みなさん、こんにちは。東京は寒くなったり、暑かったりとまさに季節の変わり目にありますが、いかがお過ごしですか?
 10月3日、東京大学農学部の弥生講堂で行われたイネイネ・日本のシンポジウムに行って参りました。日ごろから、バイオ燃料、特にバイオエタノールに関して取材を進めながら考えたことですが、日本にとって、バイオエタノールには取るべき戦略は大きく3つに分けられると思います。
 1つは、世界で通用する前処理、糖化、発酵、蒸留、精製技術を開発して、海外の会社にライセンスアウトすること。もう1つは、その技術を持って、東南アジアなどバイオマスの存在量の多い(またはこれから生産増大が期待できる)地域でエタノールを製造し、日本や海外に輸出すること。これら2つは、CDM(海外にCO2削減技術移転と活動を行うと、国内でのCO2の削減に組み込める)という形でCO2削減に貢献できる可能性があります。
 そして、最後の1つが国内のバイオマスを利用してエタノールを製造し、利用するというものです。イネイネ・日本は、いわばこの3つ目の戦略を国内で進めるにあたり、これまで生産技術を蓄積してきたイネを使っていかにバイオ燃料を製造するかを検討しようということで立ち上げられたわけです。背景には休耕田の利用や農村振興などもあります。
 シンポジウムの中で、最も印象的だったのが、イネの育種を行っている研究者が「バイオマスとしてのイネを育種する取り組みは、何をゴールにすべきかわからないので、手探り状態だ」と発言したことです。確かに、米粒だけを利用するなら高収量イネを、稲わらだけを利用するなら茎葉型のイネを、株全体を利用するなら両方に気を配った育種を行わなければなりません。
 食料と競合しないという前提で考えれば、稲わらのみか、株全体利用を利用することを前提に研究を進めなければならないわけですが、どうやら現状では、イネの細胞壁の構成成分やイネによってどのようにセルロース含有率が異なるのかなどについての基礎的な知見が蓄積されていないため、そのあたりから研究を進めなければならないという状況なのだそうです。まさに、手探り状態・・・。生産技術を始めとして食用のイネ研究は世界の最先端を走っていたとしても、エネルギー用だとそういうわけにもいかないようです。
                     日経バイオテク 記者 久保田文
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https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2004/7254/
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◆オピニオン◆◆◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
       「EPRともったいない」 ―― 日伯エタノール 掛林誠
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■Bad、Good、Best
 「Castro was right」という見出しの記事(07年4月7日号のロンドンエコノミスト誌)は面白い。病床のカストロが食料を燃料にするのはけしからんとブッシュ大統領に噛み付いたのは一理ありというくだりから始まり、米国の寛大な補助金政策の背景を簡潔に解き明かし、米国産トウモロコシ由来のエタノールを「bad」と切り捨てる。同誌の基本的なスタンスは、グリーン燃料としてのエタノールは「good」だが、補助金漬けで、エネルギーの投入量と産出量とがほぼ同じか少ない場合もあるとして米国産トウモロコシ由来のエタノールは「bad」なのだ。他方、ブラジル産サトウキビ由来のエタノールは投入量よりはるかに多いエネルギーを産出し、広大な土地で食料生産を減らさず、熱帯雨林を侵食することはないので「good」とし、セルロース系エタノールはもっとエネルギー効率が良く、食料への影響もないので、「best」としている。
■EPRとは
 日本の新聞紙上でも、「トウモロコシを原料にしたエタノールのエネルギー量よりもその生産にかかるエネルギーのほうが多い」(読売新聞記事4月27日)、「石油連盟が使うバイオ燃料(バイオガソリンという名で販売されている)はフランスから輸入した。原料は小麦だ。生産から使用までの各段階でのCO2排出量がどう増減したか、きちんと計算すべきだ」(読売新聞社説5月1日)、「米からのエタノール製造は・・・エネルギー収支が大きな課題」(毎日新聞6月22日論点泊氏投稿) など、エタノールのエネルギー投入量と産出量を比較する重要性・必要性が言及されるようになった。エネルギーの投入量に対する産出量の比をEPR(Energy ProfitRatio)あるいはERI(Energy Return on Investment)という。また、エネルギーバランスあるいはエネルギー収支と言ったりする。ここでは以下、単にEPRとするが要するに、どれだけ資源を使って、エタノール等のエネルギーを新たにつくりだせるかを示すもので、「エネルギーの質」を示すと考えればいい。
