【お詫びと訂正】「メールマガジンの担当者が欧州で取材する中で感じたことを表現しましたが、一部に被災地に居られる方々の心情に配慮を欠いた不適切な表現がありました。読まれた方に不快な印象を与えましたことをお詫びし、第一段落の文章を以下のように訂正いたします」
 現在、フランスのLyonに滞在中です。こちらは暖かく、桜が咲いています。当地ではソメイヨシノと八重桜がほぼ同時に咲いているので、何やら混乱してしまいます。当地では福島原発のニュースが毎日報道されており、日本から来たというと、必ずお悔みの言葉をいただきます。今回の事件は欧州の反原発運動にも勢いを与え、ドイツやフランス、英国などで、地球環境問題によってすっかり力を失っていた反原発運動が頭を持ち上げつつあります。
 Lyonで昨日まで開催されていたBioVision2011で、フランスのBigot原子力委員会委員長が「我々は遊びで原子力発電をやっている訳ではない。福島の事故があってもフランスの原子力政策は変わらない」と凄んでいたのは印象的でした。既に過半の電力を原子力に依存して選択肢のないフランスの呻きです。同氏はバイオエネルギーはフランスのエネルギー需要の10%以下しか占めないだろうと、八つ当たりもしていました。いずれにせよ、我が国も含め、世界はエネルギー源の多様化を現実的な問題として取り上げなくてはなりません。我が国ではまず、福島原発の再臨界の可能性を断つことが、勿論、一番の課題ですが。
 さて、個の医療です。
 BioVision2011で、がんの治療薬や治療法の開発で最も大きな課題として取り上げられたのが、個の医療でした。GFPでノーベル賞を下村先生と同時に受賞した米カリフォルニア大学のRoger Tsien教授が、GFPや蛍光物質などによりin vivoでがんを染色し、手術によるがん切除の精度を向上させる手法を発表していました。手術で問題となる神経の障害を防ぐために、神経を別の色で光らせ、多重発光によってがんを全て取り切り、しかも、神経を切断するリスクを低減できる可能性を示していました。まだ、動物実験の段階ですが、がんの最強の治療法である外科手術の高精度化は、バイオの次のターゲットになることは間違いありません。
 昨日の議論で最も興奮したのは、フランスのLeon Berand Center教授のJean-YvesBlay教授ががんの治療で個の医療はもう現実のものとなっていると指摘した点でした。同氏はオンコセラピー社の抗体医薬の臨床試験をこの秋から開始する責任者でもありますが、欧州がん研究・治療機構の代表も務める、欧州のがん治療のエンジンの一人です。
 同氏は既に、がんの病理的な分類を越えて、治療標的に基づく分類によって、抗がん剤の効果を検証する臨床試験を開始していました。今や肺がんや卵巣がんなど、古臭い部位別や組織別の分類ではなく、どのシグナル伝達機構が異常となってがんを発生しているかを分子診断し、その分子標的毎に患者さんを選び、投薬しようという、画期的な概念を検証しようとしています。
 このメールでも何回も指摘していますが、今の医学の疾患分類がもう時代に合わない。病気の原因別の疾患分類がより精密で妥当な治療薬選択のために必要であるという主張を体現していました。従来の病理学的な分類と、原因別の疾患分類がずれていたために、患者毎に最適化する個の医療という概念が出てきたいのですが、疾患分類そのものを変えてしまえば、全てが個の医療となって、改めて個の医療と叫ぶ必要がなくなると思います。
 10年以内に胃がんや肺がんという大雑把な分類が、HER2亢進病やALK異常疾患、IGF1受容体亢進病などのように原因別に分類されてくると考えるだけでも、楽しくなりますね。今や膨大な記憶を強いる我が国の医学教育の変革も当然必要となります。
 明日、Blay教授には改めてインタビューをする機会を得ました。どうぞ、続報もご期待願います。
 今週もどうぞ、お元気で。