福岡行きの飛行機は何故か、滑走路からピットに戻りました。何やら右のエンジンの発電機に異常を検出したと、機長。しばらく石油臭い思いをし、60分後、無事メンテナンス終了しましたとアナウンスがあったのですが、こればっかりは信じるしかない。せめて修理と表現しなかった、賢いキャビンアテンダントに感謝です。安心と安全の境目を見事に渡り切りました。きっと航空会社のマニュアルにあるのかも知れませんが、言葉一つで救われました。ただ、意地悪な乗客ならメンテナンスはもっと前にしておけ、というかも知れませんが。
 昨夜、ウェブ上で何と17人もの専門医を招き、乳がんの最新治療に関して、コンセンサス形成を行いました。日本全国北から南まで津々浦々からのご参加です。本当に影響力のある専門医達が必ずしも、診断主義や処方方針で一致していないのも明白となりました。昨今はなんでもランダムコントロールド・トライアル万能ですが、厳格な二重盲験で十分な症例を集めた科学的なエビデンスは不足しています。エビデンスに基づいた医療は理想的ですが、患者の遺伝的・ライフスタイルの多様性、そして医療を供給する体制の多様性に、すべて応えられるエビデンスはありません。暴騰する臨床試験のコストを考えても、全部の医療行為をエビデンスベースにするための原資も足りません。むしろそうした頭の固いことだけで対応しようとすると、医薬品の価格が上昇し、新薬にアクセスできる患者が富める者に制限されてしまう矛盾が生じます。
 もっと意地悪な言い方をすれば、科学的な真実が独立した追試によって初めて証明されますが、今、私たちが得ている新薬のエビデンスは企業がスポンサーした臨床試験から得られ、必ずしも他の独立した研究者が追試で証明したものではないのです。特に、生活習慣病のような何千例もの臨床試験を追試するのは、コストと患者のリクルートの点からも容易ではありません。つまり、科学的な仮説に過ぎないと冷たく言い切ることもできます。
 もうそろそろEBM(エビデンスベースド・メディシン)の再点検を行う時期であると考えています。そしてそれに代わる医療こそ、コンセンサスベースド・メディシン(CBM)だと私は考えています。一時の熱病みたいなEBMの時期が終り、その限界と現実を見定めた今、極めて当たり前の医療の姿に戻るべしということです。但し、今度のCBMは今までばらばらに専門医の脳や心に秘匿されていた貴重な判断や経験を、インターネットなどの情報技術で集約し、タイムリーに提供することが決定的に違います。その意味で、現在、開発中の新しいメディアであるコンセンサスエンジンに、是非ともご期待願います。現在、下記でコンセンサスエンジン消化器がんを公開中。乳がんは来月公開の予定です。
https://bioce.nikkeibp.co.jp/consensusengine/
 実は新薬の発売後の症例蓄積こそが、独立した追試であるのです。新薬発売後の市販後調査重要ですが、限定された症例蓄積で限界があります。臨床試験を実施する臨床効果や副作用の判断力のある専門医の臨床経験こそ、エビデンスを確認、その限界も含めて解釈できる鍵を握っています。患者さんの多様性や、医療供給体制の多様性の壁を克服するためには、一人の権威ではなく、実際に患者さんを治療している信頼できる専門医達のコンセンサスこそが、重要です。私も30年もバイオ関連のニュースを発信して参りましたが、正直言ってニュースだけでは患者は治せない。バイオという真のイノベーションを我が国の医療に還元し、皆で幸福になるためには、ニュースやエビデンスからコンセンサスを常に形成し続ける、新メディアが不可欠だと実感しています。
 昨夜は17人の医師が2時間で340コメント以上、1分間に平均3人が発言、参加者一人平均6分に1回発言したことになります。どうもウェブでの議論は、実際の口頭での議論とは段違いの効率を秘めています。参加者の能力が高ければ高いほど、議論の進展のスピードは猛烈に上昇します。実際、議論の余りの濃密さと真剣さに、議論が終わるとほぼ全員がぐったりなるという過酷さでした。頭を絞り切るとはまさにこのことです。錯綜し、跳躍する議論をこれから議事録として整理する私にもこれから大変な試練が待ち構えています。何とも辛い。
 CBMという新しい酒には新しい革袋。新しい薬にも、新しいメディアを創らなくてはなりません。
 次の挑戦は、専門医のコンセンサスを患者さんと共有することですが、この件に関しては、皆さんのお知恵を是非とも拝借したいと思っています。ご意見、アイデアをどうぞお寄せ願います。新しい世界を創りましょう。
 もうすぐ福岡空港です。どうやら無事に到着しそうです。機内音楽で流れて来た曲はThe HoosiersのChoices、なかなか元気になります。でも、この曲実は昨年発売されたアルバム「The Illusion of Safety」から選曲されたもの。まったく、ANAには最後の最後まで気が抜けません。What a wonderful flight!
 皆さんも、光の春をご堪能願います。