東京はまた冷え込んでまいりました。千葉では昨夜、雹が降ったと聞いています。テニスの全豪選手権とカタールのサッカーアジアカップが平行して開催されているため、やや寝不足ですが、明日の韓国戦は見逃せませんね。昨日、テニスの女子シングルスの最長試合が樹立されました。4時間44分とよくも、4が揃いましたが、イタリアのスキアボーネ選手がロシアのグズネツフォア選手を、第3セット、16:14ゲームで振り切り辛勝しました。第三セットはタイブレークが無いので、2ゲーム差がつくまでの死闘となりました。バックハンドストロークと、ネットプレイの僅かな差が両者の明暗を分けました。どちらが勝っても不思議ではない試合でした。
 バイオでも、がんとの死闘に僅かながら人間が競り勝つ可能性が出てきました。
 現在でもハーセプチンやキナーゼ阻害剤などの標的医薬ががんの延命や治癒の可能性を固形がんにも拡大しましたが、ひょっとしたらがんを薬物療法によって駆逐できるかもしれないと先週、1月17-18日、と今日で開催された最先端研究開発支援プログラム(FIRST)のシンポジウムで認識いたしました。このシンポジウムはFIRSTに採択された「再生医療産業化に向けたシステムインテグレーション~臓器ファクトリー」と「ナノバイオテクノロジーが先導する診断・治療イノベーション」が共催した注目のシンポでした。
 まだこれらのプログラムは始まったばかりなので、私が興奮したのは英University College London Partners,Anticancer Drug Disicoveryand DevelopmentのHilary Calvert教授の招待講演でした。同氏は英Newcastle大学に在籍中の1990年からPARP阻害剤の開発を手がけたパイオニアです。同氏は、新しい抗がん剤のターゲットに、合成致死性(Synthetic Lethality)という概念を提唱しています。その核心は、単なる単一分子を標的とするのではなく、がんを生じている分子ネットワークを標的として、がんの撲滅を図るというコンセプトです。
 現在の配合剤の開発は、独立した標的に対してそれぞれ作用する薬剤の配合剤に止まっています。付加価値は、2錠飲まなくてよいという利便性と飲み忘れの防止など、あまり大した付加価値は患者にはありません。製薬企業にとっては、特許切れ医薬を特許医薬と配合して独占権を延長できるという無視できない旨みがあります。
 患者にも大いなる付加価値を提供する配合剤や併用療法の開発に合成致死性は重要なヒントを与えます。今後は、がんをがんたらしめている分子のネットワークの異常を狙い撃ちにするのです。
 その最先端を行くのがPARP1阻害剤です。現在、9種のPARP1阻害剤に米Pfizer社、英AstraZeneca社、米Abbott社、仏sanoffi-aventis社/米BiPar社などビッグファーマと米Inotek社、米Cephalon社、ドイツMelkel社、米Biomarin社などのバイオベンチャーが殺到、臨床試験を展開しています。我が国のエーザイも米MGI Pharmaceuticals社の買収によって、PARP1阻害剤の臨床開発に参戦いたしました。
 PARP1はDNAの1重鎖切断を修復する酵素ですが、もしこの酵素を阻害すると、がん細胞が分裂する時のDNA複製で、実はDNAの2重鎖の切断が生じてしまいます。もし、NA2重鎖の切断を修復する酵素が正常に働いていれば、がんはアポトーシスを免れて、増殖を続けます。しかし、2重鎖の修復酵素に機能不全が生じていれば、がんはアポトーシスによって死滅します。これが合成致死性という概念です。一つの標的を阻害すると、他の変異や機能不全とのあわせ技によってがん細胞死を誘導するのです。実は、変異が蓄積して暴走しているがん細胞には、こうした合成致死性がぴたりと当てはまる変異が存在しています。バイオによって、疾患のメカニズムが解明されればされるほど、疾患の弱みを逆手にとって合成致死性を誘導する治療戦略が編み出される可能性があるのです。
 「抗体医薬の標的が少なく、早、飽和している」などと、ぶつぶつ弱音を吐く前に、もっと疾患の中身を知る研究に精進しなくてはなりません。化学の時代から、創薬は生物の時代に移行しています。
 申し訳ない。時間がなくなりました。取材に出なくてはなりません。
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 今週もどうぞお元気で。