現在、スーパーひたちに乗り、水戸に向かっております。東京も暑そうですが、水戸も暑いのではと戦々恐々としています。月曜日は北に向かい、新潟県の長岡で糖質学会を取材しておりましたが、これが暑い。タクシーの運転手さんが自慢するほど、長岡は盆地故に暑いとのこと。8月頭の有名な花火大会も、これじゃ涼はとても期待できません。やはりTVに限るかもしれません。何処へ行ったも暑い日本です。皆さんもどうぞご自愛願います。
 明日早朝3時にはなでしこジャパンがメダルを賭けて、スウェーデンと戦います。とにかくでかいスウェーデンをパスサッカーで翻弄し、身体を張った守備でヘディングの精度を落とすことができれば、決勝です。男子より先にワールドカップを制する可能性すらあります。「沢選手を日本のフル代表に加えろ」という外野の声にも、まんざら冗談ではない響きがあります。
 さて、さっぱり役に立たんと言われていたスーパー特区ですが、初めてこの制度を評価する声を聞きました。昨日開催された実験動物中央研究所の新研究所披露パーティーで、慶応義塾大学医学部の岡野教授が「あの制度のお陰で、昨日(11年7月11日)記者発表したが、来月から東北大学で組み換えHGF(肝臓細胞増殖因子)を難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)の治療薬として臨床試験に迅速に入れた」との発言をいただきました。その場に、文部科学省の事務次官やLS課長もおりましたが、一同、満面の笑みでした。私も審査に係り、しかも、お金の無い政府が進めるべき施策は何をおいても規制緩和と主張、スーパー特区(特区による規制緩和と先端研究開発をカップルした試みです)が、近年に珍しく的を射た施策であると評価していたため、岡野教授のお話は本当に嬉しかった。何しろ、医薬品医療機器総合機構はちっとも相談に乗ってくれないとか、予算が少ないとか、まあスーパー特区への事前の期待が膨らんだためもあるのでしょうが、本当に悪評さくさくでしたから。日経バイオテクもそうした声を特集したほどです。私は結局この政府の官僚たちは権限を握りしめたまま、民間を枯渇させてしまうのかと心配していました。が、実態は必ずしも悪評通りではなかったようです。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2008/0282/
 実際にはクリングルファーマというベンチャー企業が、東北大学で臨床試験を行いますが、HGFが効果があることを岡野教授が実験動物中央研究所と共同開発した霊長類(マーもセット)の脊椎損傷モデルによって証明していました。大阪大学が世界に先駆けてクローン化したHGFを慶応大学と実験動物中央研究所、そしてクリングルファーマと東北大学が臨床試験を行う今回のプロジェクトはまさに国内の産学連携をバーチャルな特区として認定したスーパー特区の典型的なプロジェクトといえるでしょう。「グループミーティングには総合機構がアドバイザーを派遣してくれて、毎回、専門家としての意見をいただいた。今回の治験ではマイクロポンプで、HGFを脊椎に注入するために、様々な規制上の考慮が必要だったが、こうした規制をクリアするための情報をもらえたために、臨床試験を総合機構に申請してから審査も極めて円滑だった」と岡野教授は指摘しています。これこそ、我が国の医療イノベーションが総合機構の壁、臨床試験の壁によって、全てげっ歯類での研究に留まり、実用化に到達できなかった、死の谷に橋をかける行為です。我が国発の医療技術突破の商業化を大きく前進させました。文科省だけでなく、厚労省、そしてスーパー特区のコーディネーションをした内閣府も、今回のこの制度設計は正解であったと胸を張って良いのではないでしょうか?
 では何故、今までスーパー特区は駄目だ駄目だと言われてきたのか?半分は当初、業務が増大することを警戒した総合機構と厚労省の自己保身反応がその理由でしょうが、もう半分は申請した側に、本当に商品化に結び付くようなシーズと産学連携体制、そしてこの医療技術突破を本気で商品化するという覚悟がなく、実際の臨床試験に必要な助力を総合機構から引き出せなかったという原因もあると判断しています。基礎研究に留まり、本当に患者さんに技術突破をお返ししたいという真剣さを欠いていなかったか?スーパー特区の制度を面白おかしく批判した方は自己反省する必要もあるでしょう。もう一つ重要なことは、医薬品や医療機器の安全確保と許認可に関する知識ギャップが大学に存在していたことも、スーパー特区が円滑に発展しない原因でした。厚労省や医薬品企業がこうした知識や人材を独占していた副作用です。今や橋渡し研究の担い手として期待が膨らむ大学には、こうした人材がスーパー特区の審査時には、まったく存在していなかったのです。総合機構は審査官のゆがんだ年齢分布に対応し、キャリアパスの弾力化を図る同機構の企図もあり、大学との人材交流は進みつつあります。世の中、急速に変わるものです。
 東日本大震災の影響で、ここ数年は科学研究の支出を抑止しなくてはならなくなった今こそ、もう一度、研究開発と規制緩和を組み合わせたウルトラ特区を行う必要があると思います。但し、この際には、特区はあくまでも規制緩和のためにあることを確認する必要があります。特区に対応した規制という馬鹿げた規制の上積みが進んでいるという懸念を示したバイオ医薬企業の経営者もいました。日本の官僚機構の精密さ、本当は瑣末主義が、東日本大震災の復興も、我が国のデフレの脱却も阻んでいる最大の原因であることを認識しなくてはなりません。2011年度に選定される総合特区が、単なる産業立地政策ではなく、規制緩和政策に重点があることを確認しなくてはなりません。今のままでは、クラスターの焼き直しに終わってしまう懸念もあります。
 暑さに負けず、今週もどうぞ、お元気で。