東京は入梅前の五月晴れです。いかに湿度が低いということが、気分を爽やかにさせるかを実感させます。この夏、窓の開かない高層ビルでの執務を考えるとぞっとしますね。過日、横浜のみなとみらいでエスカレーターを出勤前のサラリーマンの集団が猛烈な勢いでもくもくと歩き上がっている光景に出くわしました。もの凄いエネルギーです。これで絶対発電できると思いましたが、この夏には間に合わないでしょうか?
 さて個の医療です。
 エピジェネティックスの一つとしてDNAのメチル化が遺伝子発現を抑止することが知られています。発生分化の過程でDNAそのものが組み変わるのは抗体(B細胞受容体)とT細胞状態ですが、多くの場合、細胞分化はゲノムDNA配列の変化ではなく、DNAやヒストンが化学修飾を受けて遺伝子発現がエピジェネティックスにより調節された結果です。
 抗体遺伝子の解析でノーベル賞を受賞した利根川教授が、神経の研究に転換したのも、神経細胞の高度な分化は、抗体分子のようにDNA配列の変化を伴っているかも知れないという疑問からでした。今では、神経細胞の分化はエピジェネティクスが主役であることが確定しており、ロマンチックなDNA組み換えによる神経細胞分化説は影を潜めています。
 東京大学と理化学研究所のチームが、神経細胞のみのエピジェネティックスのパターンを詳細に解析したところ、分化した神経細胞のDNAメチル化のパターンは個人ごとにかなり異なることを証明いたしました。24人の死後脳から抽出した細胞核を、神経細胞特異的なたんぱく質を手がかりに精製し、バイサルファイト・シーケンスで解析しました。この結果、今まで脳神経特異的なDNAメチル化パターンといわれていのは、脳細胞で圧倒的な数を占めているグリア細胞など非神経細胞のパターンとほぼ一致し、神経細胞とは異なるDNAメチル化のパターンであることが分かりました。これは、神経細胞と非神経細胞の分化の差で説明できるのですが、実は困ったことがこの実験データには含まれていました。
 神経細胞はDNAメチル化のパターンが大きくばらついたのです。研究チームは24人それぞれのDNAメチル化パーターンを比べたところ、神経細胞では非神経細胞に比べてあきらか個人と残り23人との相関係数が小さかったのです。これは即ち、神経細胞といっても個人ごとにDNAメチル化のパターンが異なることを意味しています。
 神経細胞のネットワークのパターンの個人差に加えて、個人の脳神経を構成する神経細胞の個人差があるということです。この差がネットワークの多様性に影響しているのかも知れません。
 これが個性なのか?あるいは脳神経の機能分化の個体差なのか(個性と同じか)?
 とても興味あるデータです。DNAメチル化や脱メチル化は環境要因によっても起こります。ライフスタイルや経験が神経のDNAメチル化パターンをどう変え、それがその個人の思考や正確、情動などにどう影響を与えるのか?極めて重要な出発点となる研究であると思います。同グループは精神疾患の患者の死後脳の分析に挑戦する予定です。
http://www.h.u-tokyo.ac.jp/vcms_lf/release_20110501.pdf
 どうぞ皆さん、今週もお元気で。