現在、富山に滞在しています。新しいベンチャーの取材と富山大学で開催される全国コーディネート活動ネットワークという産学連携のキーマンの会議に招かれています。大勢の皆さんと議論できるのが楽しみです。
 昨日、経産省で取材をしておりましたが、政権末期のごたごたと東日本大震災の影響で2012年度の概算要求が1か月も遅れていることを知りました。30日の民主党代表選挙後、今年度の三次補正予算案が提示される見込みです。災害復興の鍵を握る予算ですから、出来るだけ早い成立を期待しています。震災復興予算のため、少なくとも次年度の通常予算は10%カットから予算編成しており、バイオ関連研究費のカットも余儀なくされそうです。メリハリのある予算削減で、有望な研究や事業の芽を確保しなくてはなりません。しかし、被災地の自治体から要求されている復興予算は相変わらず工業団地造成に750億円、3つの研究所を誘致、建設するために300億円、合計1050億円といった古臭い土建屋的発想の要求ばかりで、日本の前途は真っ暗です。今回の復興では、製造業資本主義から知識資本主義に脱却する土台を形成しなくては、被災地域ばかりでなく、我が国も生き残れません。本当に知恵を絞らなくてはなりません。
 さて、個の医療です。
 8月17日、米国食品医薬品局が悪性黒色腫の画期的な治療薬「Zelboraf」(vemurafenib)を加速認可しました。これは世界初の前がん遺伝子BRAFの突然変異たんぱく質(BRAF V600E)を阻害する抗がん剤です。多種のがんでもBRAFの変異は検出されており、やがて幅広いがんに適応拡大が進むと予想されるブロックバスターです。スイスRoche社が米国のベンチャー企業Plexxikon社から導入しました。米国ではRocheグループの米Genentech社が販売します。実は、第一三共がPlexxikon社を買収しましたので、第一三共もこの画期的な新薬を米国で共同販売いたします。適応拡大次第では、買収資金900億円超も安かったかも知れません。
 Zelborafは画期的な新薬という以外にも、2つの意味で画期的な医薬品です。第一はFragment-based lead discoveryという新しい手法で開発され、最初に商業化された医薬です。通常のHTSでは分子量500程度のライブラリーから薬剤の候補を選別しますが、FBLDではもっと小さな分子量200程度のライブラリーから薬剤の候補を見つけ、その低分子が結合する標的のポケットを埋めるような形で分子修飾を行うことで、親和力の強い医薬品を開発する手法です。
 第二は、まさに個の医療の医薬品として、新薬の認可とBRAF V600E変異を検出する診断薬「cobas 4800 BRAF V600 Mutation Test」を同時に認可した、初めての例となったことです。まさに新薬と診断薬の同時開発・商業化が実現しました。ビジネスの違いや規制プロセスの違いで、個の医療に不可欠なコンパニオン診断薬の同時開発は困難であるといわれてきましたが、この頸木を解き放ちました。最も同じ企業グループであるドイツRoche Diagnostics社とGenentech社ならではの同時発売と言えるかも知れません。しかし、個の医療の事業化が展開するにつれ、同時発売は必要不可欠な絶対条件となりつつあります。我が国の規制当局も同時認可を実現すべく、内部での審査状況の協調などを図らなくてはならないでしょう。Zelborafを米国でGenentech社は6ヶ月間投与で5万6400ドルで販売する予定です。この高額な医薬品は医療経済の観点からも個の医療化されなくてはなりません。
 既に、協和発酵キリンが抗CCR4抗体を成人性T細胞白血病の治療薬として申請した時に、同社のグループ企業、協和メディックスががん患者さんのCCR4の有無を測る診断薬を、今年、同時申請しています。医薬品医療機器総合機構や厚労省のもたつきで、同時認可、同時販売ができないようでは、世界に顔向けできないと、心得て精進していただきたいと考えます。この際、時差を生じる不合理な薬価や診療報酬の決定の仕組みも再検討しなくてはならないでしょう。
 残暑もぶり返してきました。残りの夏をご堪能願います。