■さすがアメリカ・・・
 この「エネルギーの質」を示すEPRについては、日本ではCO2排出量に関するライフサイクルアセスメント(LCA)ほどには注目されてこなかったようだ。しかし、06年8月に発足したばかりの「もったいない学会」(会長:元国立環境研究所所長石井吉徳東大名誉教授)では、当初より石井会長や天野博士がEPRの重要性を強調されてこられ、今夏から電力中央研究所の天野博士が中心になってEPR部会が新たに設けら れ、活動を開始した。
 日頃、ブラジル産サトウキビ由来のエタノールのEPRは8.3(UNICA=サトウキビ工業連盟の最新データでは8.9)であり、米国産コーンエタノールの1.5よりずっといいと宣伝している筆者もEPR部会の一員となって、改めてバイオ燃料のEPRについて調べてみた。結果、これは決して新しい概念ではなく、米国では1970年代から盛んに利用され始め、現在におけるトウモロコシ由来のエタノールの政策論議も長年のEPRの分析の蓄積の上に行われてきていることがわかった。昨年来の米国のエタノール利用への大転換は、政治的思惑や技術開発の進展のみではならず、こうした専門家による知的な論争や知見をベースにして初めて可能になるのではないかと、筆者は一人得心が行った次第である。
■「もったいない学会」とは・・・
 さて、そもそも「もったいない学会」とは何か?オイルピークの時期やそれへの対応の必要性を訴える欧州の学者グループが中心になって、2000年、The Association for the Study of Peak Oil & Gas(略称ASPO)(現在、事務局はスウェーデンのウプサラ大学)が創立され、科学者や大学や研究機関とのネットワークが世界的に広がりつつある。その日本版が「もったいない学会」である。しかし、石井会長のイニシアティブにより、ASPO Japanとは言わない。オイルピークという一大転機を前にして、「元来日本人が持つ『もったいない』という、モノを大切にする意識」を前面に出し、質重視のライフスタイル・ライフシステムへの転換を目指すため、ASPOプラスαということで、「もったいない学会」というユニークな名称となった。
 「99%を輸入に頼っている我が国では、少しでも早くこの事に気付き、対応することが国、会社・組織、個人にとって必須」であり、百万人の国民運動にまで発展させていきたいと、石井会長の意気や軒昂である。現在、太陽光発電、風力、地熱、原子力、バイオ等々様々な新エネ分野で既に活動している、大学、電力会社、自動車会社、石油会社、商社、教育関連企業、マスコミ等々のOBや現役の人達の自由な集まりである。
■EPRはもったいない指標
 「もったいない学会」の精神に共鳴し、地球が有限であればそこに存在する資源も有限なのは自明と素朴に考えてしまう筆者にとって、長短いろいろ併せ持つとはいえ、再生可能なバイオ燃料は日本にとっても世界にとっても1つのオプションになり得るものと信じている。筆者はバイオ燃料が「もったいない学会」でも大いにもてはやされるものと一人合点していたが、意外にも、いや当然ながら賛否両論。「エタノールを車に飲ませるなんてもったいない」などと、特に石井会長はバイオ燃料がお嫌いなのである。食料か燃料かという問題設定がおかしく、食料も燃料も増大させていくためにはどうしたらいいかという問題設定にすべきであるなどと、バイオ燃料に限っては自らの無学も顧みず抗弁を試みる筆者に対し、「EPRの値が大きいブラジル産サトウキビ由来のエタノールは例外的にいいと思っています」とは石井先生の救いの一言。
 EPR的に考えれば、1を超えれば少なくとも資源の無駄遣いにはならない。仮に現時点ではEPRが1未満でも品種改良、化学肥料の削減、省エネ等人為な的努力によって1以上あるいはもっと大きくすることが可能であると考えると、勇気がわく。敢えて飛躍させれば、好条件の土地(モノ)でも悪条件の土地(モノ)でも、それぞれ最善の工夫をこらし、EPRの値を引き上げていくための切磋琢磨が行われ、かつそうした努力が正当に評価されるようなシステムが出来上がれば、グローバルにもローカルにも「地産地消」が無理のない形で実現できるように思われてくる。EPRはもったいない精神の指標と考えれば、資源制約下の世界で新たな道標になり得るのではないか。EPRのエネルギー関連プロジェクトへの適用を慫慂する石井・天野構想の具体化を期待したい。(日伯エタノール 掛林誠氏)