週末は箱根で2泊3日の泊りがけで医療セクター会議に参加してきました。本来なら「国民皆保険制度50年」というテーマで専門家が議論する予定でしたが、3月11日の大震災を受けて、「災害医療」をテーマに70人以上の医師から支払い側の健康保険組合、そして厚生事務次官など政府関係者が参加して白熱の議論をいたしました。現場で救援活動した医師の報告などもあり、相当濃密な議論が出来ました。日曜日の夜は疲労でテニスの後、寝込んでしまったほどです。
 阪神淡路大震災を受けて、我が国の災害医療は大きく変わりました。自衛隊の積極的な参加に加え、DMAT(Disaster Medical Assitance Team)というボランティアの災害医療チームが支援され、今回の東日本大震災では3月11日と12日の2日間で100以上ものDMATが全国から被災地入りしています。阪神淡路大震災ではDMATは存在せず、JICA(国際協力機構)が海外の被災地に派遣していた緊急医療援助チームが訓練と称して(馬鹿げた法律ですが、このチームは国内に派遣できません)出動したのみでしたから、大進歩と言えるでしょう。
 しかし、実態はどうだったのか?東日本大震災では殆どの死亡者が水死と診断されています。DMATは都市型のがれきに埋まった傷害者などを救うために、整形外科医と看護士のチームです。実はこのミスマッチによって、DMATは本来の機能を果たせず、余り貢献できなかった。むしろ、低体温症に対応する医療供給や、波間に漂っていた被災者を救う夜間ヘリコプターでの救援活動が、東日本大震災では必要だったのです。前者は衛星電話や無線など通信機能の装備不全と、情報の集約、そして現地に必要な医療の供給を判断する司令塔不在が原因でした。DMATをいつまでもボランティアベースでばらばらに救援活動させるだけでは、救える人も救えない。政府は災害医療の司令塔機能整備を進めるべきです。医療セクター会議では、自衛隊との連携、もっと極端には一時的に自衛隊の指揮下に医療チーム(DMATだけでなく)を置くべきだという主張もありました。私も災害発生時1週間は自衛隊の指揮による医療供給やインフラ整備などを含む統合的な被災者支援を行うべきで、その後、復活した自治体を司令塔に各地の事情に応じた復興や医療支援が行われるべきだと考えています。しかし、米軍から要請のあった夜間のヘリコプターによる被災者捜索を誰がとういう判断で辞退したかは、真相を究明しなくてはなりません。東日本大震災は福島の原発も含めて人災の部分が目立ちます。ここを究明して次の災害に備えなくては、被災者も我々も浮かばれません。最大の問題は政府の硬直化した縦割り行政。経産省の雇用対策の補助金を得るために、現地で休業中のホテル従業員ががれきの撤去を禁止され、1か月もマナーの講義を受けていたことをニュースで知り、笑うしかなかった。
 災害時に各省庁の些細な補助金の規制などを期間限定で解除し、自治体の総合判断に委ねる立法措置がどうしても必要です。日赤の義捐金の配布が滞っている問題やがれき処理の問題などは、一挙に解決できると思います。今や我が国の統治機構の硬直化は、原発問題も含めて、国民の敵となっています。延命ではなく、歴史に名を残すなら、これを菅さんは成し遂げることをすべきだと思います。
 さて、個の医療です。
 急速に進む1000人ゲノム計画の成果が一部発表されました。ミステリアスな結果です。突然変異は放射線の照射やDNAの複製ミスなどで自然に新たに発生しますが、このde novo突然変異の発生率に家族や個人による差がかなりあるという報告です。私の不充分な理解で解釈すると、これは家族や人種毎に進化速度の差があるということなのでしょうか?
 今回の研究では、アフリカのヨルバ族の1家族(両親と子供一人)と欧州の1家族の全ゲノムを比較した結果です。平均30の生殖細胞系列の突然変異が片親から子供に遺伝していました。しかし、その割合は親子間と家族間で大きく異なっていました。まだ、比較している数が充分ではないので、定量的な議論はできませんが、de novo突然変異が各個人に遺伝する割合はかなりばらばらである。個人個人を見ると揺らぎの幅は大きいということを示唆しています。de novoの変異が疾患を引き起こす場合、このばらばらさを理解できないと、誤診に繋がるとこの論文の著者も指摘しています。
 いずれにせよ、今まで霧の中に存在していた孤発性の疾患発生のダイナミックなメカニズムが、多人数の全ゲノム解析研究によって、近い将来明らかにできるという希望を抱くことができる結果でした。当然、孤発性疾患の個の医療という何やら舌を噛みそうな事態を進めることにもなるでしょう。
 今週もどうぞ、お元気で。