現在、品川の東京カンファレンスセンターで、BTJプロフェッショナルセミナー「試験・研究開発における省エネ、エコ推進 ~グリーンラボをどう実現するのか?~」を開催中です。お陰さまで満員です。この企画は来年も、そして再来年も粘り強く継続する必要がありそうです。皆さん、ありがとうございました。
 予想外の東日本大震災による停電、そしてこの夏を乗り越えるための省電力対策も、今回のセミナーの満員盛況の背景にはあります。大震災によって、私たちは研究開発でも放縦にエネルギーを使用することが正しくはないことを思い知らされたためです。社会と地球の持続可能性は決して遠い抽象的課題ではなく、今、実行しなくてはならない喫緊の課題と変貌したといえるでしょう
 東京都の最大電力消費事業者は実は東京大学です。日本全体のCO2排出量の0.01%に相当します。どんなに小規模な大学でも理系であれば、今夏の電力使用制限の対象となる大口事業者(500kw以上)にほぼ該当すると考えて良いと思います。
 東京大学でTSCP(東京大学サステインナブルキャンパスプロジェクト)室長の磯部教授によれば、平方メートル当たり、文学部を1とすると病院が6、農学、理学、工学部などは2から2.5に相当すると言います。最も、電力使用制限で困るのはまず病院、そして理系の学部であることは間違いなさそうです。エアコンで完全空調している動物舎やフリーザー、インキュベーター、蒸留機、スパコンなど電力多消費の装置の設備更新と仕事の平準化が喫緊の課題となります。
 日本省エネルギーセンターの国民活動支援本部長の縫部氏によれば、とにかく仕事を平準化するためには、仕事を止めるのが一番だと強調しました。この夏は土日に仕事をしたり、深夜に大型装置を稼働するなど、勤務体系の変更を迫られることは避けられません。
 東京工業大学ではゴールデンウィークは休みなしで授業や研究を行います。その分、夏休みを前倒しにして、電力ピークを削減することを計画しています。こうしたきめ細かい対策はここ数年どうしても必要になります。何故ならば、東京電力が火力発電所を増設しても、結局、地球環境問題にぶち当たります。しかし、これ以上、原子力発電に頼るという政策に、我が国の国民は首を縦に振らないでしょう。今後、電力やエネルギーのひっ迫は続かざるを得ないのです。3.11以降、今までのように放縦に電力やエネルギーを使用できる状況ではなくなり、今後もそんなに急速に状況は改善する見通しは無いことを直視しなくてはなりません。研究や教育を取り巻く、エネルギー環境も然りであります。
 研究支援機器を変えると、データが変わるのではないか?研究者は皆、ある意味では保守的です。しかし、ことここに至っては、環境対応機器に、研究支援機器も買い替えるべきではないか?実は、一般家電や産業用家電で今猛烈な省エネ化が進んでいます。研究開発支援機器で省エネを意識した機器も実はわずかながら誕生しています。研究支援機器ももっとこうした技術革新を取り込む時代を迎えたと考えております。今回のセミナーでも、電力使用量を半減したディープフリーザーや電力使用量を激減した蒸留機が紹介されました。しかも、節約した電気代で3年以内で買い替え費用を賄えるのです。東京大学本郷キャンパスでは、実験機器は36.6%の電力を使用しています(磯部教授)。証明や建物などの省エネ化はかなり進んでおり、残された省エネの未開地は実験機器なのであります。いまこそ、省エネの技術突破を取り入れる時期だと、考えています。私は修士の2年間、超純水の蒸留装置の釜番を務めておりましたが、冬でも発熱で汗ダラダラとなったものです。これを高分子膜純粋製造装置に変えるだけで、95%も省エネになると聞きました。研究室の環境改善のためにも、これはありがたい。
 特別講演をした北里大学柴学長によれば「私学は光熱費の管理は全体で行っているため、研究者や教官の省エネの意識はない。研究支援機器に対しては極めて保守的で、計画的に置換することはない。壊れたら取り変えましょうというのが現状だ。省エネ化にはリーダーシップが必要だ」。同大学は、蒸留機の買い替えを推進、グリーンラボに踏み出しました。また、今年から着工する北里大学病院の建設では、CO2削減を目指した病棟建設で国土交通省から大学病院で初めて認定を受けた野心的なグリーン化に挑戦します。
 同大学は東日本大震災で、釜石の海洋バイオテクノロジー研究所が津波の被害を受けました。幸い新日鉄の溶鉱炉のスラグの山が津波を緩和、二階建ての研究所の2階はまったく被災を免れました。その結果、二階部分に保存されていた海洋微生物の主要なコレクションはなんと無事でありました。現在、2日置きに液体窒素を交換、維持されています。まったくの僥倖です。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2007/7858/
 一方、同大学の水産学部がある大船渡市のキャンパスも被災しました。標高60mに校舎があるので、校舎は津波の被害を免れましたが、学生のアパートの35%が被災、関東の北里大学のキャンパスに丸ごと移動することを決定したばかりでした。北里大学には新潟キャンパスなど6つのキャンパスがあり、中越地震以来、6つのキャンパスを衛星通信網で結んでいました。東日本大震災では、この衛星通信網のお陰で本部との連絡は途切れることはありませんでした。やはり「遠き慮りなければ近憂あり」。
 東日本大震災から私たちは学んだことを、実行に移して、より安心で強靭な日本を創らなければなりません。震災の混乱から1か月経ち、消極的な節電から、積極的な節電やグリーンラボの実現を目指し、将来を見据えた一歩を踏み出さなくてはなりません。東大は光熱水費の実費の4%を上乗せし、各部局から費用を回収、TSCP実現のための投資を行っています。省エネ機器を導入した費用は4年分は部局が負担、5年以上投資回収に必要な資金はTSCPが負担する仕組みを作り上げ、グリーン化を駆動しています。
 もうこんなにも先駆者たちは走り出しています。皆さんも、真っ暗なオフィスで自己満足せずに、どうぞ一歩踏み出していただきたい。
 今週もどうぞお元気で。