現在、パリで開催されている全仏オープンテニスはいよいよベストフォーがしのぎを削る最終段階に入ってまいりました。昨夜、新鋭のロシアのパプリチェンコーバの厳しいストロークにイタリアのスキアボーネが圧倒的に押されてもう完全に敗退したと思い、仕事に集中していたところ何故か、フルセットの逆転勝利。まるで狐につままれたようです。テニスがフィジカルだけでなく、メンタルが重要であることを、遅咲きのスキアボーネが教えてくれたようです。彼女は詩と哲学を愛すると言われていますが、あの鵞鳥の様な叫びを上げながら痛打する姿からはとても信じられない。いずれにせよご注目いただきたい選手です。
 さて、個の医療です。
 現在、政府が推進している税と社会保障制度の一体改革(つまり、増税なくして社会保障の充実なしという意味)の中で、厚労省が積極果敢に攻勢をかけています。中でもびっくりしたのは、新薬の薬価決定に対して医療経済的な根拠を求め、査定する仕組みを導入することです。誠に重要です。今まで後ろ向きばかりだった厚労省がスキアボーネみたいに反転攻勢に出てきた感じです。
 来年度、試験的でも医療経済学的調査資料を薬価算定に求められるようになるとすると、何が変わるのか?
 第一に、革新的な新薬に対して合理的な価格決定ができるようになる、と期待しています。今までは先行医薬の国内外の価格を参照価格として薬価を決めていましたが、日本の製薬企業がゾロ新をやめ、世界初の新薬を我が国で先行申請するとこの薬価を決める議論が難しくなります。今まではなんとなく落しどころで決めてきた感じです。例えばJTECの開発した自家培養皮膚の値付けに合理性があったとはとても思えない。技術革新をリスクをとって実現しても、開発投資を回収できなければ、持続的な医療技術突破は望めません。我が国のバイオベンチャーが皆、海外開発を向いているのも、臨床試験の困難さと許認可の不明確性だけではなく、技術革新を正当に評価しない我が国の仕組みの問題があります。もし、医療経済という尺度を導入できれば、こうした単なる政治的な力関係で価格が算定される愚は雲散すると期待しています。
 第二は、当然のことながら個の医療が不可欠となります。従来の医薬品は投与した30%の患者で効果があれば大したものなのですが、今後、70%の無駄な患者さんへの投与が医療経済学的な解析を考えれば許されなくなることは必然です。効果のある患者選別がまだ困難であっても、無駄な医療費として算定される副作用を回避できるバイオマーカーによる個の医療はもう避けられなくなると思います。まともに医療経済的解析をやるならば、副作用に掛かる不要な経費をマイナスの医療経済効果として算定すべきであると、私は確信しています。
 いずれにせよ、我が国にも英国のNICEのような機関を設立し、新薬や既存薬も含めて医療経済的な分析によって薬価の見直しをすることには賛成です。当然のことながら、業界や学会、患者団体、そして政治家も巻き込んで、大論争となるでしょうが、そんな論争にも揺るがない科学的な根拠を得るために、我が国の医療情報(処方、医療費)のデータベースの整備と、医療経済学者(我が国では絶滅種に認定されそうです)の養成を急がなくてはなりません。
 今まで個の医療メールで何回も嘆いていましたが、技術革新を受け付けない我が国の医療制度も変わりつつあります。厚労省の担当者のお手並みは意見です。
 どうぞ皆さん、今週もお元気で。