みなさん、こんにちは。10月も後半に入って、徐々に寒さが増してまいりました。いかがお過ごしですか。
 さて、今週は、地球環境産業技術研究機構の湯川英明氏に欧米の燃料用エタノールの工業化を手がけるベンチャーの実力について寄稿していただきました。先週米Genencor社がセルロース系バイオマス向けのセルラーゼを発売したことについて触れましたが、既に(主に米国では)セルラーゼの実用化を含め、セルロース系バイオマスの利用が現実のものになりつつあります。とはいえ、技術面、コスト面など厳しい市場を勝ち抜くには、まだまだベンチャー企業には成長が求められているようです。
 セルラーゼといえば、みなさんもご存知の通りデンマークNovozymes社とデンマークDanisco社傘下ののGenencor社が開発競争を繰り広げています。ただし、一口にセルラーゼの実用化、事業化といっても、両社の事業戦略は大きく異なっているようだ、ということが徐々に分かってきました。あくまで酵素事業に徹するNovozymes社に対し、Gnenecor社はエタノール事業に重きを置いているとでもいうのでしょうか。
 Novozymes社は、多種のセルラーゼについて、宿主に必要な遺伝子を導入し、アミノ酸を置き換えて、生産効率を上げて、原料となるバイオマスに合わせて最適にブレンドした酵素を製品として発売しようとしています。バイオテクノロジーを最大限に使って、より安く、1種類のセルラーゼの分解活性もより高いものにしようとしているようです。
 一方、Genencor社は、各エタノール製造プラントごとに最適な酵素の生産などを含むプロセスを開発していこうという考えで、糖化発酵槽の隣にトリコデルマの培養槽を設置し、セルラーゼを作らせた後、トリコデルマの培養液ごと糖化発酵槽へ流すことまで視野に入れているようです。いずれにせよセルロース系バイオマス由来のエタノール製造には役立つことに間違いはありませんが、この事業戦略の違いが今後どのようにユーザーから受け止められるのか。大変興味深いところですので、ぜひ取材を続けたいと思います。また、読者の方の中に、こういったセルラーゼ開発についてご意見をお持ちの方がいらっしゃいましたら、下記までご連絡ください。ぜひ取材させていただければと考えております。(久保田文)
                     日経バイオテク 記者 久保田文
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◆オピニオン◆◆◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
   欧米エタノールベンチャーの実力は?
                ―― 地球環境産業技術研究機構 湯川英明氏
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 「Next Generation Biofuels」のシンポジウムに参加するため、現在米国・シカゴに来ています。先々週は、オランダ・アムステルダムで同様の欧州版シンポジウムがありました。これらを含めてごく最近のバイオ燃料の動向をご報告したいと思います。
 興味を引かれることの1つは、バイオ燃料関連のベンチャー企業が、米国はもとより欧州にも続々と誕生しているということです。これに伴い、欧米では人材の交流が活発になってきました。友人、知人たちの名刺の所属がそれを表しています。まさに、IT産業の黎明期の様相、いやそれ以上との指摘もあるほどです。
 これらベンチャー企業の事業内容を分類すると、もちろん「燃料用エタノールの工業化」が主流ではありますが、一部の企業は「バイオブタノールの“新技術”開発」、「エネルギー作物の育種・栽培技術の開発」を手がけていることが分かります。
■ベンチャーが画く燃料エタノール工業生産のシナリオ
 とはいえ、米国と欧州のベンチャーが画くシナリオは大きく異なります。米国はセルロースからの生産、欧州ではセルロースは将来の原料として考えられており、当面はデンプン原料でスタートするというのが主流です。にもかかわらず、技術の中味を見ると、どちらの地域のベンチャー企業も、特筆すべき技術を持っているわけではありません。つまり、自己の技術を基盤として起業したところは少なく、多くの企業が既存技術の“組み合わせ”で勝負しようとしているのです。それでも続々とベンチャー企業が出現するのはなぜでしょうか?
 答えは、欧米で違います。欧州では、各国政府の手厚い経済支援が背景にあります。原料となるデンプン系の作物栽培への農業支援と、プラント建設費への支援です。もちろん、原油高騰に起因するガソリン高価格が今後も続くとの予測が基礎となっています。ただし、手厚い支援があっても欧州圏内での生産の経済性は当面は厳しいと予測されています。原料価格がかかりすぎることが大きな課題です。
 一方、米国の状況は欧州のそれとはかなり異なります。一言でいえば、原料となるセルロース系バイオマスが低コストで手に入るため、製造する燃料用エタノールの販売想定価格が、製造コストを大きく超え、利益が出やすい構造になっているためです。この状況は、セルロースの糖化コスト(セルラーゼのコスト)が大きく低下したことに起因します。どのベンチャーも、セルラーゼのコストはバリアとはならないと話すほどです。ところで、業界では、世界のセルラーゼ市場に、中国企業が参入するとの噂も流れており、欧米企業は、今後成長が期待されるセルラーゼ市場で、激しいコスト競争をしなければならない状況に直面しています。
 さて、では次に、米国で燃料用エタノールの工業化を手がけるベンチャー企業の技術を見てみましょう。彼らの技術は“革新性”が低いと申し上げましたが、その典型例を、燃料エタノール製造のコアである、アルコール発酵プロセスに見ることが出来ます。
 セルロースからエタノールを製造するのに、5炭糖の同時利用を可能にすることは大きな課題です。これまでの多くの研究機関、企業の研究では5炭糖の利用能の付与はできても、6炭糖存在下での5炭糖利用は不可能もしくは利用速度が大変低い状況でした。つまり、本当の意味での「混合糖同時利用」はいまだに達成されていません(ちなみに、地球環境産業技術研究機構はこの課題を完全に解決しております。それについては、別の機会に報告します)。
 各ベンチャーの公表しているプロセスをみると、多くはアルコール発酵の工程に2つの発酵装置で対応しています。ひとつが6炭糖用、他方が5炭糖用です。質問すると、彼らは一様に、経済性において問題はないと答えます。たしかに、原油価格が当分(もしかすると永遠に!)高止まりすると、発酵装置を2つ設置するための固定費の上昇分は充分吸収できるでしょう。
■甘い話には終わりあり
 しかし、競争原理からいえば、今後セルロース系バイオマス由来の燃料用エタノールの製造が普及するには、激しいコスト競争を勝ち抜かなければならないでしょう。つまり、今のエタノール価格は原油価格の高騰を受けたガソリン価格が基礎となっていますが、エタノールがバイオ燃料として、「まったく異なる製品」として定着すると、ガソリン価格との連動性が薄れていくのは必至だからです。経済の大原則ですね。ですから我々は当然、“将来のコスト競争を勝ち抜く技術”になることを目標に、研究開発を進め、事業戦略を立てなければならないと考えています。
 では、また次回。
                 (地球環境産業技術研究機構 湯川英明氏)