現在、那覇へ飛行中です。内閣府の資金提供による沖縄でのバイオベンチャー振興プログラムの審査と、今晩、那覇で「コンセンサスエンジン消化器がん」のネット討議を行うことが目的です。東京にウェブでの会議開始まで戻れないので止むを得ず那覇から参加です。明日は、北海道と沖縄のマッチングイベントにも参加する予定です。
 皆さんは、沖縄のホームセンターで組み換えパパイヤでも探しに行くのかと、誤解なさっているかも知れませんが、こればかりは見かけでは分かりません。今回の”事件”発覚も、国立食品医薬品衛生研究所が我が国の食品安全委員会とが安全性を認め、消費者委員会も表示方法で合意済みのハワイ産の組み換えパパイヤ(リングスポットウイルス耐性、現地では「Rainbow」という商標で販売中)の検出方法を開発する時にたまたまコントロールとして購入したパパイヤから、組み換え体を検出したと報道されています。
 詳細は一切分からないので、以下は推測ですが、これは幸運に幸運が重なって発見されたと考えています。何故なら、検出に使ったPCRのプローブが認識する配列が偶然「Rainbow」と同じだったと推定されるためです。沖縄で販売されていたパパイヤは「Raibow」ではなく、台湾で開発された組み換えパパイヤだと言われています。まさかウイルス感染との誤認はテクニカルにないと思いますが、ウイルスが増殖する際にDNAを経なければその誤認リスクは限りなく零に近いでしょう。「Rainbow」のゲノムにウイルスの一部の遺伝子(抵抗性遺伝子)が組み込まれていますが、その挿入部位をまたいでPCRプローブをデザインして検出するのが、最も特異性の高い検出方法となるのですが、こうしたプローブで本当に台湾製の組み換えパパイヤが検出できたのか?つまり挿入部位まで「Raibow」と同じであったなら、新たに遺伝子組み換えで創られたのではなく、何らかの方法で「Raibow」との交配によって台湾の品種にリングスポットウイルス抵抗性遺伝子が伝えられたことになります。
 現在、組み換え農産物の栽培面積は世界的に拡大しつつあり、各地でオリジナルな組み換え品種との交配により、新しい品種が続々と生まれてくることを制御できない状況になったのかも知れません。こうした状況で、安全性と消費者の知る権利をどう守るか?農水省や厚労省も国境での抜き取り検査や市販のパパイヤの抜き取り検査強化でお茶を濁すだけでなく、食料自給率が20%である事実を踏まえて、抜本的な対策策定と消費者の啓蒙を行わなくてはなりません。このままでは、杞憂により食品の調達コストが膨らみます。ただでさえ、国際的に食料価格が高騰しつつあり、将来もこの傾向は決して変わらないことをリアルに考えるべきでしょう。農水省のホームページによる組み換え農産物の情報提供は、昨年閉鎖されていましたが、復活後も極めて内容に乏しく、意図的に国際的な状況から我が国の国民から目を逸らそうとするものです。目をつぶらせれば消費者の安心を得られると考える農水省の官僚と政務三役の発想は、インターネットを断ったものの結局、政権を追われることになったエジプトの大統領とまったく同じですね。
 勿論、僕は沖縄でパパイヤを堪能して参りたいと思います。
 さて個の医療です。かなり前に、ワクチンと抗体医薬などを軸に企業再編が一段落したら、次は製薬企業による診断薬企業の買収が起こると予測いたしました。今までは米Abbott社と米Pfizer社など戦略的な診断薬と新薬開発の提携が進行していましたが、いよいよビッグファーマによる診断薬企業の買収が始まりました。個の医療の進展に加え、医療費抑制の圧力が新薬の適用患者を鑑別する診断薬と新薬の同時開発に拍車をかけます。私の予測に対して、診断薬企業と製薬企業では市場規模も開発・許認可プロセスそして、社風もまったく異なるので不可能ではという声もいただきました。しかし、今やその思い込み捨て去らなくてはなりません。
 最近は少し鈍ってきましたが、医薬・医療の技術革新に最も鼻が効くスイスRocheグループが、買収によってRoche Diagnostics社を編成、しかもRocheグループの社長に、Roche Diagnostics社の社長を迎えた頃は、ずいぶん大胆なことをやるものだと多くの読者が思ったと思います。が、今や新薬の開発コスト削減に薬が効き、副作用を生じる確率が低い患者群を選択するバイオマーカーの開発は不可欠となりました。おまけに米国食品医薬品局などの規制当局も、患者鑑別や副作用のバイオマーカーの開発を要求するに至り、個の医療の流れは歴史的必然となりました。
 2011年1月24日、スイスのもう一つのビッグファーマ、Novartis社が公開買い付けにより、米Genoptix社を4億7000万ドルで買収すると発表しました。同社は血液内科と腫瘍内科の医師に対して、骨髄や血液、リンパ節のがん診断受託サービスを行っている企業。現在、Novartis社が力を入れているmTOR阻害剤「Afinitor」の適応拡大や「Tasigna」などのキナーゼ阻害剤の販売促進に、相乗効果が期待できます。今まで、Roche社とは対照的な戦略を取ってきた同社も、いよいよ個の医療の流れには抗せなくなったのです。Novartis社が発表した2011年の重点開発目標の一つにも分子診断を取り上げています。自社開発に加え、今後も診断薬や診断サービスの企業買収を行う可能性もあるでしょう。
 診断薬企業ではなく、診断受託サービス企業の買収に踏み切ったNovartis社は、ひょっとしたら個の医療のトータルなソリューションを提供するところまで、腹を括ったのかも知れません。
 IBMのビジネスモデルの変遷をみるまでも無く、あらゆる産業は製造業からサービス産業へと進化します。個の医療の実現によって、医薬品産業の次なる進化がいよいよ始まったと、私は判断しています。世の中は予想以上の速度で変化しつつあります。
 那覇ではもう桜(緋寒桜)も散っているはずです。皆さんも、光の春をご堪能願います。