東北地方も今日は暖かくなって、ほっとしています。少しでも復旧が進むことを心から祈っております。
 さて、セリエAのミラノダービー(長友選手不出場)で敗退したインテルは、欧州チャンピョンズリーグのホームの試合で、ドイツのシャルケに手痛い5:2でまたもや敗退、ベスト8進出がほぼ絶望的になりました。あれだけ好調だったインテルが、ぼろぼろになってしまう、サッカーというのは恐ろしいゲームです。シャルケの内田選手の好調が目につきました。後半出場した長友選手も頑張っていたのですが、後半のシャルケの攻勢を押しとどめ、反撃するまでには至りませんでした。しかし、ゴール前で内田と長友両選手が身体を寄せて、せめぎ合うシーンを見ると、Jリーグ発足以来、日本のサッカーもここまで国際化したかと、感慨無量です。
 さて、個の医療です。
 2011年3月25日(メールで3月28日と報道したのは間違いでした)、米国食品医薬品局はヒト抗CTLA-5抗体「YERVOY」(Ipilimumab)の販売認可を米Bristol-Myers Squibb社に与えました。悪性黒色腫に対して世界で初めて延命効果が証明された医薬品です。手術不能の悪性黒色腫と転移性の悪性黒色腫に適応が認められました。悪性黒色腫の予後は悪く、画期的な医薬品の登場が待たれていました。抗体医薬が再び、アンメット・ニーズを解消する手がかりを与えました。
http://packageinserts.bms.com/pi/pi_yervoy.pdf
 YERVOYの画期的なことは、この抗体を使ってT細胞性の免疫反応を人類が操作できるようになったことです。B細胞性の免疫反応は3月9日に米国食品医薬品局が販売認可したヒト抗BLys抗体「Benlysta」(Belimumab、英国GlaxoSmithKline社)によって操作できるようになりましたので、この春は人類が免疫の微調整の手段を獲得した画期的な春となったと考えています。BenlystaはB細胞性の自己免疫疾患であるSLEの特効薬です。活性化したB細胞性免疫を抑制して、治療効果を発揮します。YERVOYはT細胞性免疫を抑制しているCTLA-4に結合し、そのリガンドであるCD80/CD86との結合を阻止して、T細胞を活性化します。ポイントは抗原特異的にT細胞性免疫を亢進する(して欲しい)という点です。悪性黒色腫によってがんに対する免疫抑制がかかっている患者さんに投与すると、悪性黒色腫特異抗原に対するT細胞性免疫を誘導し、がん細胞を死滅させると期待されているのです。がんワクチン療法でよく見られる、がんワクチン投与後に免疫が抑制されて、治療効果が減殺される免疫抑止メカニズムを解除する可能性があるのです。CTLA-4は抑制性T細胞(Treg)にも発現しており、Tregの免疫抑制も解除する可能性があります。
 今までのステロイドやFK506、抗CD3抗体、抗CD20抗体が免疫系を抗原によらず抑止する全面停電というならば、新しい免疫調整抗体医薬は計画停電です。これは例えが悪過ぎましたが、もっとちゃんと言うと、抗原特異的に免疫系を微調整する可能性を拓いたと言えるでしょう。免疫反応は過去の抗原暴露の履歴と遺伝的な背景によって決まります。こうした抗体医薬は遺伝的な個の医療だけでなく、患者さんのライフスタイルの多様性によって生じる免疫反応の多様性にも対応できる次世代の個の免疫調節薬ともいえるでしょう。
 ただし、楽観は禁物です。YERVOYの臨床試験では悪性黒色腫患者を対象に、がん特異たんぱく質gp100のペプチドワクチンをベースに、YERVOYの有無で患者さんの全生存期間を比較しました。その結果、gp100のみ投与した患者群の中央値は6ヶ月、YERVOY単独とYERVOY+gp100には差がなく、共に10ヶ月でした。ワクチンによる抗原特異的なT細胞性免疫を誘導するという上乗せ効果をYERVOYは示せなかったのです。
 また、もっと深刻なのは、非特異的なT細胞性免疫反応の活性化が副作用として起こることです。30%以上の患者で消化管症状(大腸炎、下痢)や皮膚反応が生じます。また、40%以上が疲労感(リンフォカインの分泌が原因だと思います)を訴えました。微調整と申しましたが、まだまだ荒っぽいT細胞性の免疫操作に過ぎないのです。
 先月、東京で開催された癌ワクチンのシンポジウムに来日したNCIの研究者が、そっと耳打ちしてくれました。「抗CTLA-4抗体は副作用がきつい。抗PD-1抗体の方が副作用少なく、抗原特異的なT細胞性免疫を誘導できる」と。この抗体こそ、京都大学が開発し、小野薬品が米Bristol-Myers Squibb社と現在、フェーズ2臨床試験を進めているONO-4538/MDX-1106でした。我々の足元に、有望な免疫調節抗体医薬があったのです。イスラエルのCuraTech社も抗PD-1抗体(CT-11)を米国でも臨床開発中で、もちろん、小野薬品も安穏としてはいられません。
 世界は急速に個の医療へと進んでいるのです。
 どうぞ皆さん、今週もお元気で。