オリンピックの二次予選、1:3でクウェートに勝ちました。二次予選はサッカーでは常道のホーム・アンド・アウェイ方式のため、今週現地時間の23日に開催されるアウェイの戦いが残っておりますが、日本は1:0や2:1で負けても、勝ち上がることができるため、極めて有利です。但し、エース、永井を練習中の怪我で欠いたU-22(22歳以下のナショナルチーム)の今回の戦いは、まったく不満足。あれだけ押し込み、コーナーキックを獲得していたのに、3点しか決定できなかったことは誠に残念。最後のパスとシュートの精度を欠きました。ドルトムントの香川慎司はまだ21歳、ロンドンオリンピックでも22歳でありU-22の出場権があります。是非とも、オリンピックの本選では、永井と香川がピッチに立って欲しいと願っております。2枚の切り札が勝利のためには必要です。
 さて、バイオです。生命現象でも2枚の切り札が拮抗して調節されていることが多いことが分かってきました。今月の初め、京都だ開催された日本炎症・再生医学会で、東大医科学研究所感染・免疫部門感染遺伝学分野の三宅健介教授の発表によれば、自己免疫疾患の増悪・改善は自然免疫系のセンサーであるToll様受容体(TLR)のTLR7とTLR9の2つの分子のバランスによって調節されています。
 何故、RNAとDNAを認識する同じ機能を持つTLR7とTLR9が共存しているのか、常々疑問に思っておりましたが、三宅先生の研究でその意味が良く分かりました。あまり単純化するのは好きではありませんが、TLR7は悪玉、TLR9は善玉のセンサーと言えるでしょう。自己免疫疾患では患者自身のDNAを認識して自己抗体が産生されておりますが、これを介在しているのがTLR7です。自己免疫疾患の特徴である慢性炎症の引き金を引きます。驚いたことにTLR9はTLR7と拮抗することによって、慢性炎症を抑止、自己免疫疾患の発症を防いでいました。ここにも2因子拮抗システムがありました。TLR7を欠損させると慢性炎症が起こらず、TLR9を欠損させると慢性炎症を抑止できなくなるのです。
 最近、国立がん研究センター研究所エピゲノム解析分野の牛島俊和部門長のお話をうかがう機会もあり、H.pyroli菌が胃壁に感染することで慢性炎症を引き起こし、胃の上皮細胞のゲノムDNAのメチル化のパターンを変え、これが胃がん発生の起因となることを知りました。インターフェロンγなどが引き起こす慢性炎症は諸悪の根源かも知れません。自然免疫システムはTLR7/9をバランスさせることによって、外部からの細菌やウイルスの侵入を防御し、自己の細胞に由来したDNAによる免疫系の誤作動による慢性炎症を抑止していました。
 では、そのバランスの仕組みは何か?
 三宅先生のグループはUnc93B1というたんぱく質がTLR7とTLR9を選択的に樹状細胞、マクロファージ、B細胞などでエンドリソソームに運搬することを突き止めました。エンドリソソームは、細胞がどん食作用で外部から取り込んだ細菌やウイルスを分解する細胞内小器官で、ここでTLR7やTLR9がDNAやRNAを認識して、自然免疫系を作動させます。Unc93B1は通常はTLR9を優先的にエンドリソソームに運搬し、感染した菌やウイルスを認識させ、免疫系を作動させながら、自己免疫疾患の発生を抑止しています。自己免疫疾患ではこのメカニズムが、TLR9を優先してエンドリソソームに運搬するようになり、病態が悪化するのではないかと考えています。Unc98B1やこの分子の調節機構はは自己免疫疾患の新たな治療標的になる可能性があります。もし低分子の経口阻害剤が開発できれば、活性化したB細胞を抗体医薬で全部破壊する過激な治療法や今年の3月に米国で承認となったB細胞の活性化補助因子、Blys抗体「Benlysta」を長期使用するよりは穏やかで、予防的で、しかも医療費もそんなにはかからない、自己免疫疾患の治療薬が誕生するかも知れません。
 全ての生命現象には陰と陽の分子があり、そのせめぎ合いによって生命が展開される。2因子拮抗システムは、学生時代の頃に熱中した道教の思想にも似ています。今後、こうした2因子拮抗システムの高次構造として生命を捉えるシステム生物学の進展に大いに期待したいと考えています。
 先々週、大腸がんコンセンサスエンジンの討議を公開しました。先週Chicagoで開催されたASCO2011を先取りした議論です。医師限定で恐縮ですが、是非とも下記でアクセス願います。とにかく濃厚で白い。
https://bioce.nikkeibp.co.jp/consensusengine/
 今週もどうぞお元気で。