み、米の消費量は現在一人当たり年間60kgです。
 江戸時代の「一石」は、お米の重量に換算すると150kgのことです。当時は、150kgのお米で日本人1人が1年間生活していたので、こういった単位が使われていたのですが、現在、私たちは、その2.5分の1しか食べていないわけですね。これではお米が余ってしまうのは当然です。
 日本の水田はお米をつくるのに適しています。また、まだまだ生産する能力を有しています。従って、もっとお米を食べることが最も望ましい解決策であることはまず間違いないと思います。今より、例えば、20%余計にお米を食べるようになれば、生産調整の負担は相当軽減されるともに、たぶん日本人の健康状態も良くなり、医療費も削減できるのではないかと思われます。
 余談ですが、欧米が長寿と健康の秘訣として賞賛した日本型食生活は、昭和55年ころの日本の食事だと言われています。その頃と今の食事を比較すると、お米などの炭水化物の摂取が減り、油脂類の摂取が増えています。理想的な食事バランスを取り戻すためにももう少しお米を食べるといいということになります。
 しかし、お米を強制的に食べさせることはできません。そのような状態の中でも、食料安全保障の観点から、農地を農地として最大限に活用するために、水田を水田として活用できる手段を用意しておくことは必要なことであると思います。食料の特徴は、「胃袋一定の法則」があり、足りなければ本当に困る一方、過剰を放置すると価格の安定が保たれないことです。過剰時の対策、不足を生じさせないための対策としてバイオ燃料という需要は大きな選択肢だと思います。
■飼料と燃料
 燃料需要と飼料需要の関係についても述べておきましょう。食料自給率の関係からは飼料としての活用が望まれるのは言うまでもありません。しかし、飼料としてならどんなものでも活用できるというものではありません。この点についても安易に考えることはできません。
 基本的に飼料向けの価格と燃料向けの価格は、国際的に開かれているため、相互に影響していきます。飼料としての活用ができない場合の燃料需要が確保されていることは安定的な飼料生産にも資するものだと思います。
■木質バイオマス
 木質バイオマスについても、その活用の方策は多面的に検討されるべきだと考えています。エタノール生産についていえば、その課題はセルロースからの効率的変換だけでなく、収集・運搬の効率化・低コスト化です。収集・運搬の効率化・低コスト化は、エタノール生産にだけ役立つのではなく、チップ化した燃料、またマテリアル原料としての活用にも役立ちます。技術開発について、エタノール生産を否定して開発する必要は全くなく、様々な可能性を包含しながら進めることが大切だと思います。
■セルロース系バイオマス
 食料との競合については、将来的には避けるべきものであり、重要なのは「食料と競合しないバイオマス資源」の効率的な活用です。そのためにソフトセルロースからのエタノール生産、更には木質からのエタノール生産について実用化を早めていく必要があると思っています。
 その際、いきなりセルロース系からの企業ベースのエタノール工場をわが国でつくることができるでしょうか。現在、着手しているでんぷん質や糖質からのエタノール工場においても、様々な技術的課題が生じ、それに対する解決策が生まれているのが実情です。このような技術的な蓄積があって初めて次の技術にステップアップできるというものではないかと思います。
 特に、今後エタノール製造技術は、海外への貢献が期待されています。わが国の技術が世界に受け入れられているのは、自国でキチンと生産するシステムとその検証を行った上で、更に公害規制等もキチンとクリアできるものを自ら作り運営してみるからだと思います。自国での技術開発を進めることの大切さも理解していただきたいと思います。
■画一的な考え方は問題
 農林水産省に勤務する私は、食料の安定供給をどう果たしていくかについていつも真剣に考えています。そして思うのですが、画一的に食料を生産すればいいとか、生産や地域の現場の多様性を無視して一つの方法だけを推進するとか、単純に物事が動くという考え方は問題ではないでしょうか。
 バイオエタノールという新たな需要が発生したことで、稲作についての新たな可能性と課題が発生しました。これまでの高品質な米作りと全く反対の多収化、低コスト化の米作りです。簡単なことではないですが、すでにかなりのコストダウンの可能性が見えてきました。この成果は、エタノールのためだけではなく、加工用、餌用、いろいろな方面に応用できます。最も安価な米作りを目指すことで、別の需要も見えてきたのではないかと思います。
 地球温暖化防止のためにはいろいろなことをすべきだと思います。できることは多くあると思います。できることが多くあるからエタノール生産には反対というのは理解できません。エタノール生産に向けた努力も、できることの一つになる可能性があると思います。エタノール生産に向けたいろいろな取り組みが「選挙向けのバラマキ対策」になるという意見も理解できません。
 バイオマス関係の国の支援は、エタノールの限らず様々な分野に及んでいます。エタノールにだけ支援をさせたくないのかも知れませんが、そうだとすればあえて反対のための反対の論陣を張って政治的な行動をするということになってしまいます。私たちは、当然、反論は大切なことだと思っています。しかし、できれば論理的で建設的な議論をしたいものです。
                         (農林水産省 末松広行)