米国国債の格付け引き下げなど、世界の金融市場はリーマンショック後の通貨の膨張の後始末で大揺れに揺れています。欧州と米国の政府に対する信任が揺らいだ結果、本当はギリシャより危うい日本の通貨、円に資金が殺到するという皮肉な結果を招いています。津波も押し寄せる波よりも引き波が怖い。日本の円も今や累卵の状況にあります。
 米国のバイオベンチャー企業群も、2011年8月4日、Dendreonショックと言うべき、大幅な株価暴落に見舞われました。昨年前立腺がんに対する樹状細胞(本当は前駆細胞だと思いますが)ワクチン「Provenge」の販売認可を米国で獲得して以来、米国のバイオベンチャー企業の株式上昇のエンジンとなっていたDendreon社の株価が、60%も暴落したのです。この結果に恐慌をきたした投資家たちが、バイオベンチャーの株式の売りに出たため、他のバイオベンチャー企業も軒並み株価を下げました。Nasdaa Bio Indexは4日の午後だけで6.2%も低下しました。
http://www.marketwatch.com/investing/stock/dndn
 原因はDendreon社の2011年第2四半期の業績発表で、Provengeの売り上げが予想以上に少なかったことです。上記のリンクで見ていただければ一目ですが、まるで崖から転落するように株価が下落しました。前立腺がんの画期的な治療法との期待が大きければ大きいほど落胆も大きかったのです。
 米国のメディアはいろいろな分析を行っていますが、Provengeの売り上げ不調の原因は大雑把に2つあるという結論です。最大の原因は、米国の保険会社が一年間9万3000ドルという高価格のProvengeの保険支払いをしないのではないかと、医師が判断し、Provengeを処方しなかったという解説です。まったく味わいもありませんが、「医者も商売だから、支払いが確約できない医薬品は売らない」というコメントまである始末です。Provengeの米国市場での売り上げを増加させるためには、医療経済的なメリットを証明し、保険会社を説得しなくてはならないというのです。
 もう一つの疑問は、Dendreon社の供給能力の問題でした。これは、Provengeの高コストとも密接に連携しており、コインの裏表の関係にあります。患者さんから採取した白血球に前立腺がん特異抗原である酸性ホスファターゼと顆粒球マクロファージ・コロニー刺激因子の融合蛋白を加えて培養し、前立腺がん特異抗原を提示した樹状細胞を、もう一度、患者さんに注入するのが、Provengeの治療法です。明白ですが、患者さん一人毎に細胞培養と感作を行い、規定量の樹状細胞を製造し、患者さんにお戻しする、典型的な個の医療です。
 こうした手間を考えると、9万3000ドルも決して高くはないのですが、それでもやはりコストダウンが必要です。効能は保障されておりませんが、我が国の活性化リンパ球療法が150万円程度です。比較すべき根拠はありませんが、それでもこの高額医療の支払いを米国の保険会社に認めさせるためには、多数の臨床例での医療経済的な分析が不可欠です。Dendreon社が売り上げを上げるためには、尚、投資が必要な段階です。ここでの株価暴落は誠に痛い。安易な情報提供による期待感の膨張は、細胞医薬という革新的な医薬品の息の根すら止めかねません。
 ただし、それでは医療法というあいまいな法的な基盤で現在、臨床応用が進められている活性化リンパ球療法が正しいかというと、私は事業としてのリスクは増大していると考えています。リンフォテックが確認申請を取得、薬事法に基づく正式な臨床試験に入ろうとしていることが、細胞医薬という新しい市場を開拓する正攻法であると確信しています。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2008/0873/
 暑さが戻りました。皆さん、今週もご自愛願います。