目に青葉 山ほととぎす 初鰹
 江戸時代の俳人、山口素堂が鎌倉で読んだ俳句にぴったりの季節となりました。今年は東日本大震災で浮き立つ心も半ばですが、時が駆動する自然の再生のサイクルが、被災地の復興と日本の再生とを後押ししてくれていることに、心が温まります。人を翻弄した自然が、人を慈しみ育む。一つの神に、荒魂・和魂という矛盾を認める神道が、日本の風土から芽吹いたのも無理からざるものがあります。私たちは次の千年もこの過酷で、優しい日本で暮らしていきます。それだからこそ持てる知恵と持てる汗を今、振り絞らなくてはならないのです。
 GWで全国からボランティアが被災地に向かっています。こうした善意を生かすためにも何よりも、皆の心を一つにまとめる政治(マツリゴト)と円滑な行政を復元しなくてはなりません。どうやら筑波の産業総合技術研究所は下水道が被災し、事実上、研究困難の状況が秋まで続きそうですが、外部には復旧した顔を取り繕っております。こんな無駄な努力よりも、事態を明らかにして外部の支援も受け、復旧する努力が必要です。事態を直視できない官僚機構と政治はもういらないと今では誰もが思っていると思います。希望の灯は、被災地や混迷を極める霞が関に育ちつつある若きリーダー達です。彼らが日本を新生する支援をしなくてはなりません。
 さて、先週の水曜日の個の医療のメールマガジンでも前触れしましたが、我が国の国民病であるC型肝炎に、画期的な医薬品が米国で認可勧告を受けました。C型肝炎ウイルスのプロテアーゼ阻害剤です。これによって、肝臓がんへと発展するC型肝炎を、治癒、もしくは管理可能とする可能性が出て来ました。
http://blog.nikkeibp.co.jp/bio/miyata/
http://passport.nikkeibp.co.jp/bizmail/p-med/index.html
 現在、C型肝炎治療薬の標準治療はペグインターフェロンαとリバビリン(核酸誘導体)でした。しかし、C型肝炎1型のウイルス感染者や血中にC型肝炎ウイルス量の多い重症感染者には、これらの標準治療の効果が薄く、我が国でも約30%の患者に効果が期待できない状態でした。2011年4月27日に開催された米国食品医薬品局抗ウイルス薬諮問委員会は、米Merck社の「VICTRELIS」(boceprevir)と米Vertex Pharmaceuticals社のtelaprevirの2種のC型肝炎のプロテアーゼ阻害剤の認可を、それぞれ18:0という圧倒的な評決で勧告しました。遺伝子組み換えによって、大量生産したC型肝炎ウイルスのプロテアーゼたんぱく質の結晶解析から、見事、治療薬開発に結びつけました。今後も、標的たんぱく質を遺伝子操作で大量生産し、結晶構造解析を行い、低分子治療薬をコンピュータスクリーン上で選抜、設計する手法は、新薬開発のスピードを加速するでしょう。我が国の大学でも、当然のことながらプロテアーゼ阻害剤の開発を進めていましたが、米国に残念ながら遅れを取ってしまいました。我が国の国民病であるのに、我が国の製薬企業やベンチャーの貢献が希薄であったことに猛省しなくてはなりません。
 諮問委員会の勧告を受け5月下旬にも米国で、そして続いて欧州で正式な販売認可が行われる見通しです。日本ではMerck社の日本法人、MSDがboceprevirを、またtelaprevirは田辺三菱製薬がそれぞれ販売する見通しです。田辺三菱製薬は2011年1月に我が国でも販売申請を行いました。日本の国民病、C型肝炎の3剤併用療法(ペグインターフェロンα+リバビリン+プロテアーゼ阻害剤)の実現のため、是非とも審査を特急でお願いしたいと願っております。
http://www.merck.com/newsroom/news-release-archive/research-and-development/2011_0427.html?WT.svl=content&WT.pi=content+Views
http://investors.vrtx.com/releasedetail.cfm?ReleaseID=573051
 但し、3剤併用療法は医療費の負担も増加させます。今後、3剤併用療法を適切に行い、副作用少なくC型肝炎を完治できるか?市販後調査や市販後の臨床試験で更なる適正使用と、効能効果や副作用に関係するバイオマーカーの開発も重要な課題となると考えております。皮膚の発赤や貧血、風様症状など多様な副作用の管理も、両剤の市場優位性を決定する要因となります。さらに、薬剤耐性ウイルスの出現を3剤併用療法がどこまで抑え込めるか?臨床現場での戦いも始まります。
 いずれにせよ、治療方法の無かったAIDSとC型肝炎が共に3剤併用療法という、画期的な治療コンセプトで致命的な疾患から、管理可能な慢性疾患、そして完治へと進む段階に入ったことは確実です。
 次は、我が国の風土病であるATL(成人性T細胞白血病)ウイルス(HTLV1)感染症ではないでしょうか?協和発酵キリンはATL細胞で強発現しているCCR4(ケモカイン受容体の一種)に対する抗体医薬の製造承認申請を、4月27日に世界に先駆けて、奇しくも同じ4月27日に厚労省に提出しました。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2007/8652/
 HTLV1に感染すると無症候である場合も多いのですが、白血病以外に神経難病であるHTLV1関連脊髄症なども発症する場合もあります。現在、我が国の感染者数は100万人。決して見逃せない感染症です。今年1月からNPO法人「日本からHTLVウイルスをなくす会」(スマイルリボン)が10万人の署名を目指し、活動を開始しました。国の救済対策を求める運動です。AIDS、そしてC型肝炎と同様にHTLV1はRNAをゲノムとするウイルスです。AIDSとC型肝炎で蓄積した、3剤併用療法が適応可能ではないかと期待しています。但し、1剤は抗体医薬となる、新しい3剤併用の治療概念となるかも知れません。まったく世の中の進歩は、止まることを知りません。
 今週もどうぞお元気で。