セリエAの最終戦を今季2ゴール目で飾ったインテルの長友選手には、つきもありました。右サイドを駆け上がり、ゴール左上に突き刺さったシュートはディフェンダーに触り、コースが変わったのです。しかし、電撃移籍以降、長友はチームに貢献しました。OJIGIは、チームの長友と日本への愛情を示すアイコンとすっかりなってしまいました。サッカー以外にも、東日本の震災支援活動など長友選手の果たした役割は大きかった。「ACって宗教団体ですよね」と教え子の学生が真顔で言ったと、先週の土曜日に大学の先生からうかがいました。震災直後にTVの流されたACのコマーシャルには賛否両論が渦巻いていますが、シャルケの内田選手などと一緒に出た手作り感いっぱいのCMだけは、素直に心に沁みました。
 さて、先週の土曜日、日本学術会議で開催された「東日本大震災と報道メディア」という学術会議フォーラムにはいささかがっかりいたしました。会場からもあまりに悠長で散漫なフォーラムに、厳しい意見が飛んでいたことを、この会の企画責任者達は重く受け止めなくてはならないと思います。私も今回の大震災の報道やインターネットによる情報を咀嚼しながら、被災者の救助や被災地の復興を支援する情報提供とは何か、考え込んでいます。多分、商業メディアやインターネットなどのコミュニティ・メディアに関与する皆が今、自分たちの無力を感じつつ、より有効でもっと役に立つメディアを構築しなくてはいけないと感じているはずです。したがって、今回の企画そのものはまことに重要で時宜を得たものでした。東京大学大学院学際情報学部の開沼博氏の福島第一原発周辺のフィールドワークの報告、例えば福島県双葉郡大熊町で未だ「原子力つけ麺」が販売されているなど、原発に依存しつつ原発の被害を被った複雑な現状を教えてくれました。
 しかし商業メディアとして勝手に期待してきた、災害報道に関する耳の痛い批判は、早稲田大学政治経済学術院の田中幹人准教授のが「原子力報道に携る記者の専門性は、放射線リスクに関して争点が分かれる国連科学委員会(UNSCEAR)と国際放射線保護委員会(ICRP)の報告書を原文で読める程度は欲しい」という指摘に止まりました。今まで、政府や企業のプレスリリースの独占に胡坐をかいていた我が国の商業メディアにこれを期待することは可能なのか?議論の糸口が見えてきたのですが、パネリストが学者に限定されていたため、議論は深まりませんでした。 また、今回の大震災によって、TVがインターネットやソーシャルメディアの出現によって相対化されたという認識は余りに古い。TVの視聴時間をインターネットやソーシャルメディアが上回っている現実を見なくてはなりません。
 また、議論も何のための議論なのか?フォーラムの意図が不明確でした。それにもかかわらず下記の呼びかけ文で「今後のあり方に関して緊急提言したい」と大見得を切るけれんみはおよそ学者の誠実さの対極にあるものです。宮城県から来たという参加者に痛罵されたのも故なしといえるでしょう。もっとメディアや国民との情報共有を改善し、国民の幸せに繋がる議論いたしましょう。少なくとも情報共有システムが現状のままで良いと考えている国民は、誰一人いないと私は思っています。本当に議論すべきは、国の誠実な情報開示と国が把握すべき国民に関する情報も含め、国民がこの国で暮らすために必要な情報をどう提供するか、情報共有のシステム全体の再構築であると考えています。
http://www.scj.go.jp/ja/event/pdf/h-110521.pdf
 2011年5月16日に文科省ライフサイエンス課と厚労省厚生科学課は連名で、東日本大震災の被災地で実施される調査・研究に関して、1)疫学研究に関する倫理指針の遵守と2)被災地の自治体と十分調整した上で実施すること、3)調査研究の結果、被災者に適切な保健医療サービスが提供される体制を整備することに配慮するよう、通知しました。
 こんな通知が必要であるということは、研究や調査の名の下で研究者が実際、被災地に殺到していることを示しています。研究のための研究は当然のことながら許されない。被災者を救うことが第一の調査・研究が行われるべきです。報道の倫理性に加え、調査・研究の倫理性も問われています。厚労省はやっと東日本大震災被災者の健康状況などの把握のためにコホート調査を行うことを5月19日に決定しました。厚生労働科学研究班を編成、慢性疾患・感染症などの調査を先行させ、ついでメンタルヘルスの調査も行います。避難所から仮設住宅、そして復旧後の自宅に戻った被災者を対象に10年以上の長期の前向き調査計画しています。国立保健医療科学院に本部を設け、岩手県、宮城県・仙台市、そして福島県の3つの地域に分け、被災県の大学・行政・関係団体が一致協力して健康調査を行い、その結果は直ちに被災者支援に反映させる仕組みです。
 妥当な措置だとは思えますが、実行は容易ではないでしょう。大震災という異常事態に、総力を挙げて取り組むべきです。一人でも多くの良心を持った研究者・医師・関係者が参加すれば、内部から国の大規模研究が公正に適切に行われたかチェックすることも可能です。
 さて、5月19日夕方から官邸で社会保障制度と税負担の一体改革の流れで、厚労省が提案しようとする社会保障に関する集中検討会の提案内容の説明が行われました。厚労省は英国のNICEと同様な制度を医薬品の保険薬価の審査に導入しようとしています。つまり、医薬品の医療経済的評価を薬価算定に本格的に導入しようとしているのです。その志や良し。しかし、英国のNICEは膨大な国家の保健医療サービス(英国の皆保険制度、NHS)の電子カルテを背景に持っております。何も無い我が国でそんなこと可能なのか?この質問に担当者は「やります」とシンプルに根拠を提示せずに答えておりました。まずは日本医師会や病院関係者、そして製薬企業からのクレームを足して3で割る政治手法ではなく、根拠のある調査データに基づき、新薬や既存薬の経済性を評価できるように備えなくてはなりません。そのためにもまず、電子カルテの統合化、レセプトのデータ活用、そして医療経済学者と疫学者、データベース管理者など人材の育成を急がなくてはなりません。
 5月21日には総務庁がドラッグラグ(新薬の許認可の遅れ)や後発薬の普及を行政評価の対象とすると発表しました。東日本大震災で凍結されていた医療改革の雪解けが始まりました。
 さて、日経バイオテクの河野副編集長が企画した「分子標的薬の創製と開発の最前線」を6月17日に開催いたします。場所は東京・品川のコクヨホールです。現在、分子標的薬の主流はキナーゼ阻害剤ですが、今年のセミナーではmiRNAやたんぱく質間相互作用といった次世代の標的も取り上げます。セミナーの詳細と参加申し込みは以下のサイトをご覧ください。
http://bio.nikkeibp.co.jp/bio/seminar/110617/
 どうぞ、皆さん、今週は雨のようですが、お元気で。