現在、瀬戸内海に面した光市に到着したところです。明日、武田薬品の光工場を取材、出来立てのワクチンプラントを取材します。2009年3月に勃発したH1N1の新型インフルエンザ(豚インフルエンザと俗称されました)流行で露わになった、我が国の感染症ワクチン製造能力不足を補うため、厚労省は補助金を出して細胞培養のよるワクチン製造プラントの建設を支援しています。今回、取材するのは昨年度の助成のよるパイロットプラントです。今年度の助成で本プラントの建設も決まりました。国民の安心と安全を守る基盤が、鏡の様に穏やかで美しく輝く瀬戸内海を臨むこの地に形成されつつあります。
 さて個の医療です。
 いよいよ単独のバイオマーカーではなく、複数のたんぱく質のプロファイリングによって総合的に病態を診断できる潜在能力のあるプロテオーム解析装置が誕生しました。しかも、液晶TVのリーディング企業シャープが、それを今月から商品化しました。「Auto2D」と名付けられた自動2次元電気泳動装置を定価500万円で発売したのです。頑張って交渉すれば300万円になるかも知れません。卓上に乗るコンパクトな装置で家電メーカーのデザイン力と使いやすさのノウハウが込められいます。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2008/1363/
 サンプルを2Dゲルのカセットに滴下するだけ、後は全自動で100分間で2次元電気泳動で分離したたんぱく質プロファイリングが得られます。染色などはする必要がありますが、通常2日かかった2次元電気泳動をお手軽にできるのが魅力です。しかも、再現性と定量性も十分。これで自分の血清たんぱく質を毎日解析すれば、その日の体調を示すマーカー群を見つけることができると確信しております。但し、シャープは明確にしませんでしたが、使い捨ての2Dゲルカセットは6000円もする可能性があり、毎日計測すると18万円はちょっと痛いところです。大量生産すればコストダウンも可能です。当面は研究機器として販売する予定ですが、是非とも沢山売れて、消耗品の単価も下落することを期待しています。
 個の医療の基盤はゲノムの突然変異や構造変化のプロファイルですが、同時にライフスタイルの解析も必要となります。たんぱく質や代謝産物のプロファイルはこうしたライフスタイルの指標となります。ゲノム解析+プロテオームやメタボロームが個の医療の実現には不可欠です。メタボロームは現在のところ5000万円もするキャピラリー電気泳動装置とTOF質量分析の組み合わせが必要です。診療所に置いて患者さんのプロテオーム解析を行う点では、Auto2Dの商品化によりプロテオームが頭抜けたことになります。ゲノムコホートなどの表現型の解析に利用されることを期待したいところです。
 
 実際、Auto2Dはたんぱく質を修飾したリン酸基の数によってリン酸化たんぱく質を区別することができるほどの高感度装置です。たんぱく質キナーゼの阻害剤が、抗がん剤として続々として商品化されていますが、血液がんなどでは投薬後に本当に効いているのか?Auto2Dを活用してモニタリングできるかも知れません。肝臓がんなどの固形がんは、サンプリングにバイオプシーが必要で、なかなか難しいかも知れませんが、薬剤耐性になった場合にはバイオプシーで回収したがん組織をプロテオーム解析して、次の有効な薬剤を選択する重要な手段となると期待しています。
 勿論、全てのことは期待や可能性です。是非とも太っ腹なシャープが全国のプロテオーム研究者に逸早くAuto2Dを供給し、個の医療実現の可能性を多くの研究者の頭脳を結集して、検証することを望んでいます。シャープにとっても、この装置は8年間かけてバイオ参入の秘策として開発を進めてきました。ゲノム解析終了直後、プロテオーム自動解析装置を発案した故河田フェローの弔い合戦としても、今回の新製品は重要な一歩となりました。
 TVではハンガーに掛けたまま乾燥できる乾燥機新発売の方がシャープ関連ニュースとして注目されています。しかし、バイオから見たらAuto2Dの方が1000倍も重要であると確信しています。どうぞ皆さんもご注目願います。
 今週もお元気で。