さて、まずはお知らせです。残席も僅かとなりつつあります。どうぞ、お早めにお申し込み願います。
 12月21日午後、品川で今年最後のBTJプロフェッショナルを開催いたします。
 抗体医薬、ワクチンの後の新薬開発の中心は、再生医療と核酸医薬であることは間違いありません。自家細胞移植では医療行為としての側面が強く、企業の参入障壁が大きいのですが、再生医療で万能細胞が活用できるようになれば、まさに細胞医薬として企業化が可能となります。今回のセミナーでは、米国で今年11月にヒトES細胞の臨床試験が始まり、我が国でもやっとヒトiPS細胞の臨床研究が解禁されたことを受け、新たな段階に突入した再生医療を議論します。我が国でもヒトES細微やヒトiPS細胞を活用した臨床研究がリアルな課題となってきたのです。今回はヒトES細胞とヒトiPS細胞の臨床応用を牽引する研究者を、京都iPS研究所、国立成育医療センター、そして慶応技術大学から招聘いたしました。また、恒例の白熱のパネルディスカッションには、厚労省の幹細胞臨床研究の担当者、そして医薬品・医療機器総合機構の生物系審査第二部の部長も参加、本気で再生医療をどうやって実現するか、周知を集めます。会場からも是非鋭いご意見をいただきたく、皆さんのご参加を心待ちにしています。
 詳細は下記をご参照の上、お早目にお申し込み下さい。早い者勝ちです。
http://bio.nikkeibp.co.jp/bio/seminar/101221/
 雨模様の東京を早朝に発ち、大阪に向かっております。本日は年末恒例の近畿バイオインダストリー振興会議の年末セミナーに参加する他、2件の取材が重なりてんてこ舞です。おまけに、昨日、テニスコートでアキレス腱を痛め、牛歩を強いられています。ゆっくり急がなくてはなりません。
 先週の土曜日に技術士の生物工学部会発足、20周年記念の会が東京で開催されました。バイオテクノロジーに逸早く取り組み、プロフェッショナルとして確立しようとした、先人の努力と先見性には頭が下がります。但し、会場でも話題になっていましたが、生物工学と農芸化学の差は何かなど、バイオテクノロジーが、横串を貫く技術であるため、製品や応用分野に準拠している技術士のジャンルに混乱があることは課題として残っています。日本の組織は縦割りが余りにも強く、21世紀に入って実用化が加速した横串を貫く技術革新を上手に事業化できない問題と瓜二つの問題を抱えていました。今や一つの分野の専門家より、複数の分野の専門家や専門家同士のチームが技術革新のために必要となっています。人材の育成や異分野のコミュニケーションも含めて、我が国の科学技術げ取り組む課題は極めて大きいと実感いたしました。
 この会議では記念講演もありましたが、2010年10月15日のScinece誌に掲載された重要論文を講演会で教えてもらいました。この論文は世界で初めて特製のスパコンによって、たんぱく質の構造変化やフォールディングを分子動力学計算でシミュレーションできたことの報告です。今やウシ膵臓トリプシン阻害たんぱく質(BPTI)のような小さなたんぱく質であれば、NMRや結晶解析などせずに、しかも、ダイナミックな構造変化を計算することまでできるようになったのです。
 かつて飛行機や自動車のデザインを決定する際には、空気抵抗を実測する巨大な風洞が必要でした。しかし、今では風洞は引退し、スパコンを使ったシミュレーションですっかり代替されています。たんぱく質の研究も、NMRや放射光の実測の時代から、今後急速にスパコンによる計算に移行していくことは間違いないと思います。スウェーデンや韓国が放射光施設の建設に入っていますが、時代を読み違えているのではないでしょうか?
 今まで、全原子の分子動力学計算によってたんぱく質のシミュレーションを行った研究では、2008年に発表された10μ秒間の動画描出が最長でした。これはスパコンを3ヶ月間連続稼働して得たものです。しかし、10μ秒間ではたんぱく質のフォールディングや構造変化をとらえることは難しい。こうした現象はゆっくり進みます。10μ秒間から1m秒間をシミュレーションしなくてはならないのです。今回の論文では、米D E Shaw Research社が独自に開発したANTONというスパコンを駆使しています。分子動力学計算に特化したCPUとアーキテクチャーを持つ、専用コンピュータです。従来の100倍もの長時間の分子動力学計算を可能といたしました。論文によれば、予想通り分子フォールディングや構造変異を今までの実測値と一致しており、構造変化の詳細なカイネティックスまで明らかになりました。
 この企業を率いるD E Shaw氏は世界最大のヘッジファンド(2.5兆円)を創設、大成功した富豪で、しかもコンピュータサイエンスの専門家でもあり、Clinton元大統高層ビルの2フロアをAntonで埋め尽くし、パソコンによるたんぱく質の動的な解析を実現しました。この研究資金は全て、彼のポケットマネーから出ているという噂も流れているのが、まったく小憎らしいほどです。同氏の研究に刺激を受けて、東京大学先端科学技術研究センターの児玉教授は富士通や富士フイルムなどとコンソーシアムを今年立ち上げ、専用のスパコンで抗体の分子設計に挑戦することを始めました。
 将来、たんぱく質とリガンド(医薬品などの低分子)やたんぱく質同士の動的なシミュレーションが可能となれば、医薬品産業はセレンディピティ依存の研究から、論理的な薬剤設計に変わることは避けられません。そうなると、研究者のヒラメキよりは、資金力が競争の成否を握ることになります。つまり、半導体や自動車で起こって企業などという中途半端な夢を追わず、資金力と国際的な販売網を確保するために、巨大合併を推進しなくてはならないのではないでしょうか。もう、ここまできたら余り時間は残されていないと思います。
 それではいつ頃、医薬品を全原子の分子動力学計算でデザインできるのか?今回モデルとして利用されたBPTIは58アミノ酸で構成された分子です。計算対象となる原子数の2乗で計算処理が必要となりますので、通常のたんぱく質である100アミノ酸から300アミノ酸を標的にすると、単純に計算すると今の4倍から36倍の計算能力が必要となります。水分子なども考慮に入れれば、現在の100倍程度の計算機能力があれば、こうしたたんぱく質と低分子の相互作用を分子動力学で計算することは可能となるはずです。実際には阻害剤をデザインする時には、内因性のリガンドとの競合などもシミュレーションしたいので、余裕を持って200倍程度のスパコンが必要となるかもしれません。現在ならマンハッタンのビル、400階分が必要でしょうが、毎年、スパコンは素早く、価格安く、環境にも優しくなっており、10年後には、かなりの医薬品のスクリーニングをスパコンが代替する時代となる可能性があると感じています。平行して進むであろう、システム生物学による細胞の動的シミュレーションなどと組み合わせて、細胞ベースのスクリーニングを代替することが、その次の挑戦となりそうです。
 
 先週神戸に行き、我が国のペタコンの建物が順調に出来上がりつつことを確認しました。ペタコンの使い道に悩んでいるようですが、一も二もなく、たんぱく質の全原子の動力学シミュレーションをSpring8と理研がため込んだNMR群で検証しつつ、ソフトウェアを開発するプログラムを開始しなくてはならないでしょう。勿論、ANTONに対抗する独自のハードウェアの開発も忘れてはなりません。沈みゆく我が国のコンピュータ産業に残された、最後のチャンスかもしれません。
 12月21日、品川でお会いいたしましょう。こちらの技術突破も見逃せません。
http://bio.nikkeibp.co.jp/bio/seminar/101221/
 どうぞ今週もお元気で。