早朝の雨も上がり、関東地方は快晴です。右手に白い雪を冠した富士山を見ながら、徳島に向かっております。今回は徳島のクラスターシンポの取材と、瀬戸内海を渡って神戸で行われている分子生物学会・生化学会、そして大阪で開催されるバイオセラピー学会の取材を予定しています。一種の学会ホッピングです。きっと懐かしい顔ぶれにお会いすることができるでしょう。楽しみです。
 日本は似たような学会が乱立しています。しかし、徐々にではありますが、巨大学会と小さなテーマを絞った学会・研究会に二極化しつつあると学会の展示会関係者が語ってくれました。バイオ革命によって一斉に学問の細分化が進んだ方向が、統合化に転じているのです。今さら、学閥や派閥で学術交流の場を制約して、我が国のガラパゴス化を進めても無意味です。2006年の教育基本法改正によって、我が国の大学の責務として教育、研究に加えて、社会への貢献が付け加えられました。イノベーションを通じて、社会に貢献するためには、複数の学問分野の統合や衝突が不可欠です。むしろ、学問の細分化がイノベーションの阻むという矛盾が生じているのです。来年、アンチセンス学会はDDS学会と合同年会を開催することを決定しました。治療を目的としたアンチセンス医薬の開発には核酸誘導体の化学合成だけでは、不足であるためです。決定的に重要なDDS技術と我が国がまだ比較優位を持つ核酸誘導体合成技術の出会いが、イノベーションを生み、基礎研究→イノベーション→基礎研究の健全なサイクルを廻すことを期待しています。
 このサイクルが回らないと、ひたすら国税から科学研究費を奪い合うだけの見苦しい戦いとなります。しかも、科学成果の長期的な社会への福音に対するイマジネーションを欠く仕分け人に、この足の引っ張り合いを利用されて、ばっさりと予算削減されてしまいます。世界各国で科学予算の増額競争が繰り広げられている中で、今年度、我が国の科学研究費の総額は前年割れしたことを強く認識する必要があります。我が国の科学研究費の財源を政府にだけ依存していることは極めて危険です。何しろ閣議決定した事項を平気で仕分ける政府に、継続性と先見性に富んだ投資は無理であるということです。米国では生命科学やバイオに対して10億ドルの税額還付による研究費誘導策を今年発動しました。オーストリア政府も企業の研究開発費の10%をキャッシュバックしています。また、フランス政府は臨床試験コストの半額を還付しています。民間の研究開発投資に対する減税や勧奨策を通じて、民間やNPOの資金を科学研究に投入仕組みを我が国にも、早急に作らなくてはなりません。
 さてやっと個の医療です。
 少し前のことになりますが、2010年10月21日に日本肺癌学会が「EBMの手法による肺癌治療ガイドライン(2010年版)」を発表しました。ここで初めて、上皮細胞成長因子受容体(EGFR)の突然変異を確認して、全身状況の良い患者(PS0-2)に対して、抗がん剤「イレッサ」(ゲフェニチブ)を一次医療として使用することを認めました。全身状態の悪い患者(PS3-4)に関しても、リスク・ベネフィットを十分検討してイレッサを投薬する必要があると記述した。同時にEGFRに突然変異の無い肺がん患者にはイレッサの投薬を勧奨しないことも明記しました。
 我が国が世界に先駆けて認可をしたEGFRキナーゼ阻害剤、イレッサが個の医療によって我が国でも完全に復活したことになった。イレッサは飲んで肺がんが治る奇跡の薬という加熱報道の後に、副作用死が報告され、暗転した抗がん剤です。欧米では大規模臨床試験で効能効果が示されなかったため、欧米で販売が見合わされたこともありました。しかし、その後の臨床研究(IPASS試験)で、EGFRに突然変異を持つ肺がん患者では無増悪生存期間が有意にイレッサを投与した患者で延長したのです。全生存期間ではイレッサの効果は示されませんでしたが、こうした大規模臨床試験の成果から、イレッサはEGFR突然変異を持つ肺がんの治療薬として復活したのです。
 今後、臨床試験の最初から個の医療を導入することによって、イレッサが味わった毀誉褒貶と、患者さんの副作用のリスクと治療機会の逸失を避けることができると期待しています。
 12月21日に満を持して皆さんに贈る今年最後のBTJプロフェッショナルセミナーで、ヒト万能細胞を利用した再生医療の最先端と課題を議論いたします。どうぞ奮ってご参加願います。企画した本人が言うのも何ですが、このセミナーは刺激的で今後の再生医療の方向を掴む絶好の機会です。
 今回のセミナーでは、厚労省と医薬品医療機器総合機構の担当者をお迎えし、恒例のパネルディスカッションで実用化のための最短のパスを議論したいと思っております。
 製薬企業、バイオベンチャー、医療機器企業、再生医療支援企業、医療機関、そして大学や行政機関など、再生医療の実現を担う皆さんのご参加を心から期待しています。おかげさまで残席はどんどん少なくなっております。どうぞ下記からアクセスの上、どうぞお申し込みをお急ぎ願います。
http://bio.nikkeibp.co.jp/bio/seminar/101221/
 皆さんも、今週もどうぞ御元気で。