みなさん、こんにちは。すっかり寒さが厳しくなって参りましたが、いかがお過ごしですか? 今年はインフルエンザの流行が早まっていますので、私は今週早々、ワクチンを打ちました。
 さて、今週の寄稿は財団法人地球環境産業技術研究機構の湯川英明氏にお願いしました。まさに、このメールをスタートした理由がそれですが、米国を中心に世界ではものづくりのパラダイムシフトが起きています。
 バイオマスからのエタノール生産に限らず、パラダイムシフトがより多様な化学物質生産へ波及することは間違いないでしょう。国内でも経済産業省が中心となって、セルロース系バイオマスからプロピレンなどを生産するための技術開発を目的に、08年度から新しいプロジェクトを立ち上げますが、世界でも激しい研究開発競争が進められています。08年は私たちも、ポストエタノールの研究開発についてさらに取材を進めたいと思います。
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                     日経バイオテク 記者 久保田文
 
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◆オピニオン◆◆◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
     石油化学工業から“石油”が消える日      
――― 地球環境産業技術研究機構 湯川英明氏
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 11月は米国・フロリダで開催されたSIM(米国工業微生物学会)のサテライトシンポジウム、ハワイ・ワイキキでのシンポジウムに参加、講演するなど、ばたばたやっております。さて、これまで、機会あるごとに説明してきましたが、米国の現在のバイオ燃料フィーバーにのみ目が奪われていると、その背景にある大きな産業・技術のパラダイムシフトの動きを見逃してしまいます。
 この動きとは、バイオマスからの化学品・エネルギー生産を基盤とする新規産業「バイオリファイナリー」ですが、バイオ燃料の動きはこれまでその一端を述べてきましたので、今回はもうひとつの柱である、バイオ化学品の状況を紹介しましょう。バイオ化学品の工業化の方向は2つに大分されます。
■“新規製品”群製造
 既存の石油化学工業では経済的な製造が困難なことから、生産がされていないか、もしくは生産規模(市場規模)が限定されていた製品群がターゲットとなっている製品です。化学構造的には主として炭素数3から炭素数6の有機酸、アルコール類などで、具体的な製品としてはコハク酸、プロパンジオール、アクリル酸、イタコン酸等々が話題となっています。(参考資料:DOEレポート「トップ12製品」をご覧ください、なお、NEDOから翻訳資料も出ております)。
■石油化学プロセスの“グリーン化”
 新たな動きとして大変注目されているのがこちらです。石油化学の出発原料そのものを、バイオマス由来に変更してしまおうというものです。バイオエタノールからエチレンを製造、プロピレン原料にバイオプロパノール、C4原料としてバイオブタノールを使用するわけです。 つまり、石油化学工業から“石油”が消えて、「グリーン化学工業」に生まれ変わろうとする動きです。
■“グリーン化学工業”の背景 ――市場面からのプレッシャー
 バイオリファイナリーの産業化への“プレッシャー”は、消費者の環境マインドへの対応がベースです。これに、もちろん最近の原油の高騰も拍車を掛けています。ところで、原油価格は過去、乱高下の歴史や、さらに“狼少年”にたとえられる原油枯渇予測がありますが、「今回はこれまでとは違うらしい」、「peak oil説は本当なのでは?」 「石油メジャーがこぞって、バイオ燃料に莫大な研究費支出をしているのがその証拠では?」 との話が米国のカンファレンスでは言われています。 今後、どうなるのでしょうか?
 いずれにしろ、自動車、電気等の産業界は、消費者の環境意識の高まりに対応し、使用部材のグリーン化率向上の遅れは、企業の存立にかかわることとの認識が、プレッシャーとなっているわけです。すでに、ダウはバイオエタノールからのエチレン製造計画を発表し、さらに米国ではバイオベンチャー企業(複数)が、バイオプロパノール、バイオブタノールを研究開発のターゲットとし、注力するとの発表がなされています。研究開発の動向を次に説明しましょう。
■グリーン化学工業に関する研究開発状況
 ダウやベンチャー企業等のグリーン化学工業への取り組み状況から、実現はごく間近、数年後と言って間違いはないでしょう。理由としてはまず原料となる『混合糖』が想定コスト内にて製造可能となったことにあります。これは、ソフトバイオマスからのバイオエタノールの大規模製造が“秒読み”段階になったことが背景です。このため、バイオエタノールを原料とするエチレンのグリーン化が可能となるだけでなく、バイオプロパノール製造も原料(混合糖)のコスト面への懸念は不要なことを意味するわけです。さらに、グリーン化学工業に必要な“混合糖類”量は、バイオ燃料用途と比較しはるかに『少量』なことから、量的な心配もありません。
 エチレン原料となるバイオエタノールに関する技術開発要素は、基本的には燃料用途と同じであり、問題はありません。課題としては例えばエチレン製造時に使用する触媒への影響などが考えられるでしょう。実現までまさに“秒読み”でしょう。
 プロピレン原料となる、プロパノールは事情がまったく異なります。プロパノールを生成する代謝系を保有する微生物は自然界ではごく特殊な存在であり、しかもその生産性はきわめて低くそれらの微生物種を用いての工業化は期待できません。では、ベンチャー企業などは、どのようにして工業プロセス構築を図っているのでしょうか? 上記のプロパノール生成代謝経路を構成する遺伝子群を特定し、これらを工業的に優位な微生物種に該遺伝子群を組み換えし、さらに生産性を向上させようとするプランです。RITEでは工業的なプロパノール製造プロセスを確立すべく研究に注力し、すでに基礎的に目処を得たことを発表しています。研究の一部は近々論文として公表いたします。
■グリーン化学工業の展望
 これまで、石油化学工業は市場に隣接し立地し原料(石油もしくは天然ガス等)を、遠路輸送するか、原料産出地へ立地し製品輸送かの選択でありました。しかしながら、グリーン化学工業においては立地の選択肢は大変フレキシブルとなり、今後の経済発展が見込まれ化学品有望市場(アジア地区等)においては、まさに市場と原料の隣接した立地が可能となるわけです。バイオリファイナリー技術による産業のパラダイムシフトの実現例登場はもう間近です。