現在京都に滞在中です。昨日の研究会で「紅葉を見に行くより、絶対ためになる」と主催社が冒頭切りだしたのには、苦笑しました。京都駅から異常な混雑で、タクシーに乗るのも大行列です。例年はこの3連休に紅葉を見ようというJRのキャンペーンは大外れして、緑の楓を楽しむはめになるのですが、今年は猛暑とその後の冷え込みで、京都で紅葉が進んでいます。
 しかし、紅葉を楽しむ時間はあるのか?市内で取材後、金澤に直行してS1P受容体ファミリーの取材です。久々の日本発大型新薬のGilenya (fingolimod)の今後の展開を占うものです。当然のことながら、こちらの取材の方が面白い。紅葉を袖に、北上いたします。
 さて、もう申し込まれましたか?おかげさまで急速に席が埋まりつつあります。12月21日午後、品川で今年最後のBTJプロフェッショナルを開催いたします。試験が米国で11月に始まったことを受け、我が国でもやっとヒトiPS細胞の臨床研究が解禁されました。我が国でもヒトES細微やヒトiPS細胞を活用した臨床研究がリアルな課題となってきたのです。今回はヒトES細胞とヒトiPS細胞の臨床応用を牽引する研究者を、京都iPS研究所、国立成育医療センター、そして慶応技術大学から招聘いたしました。また、恒例の白熱のパネルディスカッションには、厚労省の幹細胞臨床研究の担当者、そして医薬品・医療機器総合機構の生物系審査第二部の部長も参加、本気で再生医療をどうやって実現するか、周知を集めます。会場からも是非鋭いご意見をいただきたく、皆さんのご参加を心待ちにしています。詳細は下記をご参照の上、お早目にお申し込み下さい。どうぞ宜しく願います。
http://bio.nikkeibp.co.jp/bio/seminar/101221/
 さて、本日はスイスHoffman-La Roche社のリストラによって、siRNA医薬の開発に大きな波紋が起こったことをお伝えいたしましょう。
 Roche社のリストラの原因は、昨年、新型インフルエンザ騒動で大増産したタミフルの売上が、今年急速に落ち込んだためです。タミフルの変動を除くと、Roche社の売上は数%増なのですが、保健医療改革で今後の米国市場の伸びが厳しいことも加わり、大規模なリストラを敢行しました。タミフルの備蓄が一段落することは当然読めていたはずですので、今回はタミフルショックを理由に、今後、米国市場から急速に中進国へ医薬品市場の成長の中心が移行することを、見据えたリストラであると考えます。米国を中心にリストラ、欧州の製造設備なども、スイスに集中しました。今後、ここで得た原資を基に、他のビッグファーマと比べて出遅れた、インド、中国、ブラジルなどの中進国対策に乗り出すでしょう。こうなると、今までの高付加価値のバイオ医薬依存の成長は中々期待できないのが厳しい点です。ワクチンやジェネリックなどをRoche社が取り込むのか、それとも高付価値の抗体医薬企業として成長を持続させるのか?今後のRoche社の判断が見ものであると考えます。
 御近所の、スイスNovartis社がワクチンとOTC薬の売り上げ増で、激変した医薬市場環境を乗り切ろうとしています。Roche社はどうするのか?グローバルニッチ企業への夢を見ている我が国の大手製薬企業の今後の戦略変更の参考になることは間違いありません。
 但し、今回のRocheの判断が本当に妥当だったか?将来禍根を残す可能性があるのは、米Alnylam社から技術移転を受け、欧州市場の独占権を確保しながら進めていた、siRNA医薬の開発を中断したことです。本来ならばもう臨床試験に入る予定であった、siRNAの抗がん剤の開発が遅れていたことが気になっていましたが、同社はタミフルショックを前に、あっさりとsiRNAの開発プログラムを止めてしまいました。米国やドイツのsiRNA医薬開発チームはリストラされてしまいました。Alnylam社は「今回のRoche社の決断に驚いているが、収入面での影響は少ない」と記者発表しています。但し、Roche社が開発したsiRNAのパイプラインの米国での開発権を確保していたAlnylam社にとっては、中長期的に見れば成長の糧となる新薬のパイプラインが細ることは間違いありません。また、同社が欠いていた創薬標的とアッセイ系をRoche社に頼るという小判鮫戦略が発動できなくなった痛手は大きいと考えています。Roche社以前にNovartis社の共同研究終焉に伴い、今年、リストラした同社は、今頃、もっとリストラすべきだったと悔いているのかも知れません。今後、同社はこつこつとフェーズ?を進めて、siRNAの有用性をもう一度、データで持って、ビッグファーマに示す地味な仕事を続けなくてはなりません。
 Roche社がsiRNA医薬開発を中断した原因はまだ良く分かっていません。免疫誘導反応を避けえなかったとか、DDSが充分でなかった、などいろいろ噂されています。まあ、抗体医薬よりはリスクも投資も大きくなることは確実でです。抗体医薬よりもコストが安く、また作用も強いため、抗体医薬を代替するというsiRNA医薬の当初の期待がそうは簡単に実現できないという判断かも知れません。
 これによって、Roche社は抗体医薬と低分子の標的薬、そして診断薬に注力することになります。しかし、siRNAを完全に見切ったと思うのは早計です。多分、本当に医薬品になるsiRNA医薬が開発されたら、躊躇うことなく、大枚を叩いてまた、導入するか、Alnylam社を買収すると思います。問題は、Alnylam社の株式の15%をNovartis社が保有していること。むしろ、NovaRoche社となる道を選択するかも知れません。
 しかし、持続可能な成長というのは難しいものです。昨年、タミフルで笑ったRoche社が、未来の重要な成長基盤であるsiRNA医薬開発を断念せざるを得ないとは。変化への対応が、ビジネスの本質であると痛感いたしました。
 どうぞ今週もお元気で。