あっという間の年始年末休暇も終わり、皆さん、研究室や職場に復帰なすったのでは、ないでしょうか?日本海側の豪雪で皆さん、大変な不便を強いられた読者もいるはずです。もう、電気は回復したでしょうか?最近では電化が進み、我が家もで年末停電になったら、暖を失い、身の置き場がない状態です。2週間前に境港市で美味しい肴で熱燗を一杯やっており、その飲み屋の近くの岸壁で積雪のため係留していた漁船が沈没したというニュースに愕然としたところです。他人事ではありません。一刻も早い復旧を祈っております。
 正月は恒例のごとく、湘南の初日の出を堪能しました。今年も昨年同様、素晴らしい日の出となりました。振り返れば、真っ白に雪の衣をまとった富士。誠にめでたい風景でした。明治の元勲達が競って別邸を設けたのもうなずけます。しかし、最近の大磯では結婚式場であった伊藤博文の邸宅、滄浪閣が売却されたのですが、リーマンショックの影響で改築が進まず、廃屋のごとく放置されています。神奈川県と大磯町が自民党政権時代に、国に購入を請願したのですが、あっさり棄却され、史跡も今や幽霊屋敷にならんとしています。同様なことは、吉田茂邸でも同じこと。出火後に再建の寄付が始まりましたが、これも遅々として進んでいません。すべては、国や自治体に財政的な余裕がないことが原因です。貴重な歴史がジリ貧によって次々と失われていきます。
 民主党政権による11年度予算も、税収の落ち込みで国債44兆円を発行する危険水域に踏み込みました。自民党政権ではとても実現できなかった所得控除などの増税を実現させた今、今年の6月には消費税の増額を打ち出してくるはずです。しかし、政府の非効率を放置して、税収を高めても、せいぜい国債の利払いに消えるだけ。既に我が国のGDPの半額が政府予算(特別会計も含む)と同額となっており、国の非効率と非効率な国が作り出す需要にぶら下がっている大企業の非効率性が、がこの国が世界に取り残される大きな原因となってことが明白なためです。
 中でも、国の非効率の象徴となっているのが年金と医療費ですから、今年は厳しい風当たりとなることは避け得ないと思います。どうやって医療の効率を上げ、現在、個の医療など、著しい生命科学の進展が実現している技術革新を医療にも導入していくのか?ただ、海外での未承認医薬を緊急避難的に導入するだけでは、いずれ医療費が破綻することは必定です。昨年4月から新薬創出・適応外使用薬解消等促進加算が試験投入され、いよいよ革新的な新薬も乱売競争がなければ、薬価を特許切れまで維持できる制度が始まりました。これとの取引として、長期収載薬価の引き下げが決まりました。もう5年もすれば、我が国の独自の制度である長期収載薬価もほぼジェネリック医薬と同額となる見込みです。医療経済的にもやっと、技術革新の対価を回収し、医療費の伸びも抑制する仕組みが我が国でも成立したと考えております。相変わらず変化は他国と比べてゆっくりですが、日本も動き出しました。
 「長期収載薬価があるから、日本の製薬企業の株価は過大評価されている」と、10年前にビッグファーマの担当者から聞いたことがありますが、長期収載薬価がジェネリック(それでも尚、日本のジェネリックの薬価は高いですが)並みに低下すれば、我が国の製薬企業の整理編成も避けられないと思います。かつて米Merck社が万有製薬を買収し、昨年、MSD社にしたように、我が国でも国内製薬企業間だけでなく、外資による買収の可能性も膨らみます。現在、我が国の製薬企業を守る楯は円高だけに過ぎないことを認識する必要があります。我が国の企業も二匹目の泥鰌戦略を捨て、ファースト・アンド・ベスト・イン・クラスの新薬創製企業になるか?グローバルな販売・開発力と資金力を持つ総合医療商社に脱皮するか?二者択一の一歩を今年、定めなくてはならないと思います。リーマンショック以降、欧米諸国が乱発した国債の償還が2012年に迫っており、今年1年間だけがポストリーマンショックの新たな経済の枠組みとビジネスモデルを構築するために残された時間だからです。
 先ほど、武田薬品の長谷川社長から新春社長挨拶のメールが届きましたが、主要医薬品の特許切れに直面している武田が「過去の成功体験と決別し、新たなタケダへ成長する変革」を行うことを新中期計画で宣言、今回のメールで「何もしないことこそが、最大のリスクであることを肝に銘じて変革に取り組む」と強調しています。果たして、これを実行できるか?武田だけでなく、失われた20年間、ただ労働分配率を下げて生き残ってきた我が国の大手企業の真の実力が問われると、真剣に注目しております。
 さて最後に個の医療です。昨年の10月、米Genentech社が抗HER-2抗体医薬、ペルツズマブと同じく、抗HER-2抗体医薬、トラスツズマブと化学療法剤ドセタキセルの3剤併用によって、乳がんの病理学的腫瘍完全消失(PCR)を得たことを、発表しました。まだ、フェーズ2の結果ですが、画期的な治療効果です。3剤併用が乳がんの標準治療となる可能性が出てきました。トラスツズマブとペルシズマブは乳がんに高発現する抗原HER-2と結合しますが、結合部位が異なり、ペルシズマブはHER-2が二量体を形成し、増殖シグナルを細胞内に伝えることを阻害し、抗がん効果を発揮すると期待されていました。しかし、化学療法との併用だけではまったく効果がなく、一時はもう駄目だと噂されたほどです。しかし、Genentech社恐るべし、まさかトラスシズマブとの併用で、これだけ薬効を発揮するとは、まさに同社の臨床開発力が証明されました。実際のところ何故、抗体医薬を2剤併用すると効果が出るのか?その仕組みはまだ分っておりません。しかし、京都大学の乳腺外科の戸井教授は確実に乳がん治療を変えると高く評価しています。
 ただし、問題は医療費です。大雑把にいって、月間抗体医薬2剤で80万円、化学療法で40万円かかると見込むと、月間120万円が必要です。仮に半年投与として720万円は必要となります。今後、他の疾患でも抗体医薬の併用が進めば、同様に医療費が大きなボトルネックとなります。
 乳がんを治癒できる3剤投与であるため、できるだけ大勢の患者さんに投与すべきであると思いますが、これを実現するためには医療費の財源確保も議論しなくてはなりません。我が国の医療にも技術革新を導入すると決めた以上、我が国の政府も腹をくくって大胆な医療費の再配分を急がなくてはなりません。ジェネリック医薬品の徹底的な品質管理による信頼確保に加え、薬局や医師、そして患者も医療資源が限定されていることを認識し、特許切れの医薬品はジェネリックを処方する制度改革も必要であると確信しております。今年の個の医療は経済との格闘が課題となるのです。ジェネリックで節約した医療財源を革新的な新薬に振り向ける大きな流れと創らなくてはなりません。ここに今年の希望があると私は思っております。
 今年もどうぞ、皆さん、お元気で。