皆さん、寝不足ではないでしょうか?PK戦が終わってみれば、午前1時。サッカー日本代表、見事な勝利です。。韓国にPKを決めさせなかったゴールキーパー川島選手に神が降りてきていましたが、それもこれもこのチームが一戦ごとに一丸となっているからです。後半加入した本田拓也選手と内田選手はもっと献身すべきです。しかし、それ以外の選手には満点を差し上げたいと思います。週末が本当に楽しみです。(申し訳ない、南アフリカワールドカップでPKを外したのは駒野選手で、今野選手ではありませんでした。私が余りにPKで盛り上がったための錯誤です。謹んで訂正いたします)。
 さて、個の医療です。
 今週月曜日のBTJ/HEADLINE/NEWSで報道した合成致死性(Synthetic Lethality)の続きです。今後の抗がん剤開発やその他の新薬の開発にも重要な概念であると考えます。
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 現在少なくとも9種のPARP1阻害剤が、世界で臨床試験が進められています。1990年代には化学療法や放射線療法の効果を増強する併用剤として開発が進められてきたのですが、近年は急速にトリプルネガティブの乳がんや肺がんなどの治療薬としても注目されてきました。
 PARP1は発ガン性物質や放射線などによりDNAの1本鎖が切断された部位を認識、結合するたんぱく質です。結合後、自身のPARP1たんぱく質と染色体を構成するたんぱく質ヒストンH1とH2BもポリADP-リボシル化します。この化学修飾の結果、たんぱく質の電荷が変異、染色体構造がほぐれて、DNAが露出する構造変化を誘導します。同時に、DNAの修復酵素もポリADP-リボシル化したPARP1を認識し、DNAの損傷部位に動員され、DNAの修復が起こることが知られています。この修復作用を阻害できれば、DNAを切断する化学抗がん剤や放射線療法の効果を増強すると期待されたのです。
 DNA修復酵素には、相同組み換えによって2重鎖の切断を修復する酵素もあります。PARP1阻害剤の適応拡大を図る研究で、実はBRCA1やBRCA2など2重鎖DNAの修復酵素に変異がある乳がんにも、PARP1阻害剤が効くことが明らかとなったのです。BRCA1とBRCA2は遺伝性の乳がんのリスク因子で、米国ではBRCA1と2の遺伝子検査が、乳がんの手術後の管理を決める重要なバイオマーカーとなっています。
 何故、1本鎖のDNAの修復阻害作用だけでなく、2重鎖のDNA修復能力に欠陥を持つがんにも効くのか?実は、1本鎖のDNAに切断が入ると、細胞増殖の際のDNAの複製によって、2重鎖のDNA切断が起こるためでした。PARP1阻害剤で、1本鎖のDNA切断箇所を維持して、細胞を増殖できれば、2重鎖DNA複製能力に欠陥のあるがん細胞はアポトーシスで自滅します。PARP1阻害と相同組み換え変異(2重鎖の修復能力欠陥)のあわせ技でがん細胞を死滅させるのが、合成致死性という考え方です。がん細胞のような遺伝子変異を持つ細胞の弱みを突く、新薬開発の新しい考えです。現在、がんゲノム計画が進行中で、多種のがんの遺伝的な変異の分布と頻度もある程度わかる時代がすぐにも到来します。こうした情報を活用すれば、合成致死性をがんに誘導することも可能でしょう。がんが組織や細胞種によって治療指針が立てられる時代から、がんがどんな遺伝的な欠陥を持っているのかを知って、治療方針を立てる時代になるのです。PARP1阻害剤はこうした新しい時代を開く医薬品となると確信しています。
 さてトリプルネガティブの乳がんでも、BRCA1とBRCA2の突然変異を乳がんにPARP1阻害剤が効くことはかなり証拠が集まってきました。つまりBRCA1と2の変異を測定すれば、PARP1阻害剤の個の医療が可能となるという訳です。現在、フェーズIII臨床試験を仏sanofi-aventis社が進行中です。
 では乳がん以外に効果はないのか?実は2重鎖のDNAの修復能力に欠陥を持つがんは多数存在します。肺がんでは30%の症例で、相同組み換え能力の欠陥が見つかっています。yH2AX、Rad51、PTENなどの相同組み換え関連遺伝子の発現や突然変異は、BRCA1と2に相当する患者選択のバイオマーカーとなる可能性があるのです。
 がんのメカニズムが分かれば分かるほど、抗がん剤の個の医療化はどんどん進むのです。合成致死性、この言葉の意味は深いと思います。
 現在、何故、我が国の製薬企業がバイオ医薬開発に出遅れたのか?製薬企業のトップインタビューで解明する長期連載を敢行中です。我が国の製薬企業の病は深い、どうぞ下記よりご一読願います。
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 今週もどうぞ、皆さん、お元気で。