現在、博多に向かう機中です。九州大学に経産省の支援で創設された先端医療イノベーションセンターの開所式を取材するためです。医療が政治的、産業的イッシューになった象徴とも言える組織です。今まで、福祉として供給されてきた医療をどうやって産業化し、雇用を生み、そして同時に国民の健康と安心を実現できるのか?高齢化社会によって、消費は全セクターで委縮しますが、唯一伸びる消費は健康と医療関連です。医療を産業化しなくては、この国の成長の余地はなく、従来の福祉的な医療供給体制だけでは、医療の技術革新を適切に取り入れ、国民の健康を増進させることもままならない。ドラッグラグやデバイスラグを生んだ、我が国の構造的欠陥です。九州大学に我が国で初めて芽生えた、医療の産業化の種子が順調に育つかは、今後も検証しなくてはならないでしょう。少なくとも孤島のヤシの木のように孤立しては、医療の産業化には結びつかないことは明白です。経産省、厚労省、文科省、総務省、国土交通省など我が国の総力を結集して、医療制度や医療を変革しなくては、私たちもこれからあんまり幸せにはなれない状況です。
 さて、個の医療です。個の医療の主戦場はいうまでもなくがん治療です。
 文科省に2年前まで、がん特定研究という制度があり、げんの基礎研究を下支えしていたことをご存知の読者も多いと思います。文科省の制度改革により、この大型研究制度は雲散霧消しましたが、がん研究の必要性まで消えた訳ではありません。過去1年間、文科省が練りに練った新制度、次世代がん研究戦略推進プロジェクトがいよいよ姿を現します。建前上は年間36億円を5年間投入し、我が国発の抗がん剤や診断薬のシーズを育てようという野心的な計画です。今までのがん特定研究プログラムが基礎に偏り、「実際の患者さんの救済に繋がっていない」という批判を受け、総合科学技術会議からの指導(圧力かも知れません)もあり、5年後に抗がん剤のリードを何個など、数値目標を課されているのがお気の毒といえばお気の毒ですが、それも社会の振り子の一つ。また、医学が応用生物学である以上、患者さんへの還元を国が行う政策的な研究プログラムの目標とすることも妥当であると考えています。
 このプログラムで、私が大いに期待しているのは、日本発のミラクル・ドラッグだけでなく、日本の大学や研究機関に、創薬研究への基盤や創薬マインドが植えつけられることです。今まで基礎研究と企業の応用研究が深くそして幅広い溝で分断されていた我が国の医学と生命科学研究を統合する一助になれば良いのではと、望んでおります。現在、バイオ医薬の中核となっている抗体医薬のアバスチンやハーセプチンの標的分子は我が国の研究者の基礎研究によって発見されたものの、創薬はいずれも米国のGenentech社が実現したことを、繰り返してはならないのです。
 8月1日、東京の三田共用会議所大会議室で、この次世代がん研究戦略プロジェクトの公募説明会が開催されます。文科省のおっとり体質のため、7月25日にやっと発表しました。しかも申し込み締め切りは7月28日、つまり明日というありさまです。これで公募に応じられるのは、予め決まった研究者じゃないか、という疑いをいだかせないためにも、是非とも大勢の研究者や関係者にご参集いただきたいと願っております。senryaku@mext.go.jpに指名、所属、連絡先(電話番号とメール)を記入の上、お申し込み願います。詳細は文科省のホームページを参照願います。
 
 がん特定研究の喪失は、我が国のがん研究に遅滞を招いたと思っております。今回の次世代がんプログラムが、我が国のがん研究の底力を示すことを祈っています。そのために、このプログラムが決定的に欠いている企業の参画と企業関係者のこのプログラムへのアクセスをどう実現するか?皆さんのお知恵を拝借しなくてはなりません。
 今週もどうぞ、お元気で。