東京の桜は盛りを過ぎました。後1週間後の八重桜の開花を待つ気持ちです。東日本大震災の影響か、皇居の桜も小ぶりで、蒼ざめて見えたのは気持ちのためだけではないでしょう。本日の出勤時に、周りの携帯電話が河鹿のように一斉に鳴きました。緊急地震情報です。こんなにも余震が続くと、首都圏でも心が休まらない。耳鼻科には地震酔いの患者さんが増えていると聞きました。プレートの歪みの調整が一段落し、復興と原発の処理が一刻も早く進むことを、心から祈っています。
 昨日、取材の合間に、竹橋の国立近代美術館で開催されている岡本太郎生誕100周年展を覗きました。少しでも元気が欲しいためです。しかし、1970年に開催された大阪万博の頃の日本は貧しかったが元気がよかった。日本復興のためには、皆さんも何とか、元気を搾り出さなくてはなりません。カラ元気に終わらせないためには、新しい日本をどう創造するか、わくわくするようなビジョンが必要です。地縁だけに頼った復興構想会議はその任に堪えるか?桜がはらはらと散るのを見ながら、そこで子供を育て、地域を担う30代が中心となってやりたいことをやる構想を練るべきだと思いつきました。我々の世代は、こうした世代の中からリーダを見出し、支援することだと思います。構想の実現も見ることのできない世代は助言に徹するべきではないでしょうか?少なくとも中長期的構想と短期的復旧の議論は整理し、担当する世代に配慮すべきだと私は思います。
 さて個の医療です。
 4月8日にフランスsanofi-aventis社が米国のベンチャー企業、Genzyme社を201億ドルで買収を完了しました。1兆7000億円近い資金で、フランスの唯一のビッグファーマが残り少ない80年代に操業した老舗バイオベンチャーを買収した理由はいくつか報道されていますが、第一は同社のバイオ医薬品(組み換え酵素や抗体医薬)の開発・製造能力、第二は希少病に対する医薬品のパイプライン、第三に同社のバイオサージェリーなどの再生医療関連の商品とその開発技術であると言われています。フランスLyonの新規開発地域にGenzyme社のバイオ研究所と工場があり、近くにフランスsanofi-aventis社の子会社Sanofi-Pasteur社があり、先月取材した折に、これじゃ買収したくなると一人合点したものです。今回の買収により、北米BostonとフランスLyonの二箇所に一挙にバイオ医薬の製造開発拠点を獲得することになりました。見渡したところ大型医薬をもっていないGenzyme社を買収したsanofi-aventis社の意図は、米Pfizer社のような売り上げ確保のための製品を企業買収で手に入れる手法とは異なります。
 以下の同社のパイプラインへのリンクを示しますが、本当に変わった会社です。逆張り、あるいは誰もやらないニッチな領域や技術に特化していることが分かります。Genzyme社は、希少病疾患の治療薬で名を馳せましたが、会社自体もビッグファーマとも、米Amgen社などのバイオ大手ベンチャーとも、まったく異なる戦略を持った極めて独創的な企業であることが分かります。
http://www.genzyme.com/research/pipeline/pipe_home.asp
http://www.genzyme.com/business/biz_home.asp
 しかし、世の中が進み、化学合成医薬による生活習慣病薬、ブロックバスター薬の市場が、ジェネリック薬に席巻され、抗体医薬・ワクチンへと競争がシフト、おまけにすべての医薬品が個の医療化し始めた、製薬企業のパラダイムシフトが起こりつつある現状では、Genzyme社に蓄積された希少病薬の開発能力と希少病薬の集中製造と世界販売による利益確保のビジネスモデルは極めた魅力的になりました。加えて、実用化寸前のアンチセンスDNA医薬、遺伝子治療、再生医療など、今までは際物だった次世代バイオ医薬の事業化でも先行しているGenzyme社は、ブロックバスターモデル崩壊後、途方に暮れていたsanofi-aventis社には救世主のように思えたのではないでしょうか?しかも、sanofi-aventeis社の拠点であるLyonにおける地縁も加わりました。一時、買収価格を高騰させるためか、我が国の武田薬品がホワイトナイツに名乗りを上げたという報道もありましたが、買収金額さえ折り合えがつけば、武田薬品に付け入る隙がなかったことは明白です。
 Genzyme社は昨年、sanofi-aventis社の買収提案を「嫌だ、買収価格が低い」と逃げ回りながら、2010年9月には米LabCorp社に遺伝子診断部門を売却、2010年11月には積水メディカルに診断薬部門を売却、身軽にしてsanofi-aventis社の買収を待っていた、矛盾した態度を取りました。本来ならsaonfi-aventis社はこの両部門とも買収すべきでしたが、何を錯誤したか、資金的にショートしたか?完全買収を断念しています。
 この結果、sanofi-aventis社は希少病医薬をパスウェイブロックバスター(希少病と同じ原因によって発症するありふれた疾患の一部の患者群をまとめて大市場を形成するビジネスモデル)展開の鍵を握るバイオマーカーを開発、商業化する道を閉じてしまいました。漁夫の利を占めたのは、LabCorp社と我が国の積水メディカルと言えるでしょう。いくら、Lyonに極めて親密なフランスbioMerieux社があるとはいえ、今回の判断ミスは同社の希少病ビジネスや個の医療の展開に大きな禍根を残したと考えております。
 さて、東日本大震災で公開を延期しておりました「コンセンサスエンジン消化器がん」第八回討議「コドン13変異を有する切除不能・再発大腸癌に抗EGFR抗体を臨床導入すべきか」を公開しました。KRAS突然変異の部位によって、実は抗EGF受容体抗体に治療効果があることが判明、それにどう臨床に対応すべきか、議論しました。医師限定ですが、個の医療の最先端をご覧願います。
https://bioce.nikkeibp.co.jp/consensusengine/
 さてもう一つ。明日より、「コンセンサスエンジン乳がん」を始動いたします。今回は昨年から行ってきた2回の討議を公開します。
 第一回討議「Ki67 indexを用いた治療法選択」
 第二回討議「閉経後のホルモン療法」
 これも現在は医師限定で恐縮ですが、どうぞ下記よりアクセス願います。
https://bioce.nikkeibp.co.jp/breastcancer/
 コンセンサスエンジンはバイオ技術革新と実際の医療の現場に横たわる情報ギャップと認識ギャップを埋める新しいメディアです。構想4年目でやっと芽吹き始めました。どうぞ、ご期待願います。
 どうぞ皆さん、今週も元気を出しましょう。